表情 【表彰】
テレビの中に惨劇が映る。
その中に、僕の姿もあった。
「もう見ないほうがいいわよ」
母親がテレビの電源を消す。
そして僕の前に座ると笑みのような、悲しみのような表情を見せてタメ息をついた。
「巽がここにいるのは、連のおかげなのかもしれないわね」
頭の中に、あのときに見た女性の微笑を思い出す。
全てを受け入れたような笑顔だった。
ああいうのを、天使と呼ぶべきではないだろうか。
僕は生きることを選んでしまった。
現実らしい現実をこの目に焼き付けるために、生きることを選んだ。
横にある新聞にも僕の顔が載っている。
彼女の笑顔によって勇気付けられた誇らしげな二つの目がある。
大きなマスクで口元は隠れているが、そこにはきっと彼女と同じ笑みがあると信じている。
あの時の、彼女の手の暖かさを僕は一生忘れないだろう。
結局僕も、絶望しかないと思っていた中に、生への執着をしっかり握り締めていたのだ。
* *
「あなたは生きたほうがいいわね」
駆け寄った僕に、彼女は言った。
殺伐とした車内で、彼女の声だけがすんなりと耳に入る。
手に持った白いマスクを彼女はゆっくりと僕の手の中に押し込んだ。
最後に微笑んだ彼女の顔は、いつまでも僕の頭に焼き付いていた。
* *
僕は
連の言葉と
暢志の茶色いブレスレット、
そして彼女の笑顔という生きる糧を胸に真実を探し続けるだろう。
失った悲しみと共に、生まれる暖かいモノもあると知ることが出来たから。