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第2話 灰色の世界

 絶え間なく行き交う人の波。

 それに合わせて鳴るのは電子の音。

 車両と人間の優先度を入れ替える信号機や、遠くの人間とのやり取りを可能にする携帯電話、建造物に大々的に掲げられた喧しい広告など。


 それらの光景を宿すのは灰色の世界。

 この世界以外の世界など存在しないのだと信じて疑わず、その存在も確かめられず、けれど、あればいいなと誰もが夢に見ていた不自由な世界。


 知る者はこの世界の事を地球(・・)と呼んだ。


 その地球はある日を境に大きな変化を遂げた。

 これまでの常識を大きく覆す変化。

 一歩間違えば壊滅的な混沌に陥りかねない重大な変化──異世界との融合だ。


 それによって何もかもが変わった。


 魔法などへの憧れは消えてなくなって、あるのが当然なのだと時代が移ろった。

 動物の他に現れた魔物と呼ばれる脅威や、エルフやドワーフや獣人などの亜人も現れて、魔物の特徴を持った魔人も現れた。


 現実的な世界が空想に侵食されるように変化していた。


 故に、今の地球はスキルや魔法などの超常の力を総じて『異能力』と呼称し、異能力者を育成する教育機関や、異能力の使用を前提とした職場など、ありとあらゆる場所に超常を携え始める。


 当然、最初は異能力を文明に取り入れる事には反対的な意見が多かった。だが、人間とは便利なもの目の前にすれば、活用せずにはいられない生き物だ。

 スキルや魔法を使って生きる異世界の人々を見れば、その魅力を知り、それまでの拒絶を拒絶して、異能力の使用に踊り出していた。


 どこから湧いて出たモノかも分からないのだから、我々の文明に浸透させるべきではないと騒ぐ者はもはや少数。今まで使用されていた電化製品なども次第に魔道具にへと置き換えられていくのだから、生きるためには使わずにいられないのだから。


 そうして便利なものが増えていく文明を脅かすのはやはり新たな脅威である魔物の存在だ。

 魔物を身近に感じて生きてきた異世界の人々からすれば取るに足らない相手なのだろうが、熊や猪などの野生動物すら人力で倒せない地球の人々は、どうしても魔物に苦戦せざるを得なかった。


 異能力を得たと言っても、元々の出自の差だろう。異世界人ほどスキルや魔法を使いこなす事はできなかった。


 今まで積極的に関わることのなかった地球人と異世界人だったが、どちらも結局は欲深い人間。地球人が魔物すらまともに倒せない弱者だと知るや否や、異世界人は大きな顔をするようになった。


 助けてやると恩着せがましくでしゃばって、見返りを要求する。地球人にとってそれは実際にありがたかったから、別にそれでよかった。だが、異世界人が地球の文明を知ったのが不味かった。


 科学と異能力を織り混ぜたその技術は誰もが欲する高度な文明へと成長を遂げており、それを巡って地球人と異世界人が争い始めた。


 小競り合いは戦争へと発展し、多くの命が散った。

 科学兵器を叩き込んで、上級魔法の雨を受ける。その逆もまたあった。

 そうして灰色の世界はさらに灰色へ、自然の世界の緑も焼かれて灰色へ。灰が降って灰を被って灰を吸って生きて。感情を殺して敵を蹂躙し殺戮する無機質な機械へと変貌を遂げる。


 早く終われ早く終われと、無力な者の願いに反して戦争は終わらず、皮肉にも戦争が長引けば長引くほど強かな人間が増え、より苛烈に。


 平和な世界で生まれた者と、戦争の真っ只中と言う過酷な時期に生まれたものではそもそもの世界の見方が違う。最初からこの世界にとって命の価値は塵芥程度で、その塵芥の存在すら許さないほどに残酷だと知っていれば、世界に順応するために強くなろうとするのだ。


