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第8話 化け物

 環奈達が学校へと向かってすぐに秋は寝室に戻って作業を始める。あと少しで完成しそうなそれを今日で完成させるために。


 特にする事もないミクはただその様子を眺め続けていた。

 アッシュと共に学校へと向かうつもりだったのだが、小学生にしか見えない少女を、しかも妖怪を連れていけるわけがなく、このように留守番をすることになっている。

 その気になれば普通の人間から視認されなくすることは可能なのだが、本来の力を失っているミクではそれも数十分が限界と言う程度であり、一日中アッシュに付きまとうのは無理があったのだ。


「のぅ、固有能力のおかげで魔力も妖力も使えると言う話であったが、結局お主は人間なのか? それとも魔物か? 妖怪なのか?」


「さぁ、なんなんだろうな。産まれた時は間違いなく人間だったけど、最初に魔物を喰ってから人間じゃなくなってしまったみたいだからな」


「なぜそう言い切れる。見た目は人間そのものではないか。もしかして魔物を喰らった瞬間にそうなってしまったと直感でもしたのかえ?」


「妖怪ならばもしかしてと思ったが、そうか。やっぱり地球で生まれた生命体は例外なく見れないのか……」


「なんの話だ?」


「お前、ゲームの知識はあるか? ……いや、あるわけないか。よしちょっと来い。ゲームをしよう」


 作業の手を止めて秋はミクを連れて寝室を出る。この屋敷でゲーム機が設置されているのは居間だけなので、そこへと移動して、大きなテレビに据え付けられたゲーム機の電源を入れる。


「ほぅ、これが道行く若い人間達が度々話していたげーむとやらか。……それで、なぜいきなりげーむなどと?」


「説明するにはこれが一番分かりやすいだろうと思ってな」


 コントローラーを操作してゲームを。

 ロゴが画面に表示され、ゲームのタイトルが表示される。続きから始めるを選択して、主人公と風景が映し出されるが、スティックを倒して移動することはない。

 秋はまずプラスボタンを押してメニューを開き、そこからステータスを開く。


 キャラクターの名前とレベル、次のレベルに上がるために必要な経験値、HP、MP、物理攻撃に物理防御、魔法攻撃や魔法防御などの数値が表示される。


「なにやらごちゃごちゃしておるのぅ。ふむん、恐らくだが、これはお主が操作する絵の強さをお主らが把握するための絵じゃな? これを使って何を説明するつもりだ?」


「異世界人には自分の強さを、この画面に表示されている『ステータス』と言うもので知る力があるんだ。異世界が地球と融合する前に異世界へ行ったことがある俺にもこの力は備わっている。そして、そのステータスに表記されている俺の種族欄に『人間』の文字ではなく『異質同体(キメラ)人間』の文字があった」


「……だからお主は自分が何者なのか分からないと……ふむん、俄には信じがたいが、世界が異世界と一体化するなどと言う珍事が発生した今、もはや何にでも想定外の可能性があるからのぅ。例えば、イルカに居るか? と呼び掛けたら「居るよ」と返事が帰ってきそうでもあるし、一人でに布団が吹っ飛んだりするやも知れぬ。……うむ、取り敢えずは信じてみよう。嘘であったとしたって儂には何の害もあるまいよ」


 そう、自分や他人のステータスを見る力は異世界人にしか備わっておらず、地球人には自分や他人のステータスを知る術はない。それに似たような能力を持っている者はいるが、やはりステータスに比べると情報が少ない。


 ならばどうやって自分に異能力があると知ったのかと言われれば、ステータスほどではなくとも、自分の力をある程度把握することができるからだ。ある日突然自分にはこれとこれとこれができるのだと理解するのである。

 ……目に見えず、自分の記憶にしか残らないために記憶喪失などになってしまえばもはや何もできなくなってしまう。なので、最近では記憶喪失になった人間の記憶を取り戻そうとする者が増えてきているのだが、それは良いだろう。


