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初めての依頼

「それじゃ、さっそく取り掛かりましょう」


 占いに使うタローカードは失くなってしまったけれど、物探し(ロケートオブジェクト)のわざはタローでなくてもできる。わたしはパワーストーンを収めた宝石箱から水晶(クリスタル)のダウジングペンデュラムを取り出してきた。


 力の強いパワーストーンたちは置く場所をちゃんとしないとお互いケンカしてしまうから、先にこれだけ持ってきていて良かった。育て始めていたタローが盗まれたのは悲しいけど、次に出会うタローはちゃんと育ててあげたいなぁ。


 でも今は、わざに集中しなくちゃ。まずはトールさんに、探す指輪のことを詳しく聞く。心当たりがないか、どこから探し始めるのかを決めるために。


「伯母は家の中で失くした、思います。洗い物をしていたとき外して、そのまま、病院運ばれた。そのときは指輪、絶対していなかったと。だから僕、家の中探しました。排水管取り外した。でも、なかった」

「確かに、水仕事のときには指輪を外して作業しますもんね」


 トールさんはしょんぼりしていた。排水管まで探したのに見つからないんだから、ガッカリするのもしょうがない。


「勘違いかもしれないですし、家の中すべて見て回りましょう。いいですか?」

「もちろん。お願いします。中になかったら……下水かもしれない」


 そうなっていたらわたしにはお手上げなので、そうじゃないことを祈ろう。上から順に部屋を巡る。入り口でペンデュラムを掲げて反応を見る。中にも入って詳しく調べたけれど、どこも反応がなかった。


 でも一箇所、アンおばさんが言っていた心当りの手洗い場でペンデュラムが反応した。銀鎖から逆さまに吊るしたコーン型の水晶が、尖った部分でくるくると円を描いている。


「ここは……もう、探しました。何度も」


 トールさんに頷いて、わたしは手洗い場をよく観察してみた。白タイルで装飾された洗面台には真っ白いボゥルが嵌っている。


 アンおばさんの指輪は亡き婚約者から貰ったもので、紫水晶(アメシスト)がついたごく一般的な型だそう。水が抜ける穴はそんなに大きいとは感じなかったけれど、指輪が小さいと石がついていても角度によっては落ちてしまうかもしれない。


 よく磨かれた鏡、歯ブラシスタンドを置くスペース、石鹸皿(ソープディッシュ)が二つ……。


「トールさん、この石鹸皿、大きな石鹸と少し小さな石鹸が置いてありますね。大きな石鹸は使い始めたばかりみたい」

「そうです。大きな方は僕ので、小さな方は元々あったもの」

「そうですか」


 こっちの家人用洗面台に来るのは初めてだったから、最初は違和感に気づけなかった。洗面台の下を(あらた)めたり、戸棚の中を覗いたりして、諦めて戻ろうとしたときにハッと気づいた。


「トールさん、つい二日前に帝都からこっちに来たんでしたよね? この新しい石鹸は、もしかして、シェービング用ですか」

「そうです。普通の石鹸と違います」

「じゃあ、石鹸皿はどこから持ってきましたか? アンおばさんと会って話をしたのは、病院に運ばれた後だったんですよね」

「そうです。お皿、最初から二つありました。大きいのと、小さいの。僕、大きな皿に自分の石鹸を置いた」

「それは、元からあった石鹸を小さい方に移してからだったんじゃありませんか」


 わたしは使い込まれた小さめの石鹸を取り上げて、その裏を確認した。


「あっ!」


 トールさんが驚いた声を上げる。そう、わたしの予想通り、石鹸には紫水晶の嵌った指輪がめり込んでいた。


「これ、伯母の指輪です! すごい! なぜわかったんですか!」

「ただ石鹸を置くだけなら、石鹸皿を二つも用意する必要はないですから、一つは指輪置きだと思ったんです。台所にはなかったから、きっと、何かするときにはここに置きに来ていたんだわ。その方が失くしづらいから」


 トールさんはわたしにはわからない言葉で叫ぶと、わたしをぎゅっと抱きしめた。


「と、トールさん」

「ああ、すみません。喜びのあまり。失礼しました、そして、本当にありがとう。伯母、喜びます!」

「ええ、きっと。わたしもよかった、指輪が見つかって」

「さっそく磨きに出します。いえ、まずは病院に……」


 トールさんがいそいそと外套を掴んで玄関を開いたとき、カラスの大きな叫び声がした。


「危ない!」


 大きく羽を広げたカラスは、驚くトールさんの顔の前で止まった。伸ばした手でトールさんのニットベストを掴んで引っ張る。


 でも、カラスは器用に空中に留まったまま、くわえていたキラッと光る何かをわたしたちに向かって差し出してきた。


「石、でしょうか」

「あっ! これ、わたし見たことあります。おばあちゃんが大切にしているお守り(アミュレット)についているのと同じ」


 カラスは金の台座に不透明の赤い石が嵌った守り石をわたしの掌に置くと飛び去っていった。


「これ、きっと血石(ブラッドストーン)だわ。赤いけど、深緑の部分があるもの」

「お守りになる?」

「ええ。でも、どうして? 誰からのものかしら」


 わたしが守り石を弱くなった午後の日差しに翳していると、トールさんが言った。


「これはきっと、あなたが認められた証です。十の仕事、一つこなした」

「えっ! じゃあ、魔女協会からわたしへの、合格メダルのようなもの、なんでしょうか。無事に十の依頼をクリアしたら、これが十揃ったら、わたしは魔女になれるんでしょうか」


 おばあちゃんも大切にしていた守り石、その輝きがさっきより特別なものに思えた。

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