 心は強くなり、異世界人の捕虜を使って子を成して、異能力への適性が高い異世界人の血脈を得て、自分達の力とする。

 その逆もまた然り。

 異世界人も地球人と同じく、心は強くなり、地球人の捕虜と子を成してその血脈を得て、科学へのより深い適性を得る。


 徐々に力を得ていき、戦争は激化して、互いに勝機を見出だしては滅びの速度を加速させるだけ。


 一年、二年、三年、四年──時は流れて過ぎて経過して。幾度かの休戦は経たものの、数年の休みに休みと呼べるような安寧はなく、戦うための戦力を蓄えるだけ。


 何度も何度も同じ事を繰り返して、もうそろそろ二百年に届くかといったところで、地球人側と異世界人側に異変が起こった。


 何の前触れもなくお互いが、友好的に生きて行こうと話し出したのだ。全く同じタイミングで同じようにしてだ。

 二百年近くも戦争を続けていればそんな意見が出てもおかしくはないのだろうが、二百年近く続けていて突然お互いが同じタイミングでそう言い出したのだから不自然極まりない。

 戦争をよく思わない第三勢力が、戦争を止めるために国の中枢に大勢潜り込んだのかも知れないと疑ってしまうほどにタイミングがよかった。


 だがまぁ、思い違いだろう。争い事は長引けば長引くほどに勢力が増えていくのだから、二百年も経っていれば大半がどちらかに身を固めるものだ。


 それもこの戦争は、地球人と異世界人という、そもそも住む世界の違う人類同士の争いなのだからその勢力は猿でも分かるほど明確に分かれて表れるはず。

 だから第三勢力の存在は、さらに別の世界に生きる人類ぐらいしかあり得ないのである。もっとも、その第三勢力にはこの戦争を止める理由などないのだから、第三勢力の存在はあり得ないと言えるだろう。



 それはさておき、こうしてお互いが友好的に出たおかげで地球人と異世界人の大戦争は終わり、お互いがお互いを尊重して生きようとする社会が構築されつつあった。


 けれど、戦争が齎した遺恨は大きかった。

 友好的にいこうと割り切って手を取り合う者達と、割り切れず好戦的にいこうとその手を斬り落とし合う者達で二分化していた。


 世界間の友好を保つためにも割り切れない者達をどうにかしなければならないのだろうが、立場が立場である。自分達の戦争のせいで抱かずともよかった怨み憎しみを抱き、それを原動力にして生きている者達だ。これからの未来にとって邪魔だから排除、とはいかなかった。


 そうして戦争の遺恨を引き摺りながらも地球(アースガルズ)異世界(ヴァナヘイム)の二つの世界は、成長と進歩と進化を加えながら、変形しつつあった。





■□■□





 終わった。やっと終わらせられた。

 虚空で過ごした時間に比べれば短すぎる時間だったけど、それにしてもよく飽きなかったな。二百年近く争い続けるその執念、異常すぎるだろ。ずっとフレイアを求めて世界を渡り歩いてたシュウに似た何かを感じる。


 安全確認のためにと先に完全蘇生させて世界(ヴァナヘイム)で暮らさせた、他人の部類に入る人々には悪い事をした。完全蘇生させたことによって中途半端に不老性を持っているから、自害するか殺されない限り死ねないという生き地獄でしかなかっただろう。

 それでも戦争の被害を受けて大きく数を減らしているのは確かなはずで、死んでいった人間達が死ねたことを救いだなどと感じてしまってなければいいが。


 今度生きている者を回収して記憶を消して……いや、自分の罪を隠蔽するようなことはやめよう。こんな風に力を使えばあっという間にダメ人間になってしまうだろうから。しっかり真正面から受け入れなければいけない。


 罪を受け入れなければと思っているのは間違いないが、それよりも強く、世界を再構築してすぐにフレイア達を完全蘇生させなくてよかったと心底思っているのが現実。

 自分の間抜けさはよく知っているから、どうせ何か問題が起こるだろうと様子見していたのだ。

 まさか元の世界とこの世界が混ざるなんて思いもしなかったが、これからは捨て駒のような使い方をするのはやめようと認識させられた。


 まぁ、何はともあれ、二百年近く激化し続ける戦争を繰り広げてても両方の世界に異常は見られなかったし、もうそろそろ安全だろう。


「──フレイア」


 あぁ……やっとだ……やっとフレイア達とまた会える。


 まずフレイアと再会を喜んで……いや、待たせてすまないと謝るべきか? ……で、それからクロカやシロカ達に説教を食らって……ラモン達に謝って……父さん達にも謝らないと……それでオリヴィアさんにも謝ってから約束を果たして……そうだ、アデルへの答えも考えておかないと…………あぁ、はは、色々忙しいことになりそうだ。

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