「まぁ何にしろ、お主はお主よ。お主が人間らしく生きたなら人間、化け物らしく生きたなら化け物、自分に都合よく使い分けるがいい。……それより、のぅのぅ、儂にもやらせてくれんか、げーむとやらを!」


 目を輝かせてコントローラーを見つめるミクにコントローラーを手渡してから寝室に戻り、秋は考え込む。


 自分の生き様を振り返っても、結局自分が何者なのかが分からなかった。


 人間らしく幸せを追い求めて生きもしたが、世界を喰らうなどと言う化け物そのものな行動もした。

 他人からの評価などは分かりやすいが、所詮自分は自分でしかなく、他人からの評価がそのままの自分になるわけではない。


 だから自分が人間なのか化け物なのかは自分が決めるしかないのだが、言ってしまえば自分が人間でも化け物でもどちらでも良かった。


 ただ、自分が何者なのかが分からないから気になるだけで、自分が人間か化け物なのかは、もうどうでも良かった。幸せに生きている自分がここにいるのだから。





■□■□





 青く晴れた空の下、もったいなくも教室で教師の授業に耳を傾けているだけ。こんな日は外で思い切り父と勝負をしていたかった。それができないのなら、せめて体育で体を動かしたかったが、生憎と今日は体育の授業はない。


 遊び回りたくて疼く体を必死に抑えながら環奈は窓から空を見上げる。

 そこに映るのは飛行機でも雲でもなく、荒野の魔物を討伐しに行くヴァルキリーと呼ばれる種族の集団。胡麻粒ほども見えないが、あの動きはそうだ。


 荒野とは二十年前の戦争で壊滅して、未だに人の手で復興されていない瓦礫と残骸の街で、復興されない理由はモンスターの大量発生が原因だ。


 怒り憎しみ悲しみ、それらの負の感情に引き寄せられた邪悪なモンスターが跋扈しているので、魔物と妖怪の割合で言えば妖怪の方が多い。

 妖怪とは人を喰らう他にも、人の負の感情を糧として生きているので、大きな争いの残骸が広がる場所によく出没するのだ。しかも負の感情の残滓を啜って生きているので強力な個体に成長してしまうことが多い。

 魔物の方はと言えば、単純に異世界側の大地から流れ込んで来たものや、自然に湧いたものばかりだ。戦場になるぐらいなのだから異世界の大地と近いのは当然で、魔物が流れ込んで来るのは別におかしいことじゃない。


 ちなみに、荒野のモンスターを討伐するのはヴァルキリーだけでなく、異能力を扱える地球人や、戦争に負い目を感じている異世界人などもだ。


 基本的に強力な異能力を持っている者は強制と言っても良いほど強引に徴集させられ、荒野の掃除をやらされている。

 そうしなければならないほどに荒野の掃除の人手は足りておらず、異能力者は危険だから多くはいらないなどと言っている場合ではないのだが、将来的な安寧を考えれば正しい判断とも言える。


 飛び去るヴァルキリーを見てふと、あたしも将来は荒野掃除をやらされるのかな、と考えてしまうが、危険な場所に毎日毎日赴いて、自分の身を削りながら働くなどごめんだった。なら他に何かやりたい事があるのかと言われれば、将来の夢と呼べる夢は何もない。強いて言うなら、父が立ち上げた会社で働こうかなと考えてるぐらいだ。どこの誰とも知れない人間の会社で働くぐらいならそうしたかった。

 ……だがまぁ、大人になるまでに荒野掃除が終わらなければ、自分も徴集されてモンスター退治に奔走することになってしまうのだから、早く殲滅して欲しいと切に願うばかりだった。


 そんな事を考えたからバチが当たったのだろうか。

 雲一つない空が明滅したかと思えば、耳を擘くような轟音が轟いた。空に浮かぶ胡麻粒は、空を真横に走る雷に撃たれて消滅した。

 普段耳にする雷よりも特別大きい雷鳴を聞いただけのクラスメイトは「きゃー!」「通り雨か?」などと悲鳴を上げたりざわめいたりしているが、環奈だけは冷や汗を流していた。


