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第15話 遠くて近い騒動の匂い

 マーガレットから異生物対策組織横浜支部の内部を案内され、就職に必要な書類などをまとめてから帰宅する。


 組織として活動する上で必要な道具などはマーガレット自ら直々に屋敷へ持ってくると言う話だったが、流石にこの短期間でそれらを人数分準備できるはずもなく、明日か明後日ぐらいにそれら一式を携えて屋敷を訪ねると言うことになっていた。



 そして翌日の朝、家族全員で朝食を摂りながらテレビのニュースに耳だけを傾けていると、気を引く出来事が取り上げられていた。ごく最近、それもここから割と近い場所で起こった事件だった。

 日付はモンスターパレードが発生した当日で、場所は近所の丘に建ち並ぶ住宅街だ。


 肝心の事件の内容は、買い物帰りの主婦が何者かに滅多刺しにされると言うものだった。子供の行方不明が相次いでいるこのタイミングで発生した事件だ。近隣の住人は不安に駆られていることだろう。


 傷口などを調べていく内に、それが白昼堂々と人の手によって行うのは不可能に近いものだとされ始めた。傷口の大きさから考えて、犯人が大型の凶器を使ったのは確実で、人通りもまばらだが確かにある住宅街で血塗れの大型の凶器を所持しているとなれば、必ず人目に付いているはず。……だが、それなのにも関わらず不審者の目撃情報はない。


 そうとなればモンスターの出番だ。

 モンスターならばまだまだ未確認要素が多いために、どんな不可解な事件だろうと簡単に罪を擦り付けることができてしまう。

 今回の不可解な事件もそのように処理されるようで、同時期にちょうど発生していたモンスターパレードを生き残ったモンスターが引き起こした凄惨な事件なのだろう、とニュースは締め括られた。


 ……このように処理される度に、異生物対策組織の評判は落ちていくのだろうと知った。


 ニュースの内容など今までは右から左へ、左から右へと流すだけだったのだが、異生物対策組織に加入した今、もう無関係でいられないと自覚したからだろうか。いつもよりニュースに意識を集中させ、もちろん情報の真偽は考えて、真偽が不確かなりに適度に頭の端に置いて、それを踏まえて自分なりに考えるようになっていた。


「もっと詳しく調べれば何か分かるかも知れないのに、ちょっと捜査して何も分からなければ全部モンスターのせいにされるんだね。こんなお粗末な判断のせいで異生物対策組織の評判が落ちるんだからしっかりして欲しいよ」


「まぁ、異能力者による犯罪だっていう可能性にすら触れず、一発でモンスターのせいにされてる時点でまともじゃないのは明らかね。……今回のはモンスターパレードが重なったから仕方ないことなのかも知れないし、無闇に異能力者を危険視させるのも争いの火種になりかねないからっていう判断なんでしょうけど、何か気に食わないわよね」


 愚痴る信幸と、不満を溢す環奈。他にも不快そうな表情をしている者はいるが、朝からこんなことに自ら触れて不愉快なまま一日を過ごしたくないのか何も言わない。


 どことなく暗い雰囲気が漂い始めたところでテレビのチャンネルは変えられ、寝起きに優しくほどよく落ち着いた雰囲気の明るいバラエティ番組が映し出された。

 ……ニュース番組が多い朝は、それだけ暗いニュースを目にする割合も高くなる。そうして暗いニュースで沈んだ気分を直すためには、こう言ったバラエティ番組の存在がありがたかった。





 さっきの暗い空気はどこへいったのか、いつもと変わらない空気感を纏って登校し、授業を受け、そして休み時間を謳歌する。

 そんないつもと変わらない休み時間に、ピコピコと音を鳴らして空中ディスプレイの携帯端末に届いたのは一通のメッセージだった。メッセージは西蓮寺志乃からで、内容は今朝見たニュースに関連することだった。


 どうやら組織の人間が野次馬の中に紛れて事件現場を訪れていたらしく、その組織の人間曰く、遺体を隠すブルーシートの隙間から妖力の残滓が漏れていたそうなので、あれは妖怪による仕業で間違いないそうだった。

 それはともかく、これからが本題だ。


『あなた達が組織に加入してちょうど間も無く発生した事件よ。あなた達の実力を測るためにも、事件の調査担当に充てられる可能性が高いわ。恐らく今日か明日、シルヴェール中佐が直々に道具一式を届けに行った際にこの件に関する話をされるんじゃないかしら。……時間が経過すればするほど調査は難航するでしょうけど、まぁ、精々頑張る事ね』


 ……と、最後に余計な一言がついてはいるものの、心の整理を付けさせるためにとわざわざ伝えてくれていた。……もちろんそうならない可能性もあるが、組織に加入したタイミングでちょうど発生したモンスターによる事件である。いくらモンスターパレードを生き残れるほどの実力があろうとも、詳細な実力を把握するために担当にさせられる可能性は高い。……時間が経過して調査が難航すると分かれば、今のうちから調査を始めておけば良いのだから。


