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ごめんあそばせ

 城に到着すると、私たちはなぜか宮廷ではなく、外の広場に行くよう指示された。


「申し訳ありませぬ。宮廷内へのご入城は、国王陛下から直々に、まずは神官たちに、ウロコを検分させてからとおおせられまして」


 気の毒そうに言うのは、部下を率いて私たちを広場に誘導した、ライジェル将軍だった。


「いいのよ、あなたのせいじゃないわ」

「俺たちが本当にグレイト・バーミンを倒したってことを、信じていないんだろうな。国王も、他の王族も」


 げんなりしたように、バーミリオンが言う。


「ウロコを持ち帰られたのですから、じきにわかりますでしょう。それまで、どうかご辛抱されてください」


 ライジェル将軍は、丁寧に、腰の低い態度で言うが、本人も部下たちも、きちっと戦闘用の服を身に着けていた。


 そして私たちを取り囲むようにして、待機している。


「彼らを怒る気にはならないけど、いつまで突っ立ってればいいのかしら」


 ふくれる私に、ライムは宮廷から、広場に繋がる道を指差した。


「さほど待たなくていいようだぞ。国王陛下と、お付きのものたちのお出ましだ」


 そちらに顔を向けると、広い宮廷内を移動するための、豪華だけれど小さい馬車と、馬や徒歩のお付きのものたちの姿が見える。


 将軍とその部下は、コの字型に隊列を作って腰を低くし、その真ん中に私たちが立った状態で、国王を待った。


「国王陛下、おなりにございます」


 小姓が言うと、馬車からもったいつけて、国王が降りてくる。


 その背後には、高位の王族と、神官らしき風体のものたちも、ぞろぞろとついてきた。


「ご苦労であった、みなのもの」


 はっ、と私たちも片膝をつき、国王を迎える。

 私は嫌だったのだが、ライムに頭を押されて、仕方なく従った。


「さて。このウロコだが。驚くべきことに、本当にグレイト・バーミンのものであった。どこから来たのかたどる魔力を使えるものが、しっかりと認めた」


(へえ。そんな魔力もあるのね。探し物をするときに、便利そう)


 しかし、と国王は続ける。


「正直、とてもにわかには信じられぬ。何人もの王族が、これまであの化け物に食い殺されてきたのだ。剣技の巧みなもの、知恵のあるもの、薬使い、誰もがたちうちできなかったものを、お前たちはどのようにして退治できたのか」