 雲のない空に雷が真横に走り、ヴァルキリーを消滅させた。そんな異常な光景を目にしておきながら正気でいられるわけがない。

 あれ以降雷鳴が轟かないのを見るに、ヴァルキリーを狙って意図的に放たれたものだと推測する。


 なら誰が? そんなこと考えずとも分かる。モンスターだ。魔物か妖怪かは分からないが、街中か荒野かにいるモンスターだろう。けど、荒野にいる魔物の仕業などとは思いたくなかった。

 この街が平和であるように、付近に荒野は存在せず、最寄りの荒野まではかなりの距離がある。そんなところから、胡麻粒のようにしか見えなかったヴァルキリーを消滅させたなど考えたくなかった。


 だけど、不安を煽る警報を耳にすれば嫌な予感の接近を感じずにはいられなかった。


 悲鳴とざわめきは質を変える。クラスメイトを纏めようと数学の教師が大声を上げるが、もはや無意味。雷鳴の後に響く警報に完全に恐慌状態に陥ってしまっている。


 環奈は驚いた。確かに雷鳴は大きくて自分もビクッと震えてしまった、警報は不愉快なほどに不安を煽っている。だけど、わーわーきゃーきゃーと叫び狂うほどのものだったかと。


 周囲の人間が激しく取り乱しているのを認識すると不思議と自分の頭が冴えてきた。

 今回の一件は十中八九、化け物の行進(モンスターパレード)と呼ばれる、モンスターが凱旋するかの如く各地に出現して暴れ狂う、とても迷惑な現象だろう。

 だけど、これは自然発生のモンスターパレードではなく、あの雷を迸らせた何者かによる人為的なもの。……推測と言うよりも、妄想に近いその考えは強ち間違いじゃない気がした。


 気は進まないが、ちょうど良かった。

 本当に自分の異能力が自分から攻めるのに向いていないのかどうかを確かめよう。危険だからとアリティージ山での実戦では一度も使う事が許されなかったが、今回のような異例であれば仕方ないだろう。


「緊急時には学生であろうとも自主的に立候補した者なら戦地へ赴かせても良い、って聞いてたんだけどこの様子じゃあ無理そうかな……生徒の自主性がないって他の先生にお小言言われちゃうかな……いや、それは担任の問題だって言えば大丈夫かな……?」


 バーコードのような頭頂部に教室の証明を当てながら、小太りの数学教師はハンカチで汗を拭いながら呟く。幸いその呟きは教室内の喧騒に掻き消されて誰にも届くことはなかった。


「あの先生、あたし行きます」


「え? 行くって……モンスターパレードを食い止めにかな?」


「はい、逃げ遅れた街の人達が心配ですし、それに、今回の一件は将来のための勉強にもなるでしょうし、良い機会だと思うんです」


「……えぇと久遠環奈さん、かな……能力は……ふむ、これなら大丈夫そうかな」


 環奈の言葉を聞いてから手元の名簿に視線を落とす数学教師。そこには生徒の基本的な情報が記載されており、異能力の詳細も記載されていた。

 それで環奈の異能力を把握した数学教師は環奈の申し出を了承する。

 ぺこりとお辞儀をしてから環奈は教室を飛び出し遠回りをしながら近付いてくる喧騒へと駆けた。





■□■□





「環奈姉さんって戦えるならなんでも良いの?」


「人聞きの悪いこと言わないでよマルス。あたしが好きな戦いはお父さんとのだけよ。今回のこれは固有能力のテストよ!」


「モンスターパレードで能力のテストでありんすか……」


 街中を駆け回りながらそう会話するのはマルスと環奈と美月。会話に参加はしないが、アグナもアルカも、アッシュもクレアも信幸もいる。八人が向かうのは、美月が言うようにモンスターパレードが発生している場所だ。


