序章 【助走】
高校生の時、授業の課題で書いたとは思えないくらい人が死にます。
何を考えてたんだ、と呆れるくらい無茶ぶり。
とにかく、速度を出したかった。
タイトルの通り、全力疾走なお話です。
・・・最後くらい、静かに出来ないものだろうか。
僕は、喧騒の巻き起こるこの狭い箱の中で、ただ目の前に与えられた現実だけを抜き取って眺めた。
人間という与えられた生物にとどまり、僕は僕として生きるしかなかった、
それが義務であり、それを遂行してやっと、喜びや悲しみなどをの感情を求める権利を得られる。
人間はみな、何かに導かれて生きているのではないだろうか。
こうして生を求める争いの中で、人間は本能というレールに支配されている。
僕もそれを傍観するに当たって、何かに支配されているのだろう。
だとすれば、何だ?
現実感のない現実に対する疲れと、あまりに現実感の溢れた現実への恐怖だろうか。
それは利己心にしか過ぎない。
僕は、僕という人間を理性的であると飾っている。
この状況下で何を言ってももう無駄だ。
僕が本当に純粋な人間であろうが、貪欲な人間だろうがもう何も関係ない。
「坊主、どけ!」
頭部に衝撃を受け、青い布で覆われた椅子の上に横になる。
頭がズキズキと痛んだ。
僕のもと居た場所では、背広を着た中年の男性が一生懸命に窓を叩いている。
「・・・割れないよ」
僕が横に倒れたまま言った。口に鉄の味がする。
この男に突き飛ばされた際に、こめかみを切ったらしい。
一筋の血液が頬を伝おうとしていた。
「もうどうにもならないんだ、静かにしてなよ」
僕の冷めた瞳を覗きこんで、彼は叫び声をあげた。
・・・狂気。
荒れ切った車内に、彼の激しい声が木霊する。
僕はそれをどこか優越感に浸りながら眺めていた。
全てを悟っていると、自分で過信していたのかもしれない。
―――自分の求めていた、狂気の世界。