9,決意
パーティーがお開きになると、イベリス様が私と少し話したいと言ってきた。もちろん私はそれに応じた。ネックレスは重くて疲れたので、箱に閉まっておく。
(イベリス様と鍛錬をしている時は付けれませんね)
折角の筋トレグッズだったが、イベリス様の前では付けたくなかった。
(自分の気持ちなのによくわかりません)
分からないフリをした。本当は分かっていたけど、気付いてはいけないと理性が働いた。
城の庭園をイベリス様と2人で歩く。月明かりに照らされた草花は神秘的で美しかった。
イベリス様が私に質問する。
「グラジオラス様はサツキにとってどんな方だ?」
暗くて表情が伺えなかった。
「そうですね。一緒にいると楽だと思いました」
「……楽?」
「私の苦手な事を率先してやってくれました。挨拶とか」
「ああ。なるほど。それは楽だな」
イベリス様は笑っていた。
(良かったです。イベリス様にはずっと笑っていて欲しいです)
「でも、少し罪悪感があります。楽していて良いのか? と」
「良いんじゃないか? 人には向き不向きがある。グラジオラス様はやりたくない事は絶対にやらない人だと思う」
「た、確かにっ。で、でも、時には挑戦しないと自分の世界が広がりません」
「それは、まぁ確かに……。武器を取った事を後悔してないのか?」
私はイベリス様に戦い方を教わってからずっと姉の協力をしている。悪事を罰する為に、貴族の屋敷に忍び込み情報を収集している。
「後悔なんてありません。イベリス様には感謝してます。それが生き甲斐ですから」
「俺は教えているだけだ。感謝される事じゃない。やると決めたのはサツキだ」
「確かにイベリス様にはむしろ止められました。しかし、私はイベリス様がいなければ戦うと決心出来ませんでした」
「………そうなのか?」
「はい。言うと怒られると思いますが、イベリス様ならどんな時でも私を守ってくれると安心してました」
(3年前の私は守られて当然だと思ってました。なかなか良い性格でしたね)
「甘ったれだな」と呆れられた。
「甘ったれです」と私は威張る。
威張る私がおかしかったのか笑われた。私も釣られて笑った。
お互いくすくす笑った。
「イベリス様を守りたいって気持ちも本当です」
「ありがとう。気持ちだけ受け取っておく」
真剣に言ったつもりだったが受け流された。イベリス様は嬉しそうだったけど私は納得いかなかった。
「無理だと思ってますね?」
「無理だろう。サツキはアセビを助けてやれば良い。それで充分だろ?」
「不満です。イベリス様を守れないなんて不満です」
「珍しくわがままだな」
「私はわがままですっ」
「ならば、駆け落ちするか?」
(イベリス様……またそれですか? 逃げても解決しませんよ?)
「しませんっ! 逃げてはいけませんっ!」
「……じゃあ、どうするんだ?」
「イベリス様を苦しめる、お兄様達に裁きの鉄槌を下しますっ!」
「……酔っ払っているだろう?」
「酔っ払っていませんっ!」
「ならば、正気じゃないな。頼むから首を突っ込むな」
「イベリス様が戦場で活躍する度に、また酷い目にあったのではと心配になるのです」
危険な前線に送られたり、敵に情報を流されたり、そんな危機的状況を打破する度にイベリス様は軍神と称えられる。
「……だとしても頼むから首を突っ込むな」
イベリス様の拒絶する様な頼みに、興奮気味だった私は冷静になった。
(……イベリス様を困らせてしまいました。お兄様達の所為でイベリス様は苦しんでいるのに何も出来ない何て悔しいです)
「……分かりました」
(イベリス様にとってはまだまだ私はか弱いお姫様なんですね。……筋トレ頑張りましょう)
筋肉が付き見るからに逞しくなればきっとイベリス様は頼ってくれる。サツキは逞しくなる事を決意した。