暗証番号
母は言った。
「平日は三時間、十分前コールありにしようと思う」
先日、息子に買ったゲームの使用時間に関してである。
「え〜、ずっとやったっていいじゃん」
「いいか、母さんだってやりたい。しかーし、お金を稼ぐ仕事と家の仕事がある!働かなくていいなら、母さんだってずっとゲームしたい」
「……………うっ」
この家、母も父もゲームはやる。
ゲーム以外にもやることは多いので、ずっとやっていられる訳ではないが。
昔、一度その言葉通りに母が仕事をやらなかったことがあり、何も言えない息子である。
「まあ、そういうな。リアルタイムのゲームのために昼間だけしかダメ〜ってわけじゃないし」
父が母の援護をして言う。
「そりゃそうだけど」
「休みの日は様子見ながら決めるから、無制限もあるかもな」
そんな感じで、ゲーム機で遊べる時間が決まり設定をされたある日(休日)――。
平日も無制限にゲームをやりたい息子は、設定を解除してやろうと、暗証番号の解除に挑む。
チャンスは三回。
四回目を失敗すれば親の携帯電話に連絡がいく。
それは避けなければならない。
いざ、勝負!
「どうせ単純な母さんのことだから、俺の誕生日だろ」
入力。
――暗証番号が違います。
「ふっ、確かにこれ以上ないほど愛しい我が子だが、愛されてると過信しすぎだ、我が息子よ」
ソファの裏からカッコつけた父が現れた。
「あなたがそんなことするなんて、母さん悲しい。ぐすん」
泣き真似をした母が現れた。
「じゃあ、母さんの誕生日」
入力。
――暗証番号が違います。
「そんなわかりやすいものにするとでも?」
母がキメ顔をする。
「父さんのは?」
入力。
――暗証番号番号が違います。
「母さんが父さんの誕生日なんかにするわけないだろ!」
なぜだろう。全て外れた上でこうもからかわれると、謎の悔しさが込み上げてくる。
ラスト一回。
思いつかないので、秘密のパスワードを選んで見る。
――昔飼っていたペットの名前を入力してください。
両親には見えてないので、駄目元で尋ねてみる。
「昔飼ってたペットの名前は?」
「ペット?母さんはせいぜい金魚ね」
「父さんは?」
「飼ったことはねぇ‼︎」
じゃあ、なんでこの質問なんだよ!
「金魚って名前つけてた?」
「いいえ。つけてない、つけてなかったはず」
いや、ほんとこの質問にした意味がわからない。
「ゲームの前に話をしようか」
ゲーム機が取り上げられる。
設定は解除できずに終わり、緊急家族会議が開かれ、小学校を卒業するまではこの設定のままになった。
学校生活や勉強の頑張り次第で、ゲームの使用時間は伸びたり縮んだりすると、ルールが増えたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
実際は十分前コールとかあるのでしょうか?