「しかも全員が無傷とは。とても信じられませぬ」


 横から王族のひとりが、不信感をあらわにして口を出す。


「ウロコだけ落ちていて、逃げてきたのでは?」

「いや、そう簡単に落ちるものではないと」

「実際に見たものはいないのだから、わからないではありませぬか」

「ちょっと、あんたたちさあ」


 私はいらいらしてきて立ち上がり、一歩前へ出た。


「ずいぶんと、言いたい放題ね。私たちがおとなしく餌にならなかったのが、そんなに面白くないの?」


「ロビン。ひかえよ。目上のものに対して、無礼であるぞ」


 重々しい声で、国王が言う。

 私はその叱責を、鼻で笑った。


「あら、ごめんあそばせ。親からしつけをされていないので」


「いくら王女殿下でも、陛下に対して不敬であろう」

「このような連中に、歴代の王族が倒せなかった怪物が、退治できたとは思えませぬ」

「やはり嘘いつわりを」

「国王陛下に嘘をもうしたとなれば、いかに王家の血を引くとはいえ処罰はまぬがれ……」

「ええい、面倒くさい!」


 ザッ、と進み出たのは、いつもならば私を止める立場の、ライムだった。


「信じられぬならば、見ればよい。ロビン、手を」

「俺がやろうか。こいつらごと、全部まとめて」


 バーミリオンがニヤリと笑って言ったが、ライムも笑って首を横に振った。


「お前では、後片付けが大変になる」

「ライム。やって」


 私が右手を出すと、ライムが左手できゅっと握った。

 そしてライムは後ろを振り向き、ライジェルたちに向かって言う。


「場所をあけよ! 巻き添えを食っても知らんぞ」


 はしくれとはいえ、王族の命令とあって、さっと兵士たちは左右に別れる。


 その間に向けて、ライムが右手をかざした、瞬間。


 ドオッ! と針のような細かい氷柱が、激しい突風のように庭樹を襲った。


 うわああ! おおお! という驚愕と感嘆の声が、兵士や王族たちの口から漏れる。


「ななな、なんだ、今のは!」

「まるで氷柱の竜巻のような」

「こっ、公爵閣下も確か、雪を降らせられましたよね」

「冗談ではないっ、あっ、あのような異常なほどの魔力は、私にはないぞ!」

「こうまで強力な魔力は、初めて見ましたわ。……こ、怖いくらい」


「ライム。お、お前は。いつの間に、あのようなことを!」


 目を見開いている国王に、淡々とライムは説明した。


「洞窟にて、それぞれ四人に発動した力です。この力を得た後には、いともたやすくグレイト・バーミンを倒すことができました」

「それぞれ四人に、だと」


 国王はぎょっとした顔になり、神官たちを見る。

 神官たちもまた、なにか思い当たったという顔をしていた。


「お前たちは、どう思う。直々に意見することを許す、言ってみよ」

「お……恐れながら、国王陛下。四人、というのが気にかかります。伝説の四宝の話がありますゆえ」


 ひとりの神官が言ったとき、もうひとりの、それより位が上らしい、白髭をたくわえた神官が叫んだ。


「そっ、その手! 手の甲をお見せ下され!」


 神官はこちらにかけ寄ってきて、私たちの右手に目を凝らした。


「これのこと?」


 私は言って、手の甲にできた虹色の、小さな石のようになっている部分を見せた。


「不思議と固い感じはしませんね」

「うん。だから痛くはない」

「しかしこのこぶしで殴ったら、相手は痛いかもしれないな」


 言いながら三人も、それぞれ手の甲を神官のほうに向ける。


「ああああ! 陛下、陛下! これは」


 悲鳴のような声で言って、神官は腰を抜かしてへたり込む。


「まさしく、伝説の生体魔石の四宝!」


 なんだと! と国王は目をむいた。


「本当にこれであるのか? 間違いではないか?」

「く、詳しい文献は、確か図書の館の、地下の巻物に」

「先ほどの、ライム王女殿下の魔力が、なによりの証拠かと」

「わっ、わたくしもよく見たいですわ」


 神官と高位の王族たちが、わらわらと寄って来て私たちの手に注目する。


「もういいだろう。こちらは疲れているんだ」


 この状況に、すでにうんざりしているらしきバーミリオンが、手を引っ込めた。


「とにかく、グレイト・バーミンは俺たちが片付けた。神官でも兵士でも、洞窟の中に化け物がいるかいないかくらいは、行って確かめられるだろう。それまで俺たちは、逃げたりしない。食って寝て待っている」

「私もお腹がすいたあ。疲れちゃったもん」


 愚痴りながら、私たちは宮廷の、自分たちの部屋に戻ろうと歩き出す。


「おっ、お待ちください。そういうことであれば、まだ、お話が」

「そ、そうであった。伝説の魔石を持つ方々であれば、きっと解決できるやも」

「国王陛下。あの件を彼らに」

「……う、うむ。そうであったな」


 なんだろう、と私たちは眉を寄せる。


「まさか、すでに我々の部屋が処分された、ということはないでしょうね?」


 カレントが尋ねると、神官は首を横に振った。


「いっ、いえ、まだそれは」

「まだって、なによ。近いうちに片付けちゃうつもりだったんだ? そうよね、私たちは餌になって食べられて、戻ってこない予定だったんですもんね」


 ふん、と私は鼻を鳴らして言う。


「か、かつて、そのような前例が、なかったものですから。しかし、ともかくみなさまの御部屋はそのままになっております」

「あっそう。じゃあ行くわ」

「ですから、それとは別に、お話が」

「いったいなんだ。早く言え」


 苛立ったように、ライムが厳しい声と表情で言う。


 すると、神官を押しのけるようにして、国王が前へ出た。


「実は。バーナヒム島へ向かった四人が、まだ戻ってきていないのだ」


 ああ、と私は思い出した。


「私たち、『高貴な無益』と違う、選ばれし名誉ある『王宮の尊い花』の四人ね」


 バーミリオンが、皮肉そうに言う。


「あいつら、どこかの宿にでも泊まって、のんびり遊んでいるんじゃないのか」

「いや、僕たちと違って、そんなに不真面目ではないと思いますよ」


 カレントがたしなめる。


「けど戻ってきたら華々しい凱旋パレードと、祝賀会だろ。俺たちみたいに、逃げ出したくなる理由もない。ということは、本人たちの意志で戻ってこないんだろう」

「戻りたくとも、戻ってこれない、という可能性でもあるのですか」


 ライムが真剣な目をして、国王に問う。

 国王は白い眉を寄せ、深刻な顔でうなずいた。


「バーナヒム島に向かった四人のうちブライアン王子は、水晶玉を通して、意志や状況を伝達できる」

「存じています。魔力の披露会のとき、拝見しました」


 ライムが言うと、国王はうなずく。


「そのブライアンが、水晶玉を通し、神官の水晶玉に送ってきた状況。それは、わしらが知っている祈りの島とは、まるで違う。呪われ、木々は腐り、怪物がうろつく、化け物の島と化していた」

「へー。大変ね」


 私はライムのように敬語を使う気にもならず、本音を言った。


「でも平気でしょ。なにしろ王国の誇る素晴らしい『王宮の尊い花』だし。私たちみたいに、弱点もなければ散々に人を食い殺してきた怪物と戦う、ってわけでもないんだから」


「いや、それが、水晶玉に映った化け物は、これまで見たこともないようなものだったのだ。ブライアンなどは、もう帰りたいと泣いておった」

「私たちには関係ないわ」


 もう行こう、とライムたちをうながすと、国王は走って来て、私たちの前へと回った。


 私はぐいと、あごを上げる。


「どいて! 邪魔よ」

「そ、そうはいかん! こ、このとおりだ、わしが悪かった!」


 次にとった国王の行動に、さすがに私もぎょっとする。


 国王は、私たち四人の前に、ひざまずいた。


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