 チャイムが鳴って再び授業が始まり、何度かそれを経て昼休みになると、何度か経た休み時間の間に決めていた通り、環奈達は空き教室へと集まった。目的は昼食と事件に関してで、頭脳担当としてマルスも一緒だ。


 一つ問題があるとすれば、話し合いに選んだ空き教室が西蓮寺志乃の縄張りだったことだろう。以前と違ってぼっち飯の目撃者が多すぎるため、西蓮寺志乃は排除ではなく弁解を選んだ。


「人望の厚い生徒会長サマがこんなところで一人で何してんのかと思えば、そういうわけだったのか。内輪に囲まれるあまり外が見えなくなってるバカとはちげぇわけだ」


「有能は周りを見ながら行動するのよ。だから戦場でも生き残れるの。……それで、揃いも揃ってどうしたのかしら」


「住宅街での事件のことについて一度会って話し合っておきてぇなって」


「話し合いって言ったって何を話すのかしら。妖怪の目撃者なんて誰もいない、痕跡も妖力の残滓だけ。私には次の事件が発生するまで赤ちゃんみたいに指をちゅぱちゅぱしているしかないように思えるのだけれど」


 そこなんだよな、とアグナは唸り、西蓮寺志乃はマジかよこいつ、とでも言いたそうな目を向ける。


「隠れてる妖怪を見つけ出すだけなら、ミクができるらしいから、誰かがミクを連れて事件があった住宅街を捜査すればいいと思う」


「あのチビそんな事もできんのか。いやまぁ妖怪なら当然か」


「ミクちゃん、可愛いだけじゃなくてそんな事もできるんですねっ!」


 アッシュにアグナとクレアが反応する。


「そのミクってのいうのは?」


「あっくんが拾ってきた妖怪だよぉ。あ、でも普通の妖怪と違って会話もできるし、友好的な性格だし、ウチのお父さんに怯えてるみたいだからボク達に敵対するようなことはしないと思うよ」


「妖怪を使役してるのね。大丈夫、私も似たようなことをするからその辺りは寛容よ。でも、他の職員の前ではその妖怪のことは黙っておいた方が……いえ、その妖怪の力を利用した調査自体やめた方がいいわ。モンスターは問答無用で敵だ! ってスタンスの人間が多いから、万が一このことがバレてしまった時にその妖怪は討伐されてしまうでしょうね。……もし庇おうものならまず組織から追放されるのは確実で、最悪の場合、組織の人間に追われるようになってしまうかも知れない」


「……残念ですけど分かりました。……あの、西蓮寺さんも妖怪を使役しているそうですけど、なぜそうならないんですか?」


 リスクが大きすぎることを知ったアッシュは渋々と言った様子で受け入れるが、なぜ自分と同じく妖怪を使役している西蓮寺志乃が無事なのかが気になった。


「私のはちゃんとした術として認められてるからよ。私の家はなんて言うか、霊能力的な家でね、代々怨霊とか妖怪とかを退治している家なの。だから実績とか歴史が積み重ねられていて、言い方は悪いけど『そういう術式なのよ』って主張すれば異能力の一種として罷り通るわけ。……異能力なんてものでありふれているこの世界で、モンスターを使役する異能力だけ認めないなんてわけにはいかないでしょう?」


「なるほど、他人がどんな異能力を持っているか確認できませんから、異能力の効果だって押し通すことも可能なんですね。……妖怪のミクを異能力の効果にするのは無理がありますから今には関係なさそうですけど」


「あ、そうだ、アルカの異能力でミクの代わりができたりはしないのかな? ほら、アルカって魔物や妖怪の力を再現する度にエネルギーを一から認識し直してるわけじゃないか。なら妖怪の力を得て、ミクがやってるように妖力を探知したりできるんじゃないかな?」


「力の応用ってこと? うーん、どうだろう。試したことなかったから分かんないけど、取り敢えず魔力で試してみる」


 マルスの思い付きをアルカが試す。


 アルカが使うのは魔力を用いて使用する火魔法。【物真似】の異能力で見た通りにトレースするのであれば、手の平に浮かべた火の球はこのまま射出する他ないのだが、そこで火の球の魔力に意識を向けて形を変えようとしてみる。……すると、多少だが火の球の形が揺らぎ、卵のような少し歪んだ球体となった。


 その後も色々と検証を重ね、動かせるエネルギーは極僅かであることと、基準となるものがなければエネルギーは使用できないことが分かった。つまり、火の球は三角形にすることができないし、火の球がなければ魔力を操作することは不可能であると言うことだ。

