第2集 自動調理家電
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自動調理家電は全自動の調理器だ。四角い箱がいつでも美味しい食事を提供する時代になって久しい。ただ、人々はいつでも美味しい味に飽きてしまい、最近は「素人っぽい」が味のトレンドだ。だからといって、パンケーキが半分焦げているのは、いかがなものか。
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パートナーが広告をスマホで見せてくる。
『一家に一台自動調理! 貴方の家にも三つ星を。スマホ一つで楽々、料理。食材管理も冷蔵機能で不要です』
「友達も買ってたから買ってもいい?」
「掃除も洗濯も全自動だろ。料理くらい手料理にしないか?」
「大丈夫。包丁切りも再現、手料理風モード搭載だって!」
…余計な機能付けすぎだろう。
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『今朝のニュースです。フードテクニックロスが問題化』自動調理家電の普及により、料理作れない世帯が70%に。専門家は調理文化の形骸化を懸念。家電によるおうちレストランが外食産業に大打撃。打開策として手作りを売りにする店舗が急増しました。ある…』
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「今も昔も一緒ですねぇ」フードテクニックロスのニュースを見ていたばぁさんがベットで呟く。ワシはその横で目を細めスマホを操作する。『朝食セット。柔らかめ』これでええか。『できあがりました』とキッチンで機械の声がする。『男子厨房に立つべからず』だった時代のわしもスマホで料理するとはな。
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半世紀前、国産と偽って海外の肉でステーキを焼いていたチェーン店が潰れた。そして現在、『職人が手焼き厚切りステーキ』を謳った店が潰れてしまった。『手作り』を謳いつつ自動調理だったのが問題だったらしい。『手作り詐称』で店が潰れる時代になってしまった。
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自動調理に飽きたので、たまには外食しようと家族で洋食店へ出かけた。オープンキッチンの周囲を囲む丸テーブル。手際よく鍋に食材を入れ、湯煎し、盛り付ける、滑らかな料理人の手捌き。
店内の客が物珍しそうに凝視している。旧世代は料理するもの大変だったんだな…と思っていると『自称手料理』で育った祖母が呟く「なんだレトルトカレーじゃないか」