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小野小町伝説

作者: 零築

 青々とした池に自分の顔が反射して女は少し気分が悪くなった。辺りには田んぼしかないド田舎。ここは昔、美人として評判だった小野小町が身投げしたという話のある場所だ。いつの時代も有名人には逸話が付き纏うもので、実際この池には小町の霊が存在していてそこに願うと容姿が良くなるという伝説が生まれていた。しかし、それは有名でないのか女の他に人はいなかった。

「あぁ小町様、もし聞こえていましたらこの私の醜い容姿を美しく変えて下さい」

 女が一人涙声をあげながら池をのぞき込む。余程容姿がコンプレックスなのだろうか。なりふり構わず声をあげていた。

「そなたか。我を呼ぶものは」

 その声に呼応して、急に周囲が暗くなり池から光が溢れ出してきた。まるで西欧の精霊のような現れ方に女は驚き後ろに倒れる。しかし、肝心な小町の姿はどこにも見えない。

「小町様、そこにいらしているのですか」

 女は立ち上がり叫んだ。風が吹いて水面が揺れる。

「我はおるぞ。しかし、お主に我は見えないだろう。当の昔に死んだ我とそなたとでは住む世界が違っているからな」

 小町は答える。その声は透明感のある綺麗なものだった。

「住む世界?」

「我は未練だけで霊体として現世に残っているだけだ。霊と人では世界が異なる」

「それでは」

「あぁ、お主の願いに応えることは不可能だ」

「そんな……」

 女はうなだれた。何とかする方法がないのか小町に尋ねる。

「我がお主の身体にとりつく形であれば、お主の願いを叶えられるが……」

 小町は悩むような声色で言う。その様はどこか怪しい雰囲気を纏っているように見えた。

「何でもいいです。私は美人になりたい!」

「そうか……」

 刹那、小町は女の身体を乗っ取った。女の魂が宙に抜け出し光となる。

「やっと身体を手に入れられた。感謝する女」

 小町は光に笑顔を向けた。女は何が何だか分からないようである。

「どういうこと」

 しかし質問した時には、もうそこに小町はいなかった。強風の吹き荒れる中、女の魂は池に取り残された。



 その後、小町は女の記憶を頼りにその故郷に帰るとその女として振舞い一生を終えたという。あの場所は、魂の眠る場所であったのだ。小町も過去の小町に騙されて身体を奪われた存在である。騙し騙され身体を取り合いこのようにして平安の昔から今に至るまであの場所では争いが繰り広げられていた。そうとも知らずに騙される存在がまたいつか現れるのであろう。美人になりたいという欲は非常に大きな代償を生み出す。


ご視聴ありがとうございました。閃いて5分で書いた単発ネタです。

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