 ……だが、それほど大きな問題はない。風魔法で発生させる風と同じことを妖力で行えば、妖力の乗った風が妖怪を撫で、妖怪の探知が可能であるはずだからだ。


「捜索に向かう前にミクさんから何か異能力を見せてもらえば、姉上でも妖怪探知をできるようになるわけでありんすね」


「えへへ、これであっくんのお手伝いの幅が広がったねぇ?」


「お手伝い?」


「あのね、あっくんね、子供を攫ってるモンスターを探しててね、ボクはそのお手伝いをするって約束したんだぁ。だからこれでもっとお手伝いできるようになるねって!」


「へぇ、兄上はミクさんの一件で、子供の行方不明事件に責任やら使命やらのようなものを抱いてるようでありんすが、兄上がそんなものに縛られる理由などござりんせんよ?」


「そうなんだろうけど、一度それが目の前にチラついちゃったら何だか放置しておけなくなったんだ。僕の手が絶対に届かないわけでもないから、何とかして犯人の尻尾だけでも掴んでやりたい」


「お姉様、恐らく今のお兄様には何を言っても無駄だと思いますよ。あの頑なさはお父様相手に突っ込んでいく環奈お姉様と同じぐらいの頑固さですから」


 クレアの言葉に振り返って、そして再び前を向いて、「みたいでありんす」と溜め息混じりに美月は溢した。


 ……と、そのすぐ後にチャイムが鳴って昼休みが終わり、話し合いの時間は終わりを迎えた。





■□■□





 二人組の男女となぜか一緒に行動していた。

 路地裏の曲がり角でぶつかって、尾行がバレて、そして何だかんだと話し合っていく内に、なぜか同行させてくれと自分から申し出ていた。尾行していた時と同じく、自分でもなぜそんな行動をとったのかが理解できなかった。


「そうだ、君、名前は?」


 名前を春暁と言うらしい黒髪黒目の男が聞いてくる。髪色と瞳の色顔立ちの通り、やはり日本人のようだった。


(すすむ)って呼んでください」


「進君だね、分かった。よろしく」


「よろしくね進君」


 春暁と春暁の姉らしい冬音という女が、よろしくと手を差し出してくるので、両方の手を握っておく。右手で春暁を、左手で冬音を。このまま歩き出しても、子供の手を引いて歩いている親という構図にはならないだろう。良くて仲の良い兄弟程度だ。それほどまでに三人の容姿は同じぐらい……つまり一般的な高校生と同じぐらいの身長で、顔立ちなどもそっくりだった。


「さっきも言った通り、僕達の目的は人造人間(アンドロイド)の処分だ」


「はい」


「その前に、なぜ処分しなくちゃいけないのかを説明するね。……まず、地球(アースガルズ)の科学を取り入れて異世界(ヴァナヘイム)の人々が造り上げたアンドロイドは、とある事情によって全て廃棄されたんだ。バラバラに破壊されて捨てられたんだ。……けれど、廃棄場に散乱しているはずのアンドロイドの残骸は一つ残らず廃棄場からなくなり、そんな怪事件が発生すると同時に世界各地でモンスターパレードが発生するようになった。まるで僕達人間の実力を測るように、徐々に徐々にモンスターパレードに出現するモンスターの数は増えていった」


 進は黙って話に耳を傾ける。


「アースガルズとヴァナヘイムの両方の世界が、これはおかしいと調査を始め、そうして科学と魔法が合わさったこの世界で秩序を保つためにと、たくさん設置されていた監視カメラには、モンスターパレードを傍観するアンドロイドの姿が映っていた。バチバチと火花を散らし、人工皮膚は剥がれて鉄色が露になって、魔力を吸い込んで魔力を垂れ流し、そうして稼働しているアンドロイドがね。……そこからモンスターパレードが異常発生する原因がアンドロイドにあると分かったんだ。……だからこれ以上、アンドロイドの手によって発生させられたモンスターパレードによる被害を増やさないためにも、アンドロイドを全て破壊しなければならない」


「……なるほど。でも、いったいなぜアンドロイドは廃棄され、モンスターパレードを引き起こしているんですか?」


「僕も詳しくは知らない。……けど、普段何もしない権力者が必死になってアンドロイドを処分しようとしているところを見るに、欲望の産物……召使いの代わりだとかでアンドロイドを利用していたけど、次第にアンドロイドが自我を得たか何かして反乱を起こしたから廃棄したとかが理由なんだろうね。……そうすると、アンドロイドは理不尽な人間に復讐しようとしているだけなんじゃないかな。まぁ、ここら辺は全部僕の妄想でしかないけど、大体当たっているような気がするな」


「地球の方ではありがちな話ですからね。けど、それを知らないし、その考えに至るほど停滞していない異世界では、こうなる可能性に気付けなかった。……まぁ異能力なんてものがある時点でどんな妄想も現実の一部ですからね、どんどん妄想して発想力を豊かにしていきましょう」


 春暁の妄想を一蹴するわけにもいかなかったため、半ば認めて半ば否定する曖昧な形で返事した進は、美しさも醜さも見出だせそうな現状に満足していた。

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