 どこで発生しているのかなど知らないが、火の手が上がっている場所を辿っていけば辿り着くのは容易で、逆に逃げる場合は火の手が上がっていない方向へ向かえばいいのだが、こうもあちこちが焼けていると黒と灰色の空しか見えない。なので逃げ遅れている者が叫びながら走り回っており、環奈達は避難するべき方向を教え、崩れる建造物を避けながら進む。


 そうして惨状の中を走り続けて、漸く剣戟の音色が聞こえてくるまでになった。

 誰も彼もが異能力に頼って戦っているわけではない。

 異能力の使用を可能としている、魔力、霊力、妖力、など人によって様々だが、そう言った力が尽きてしまえば疲労や激しい頭痛などで行動することが不可能になってしまうことから、戦地では剣や銃を用いて戦うのが普通であり、環奈達のように丸腰なのがおかしいのだ。


「……っぅぅううおおあああああ!」


 曲がり角の向こうから生きる意思を感じさせる大声が聞こえてくる。誰かが戦っているのは明らかで、金属音の数から複数人が複数のモンスターに襲われていることが分かった。


 環奈は力強く地面を蹴る。弾かれるようにして加速した環奈は曲がり角とは反対方向の壁へと突っ込んでいく。けれど誰もその行動に疑問を持ったりはしない。環奈は体を捻って壁を蹴り、見事に曲がり角を曲がった。


 そこにいたのはぶよぶよした球体の生物──スライムだったのだが、しかし環奈がアリティージ山で見たスライムとは大きさが全く異なっていた。


 二階建てのアパートの一部屋を埋め尽くしてしまえそうなほどに大きいそのスライムは、自身の体を触手のように伸ばして瓦礫を掴み、それを振るって数人を相手取っていた。


 環奈は小さく顔を歪めた。てっきり数体のモンスターがいるものだと思っていたのに、実際にそこにいたのはたった一体のモンスターだった。乱戦になれば効果を存分に発揮し始める能力であるが故に、一体の敵を相手にするのは遠慮したかった。


 だが、もう突撃してしまったのだ。今さら引き返すなんてみっともない事はできない。


 環奈はスライムの体内に浮かんでいる赤い球体を狙って、曲がり角を飛び出した勢いのまま、弾丸のようなパンチを繰り出した。


 スパーンッ、と爽快感のある音が響くが、スライムはその体を大きく振動させて衝撃を分散させ、触手が掴んでいた瓦礫が砕け散る。スライムの近くにいた者達も突然の出来事に何事かと一旦距離を取った。


「今までのならあれぐらいすれば簡単に倒せてたのに、やっぱり大きいだけあって中途半端な物理攻撃は効かないのね。……なら魔法で相手にするまでよ!」


 スライムとの衝突の反動を受けてあらぬ方向へ弾き飛ばされた環奈だったが、いきなり勢いが死んだかのような不自然な軌道で着地する。


「さぁ、焼滅しなさい!!」


 右手と左手に自身の髪色と同色の炎の球を浮かべてから、両手を近付けて二つの炎の球を合わせ、それを射出する。


 弾丸ほどは速くはないものの、視認するのがやっとと言えるぐらいの速度で炎の球がスライムに直撃すると、その瞬間炎の球が爆発して黒煙が漂う空に火柱が立ち昇る。


 特に何も考えず放たれた火魔法だったが、幸いにもそこは拓けた場所だったため炎が建物に移ったりはしなかった。


 時間が経過すると共にだんだんと火柱が小さくなっていくが、そこにスライムの姿はなく、跡形もなく消えてしまったことが見て取れた。


「まぁ、こんなもんね」


 環奈は爆風で乱れた髪を後ろに払いながら腰に片手を当て、ドヤ顔で誇らしそうに言う。


「達成感に浸ってるとこわりぃんだけど、今のでモンスターが集まってきちまったみたいだぜ姉貴」


 小さかった地響きがだんだんと大きくてなっていくのを感じ取ったアグナが隙だらけの環奈にそう声をかけるが、調子付いてきた環奈は自信たっぷりに言葉を返した。


「上等よ、あたし達で返り討ちにしてやりましょう!」

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