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7,暗殺者 (残酷な描写があります)

 


 姉と一緒のベッドで寝ていると、寝室の扉の向こうから足音が聞こえた。姉を起こさない様にベッドから降りてカーテンの影に隠れた。扉が静かに開き、人影がゆっくり入ってくる。その人影はベッドに近づくとぴたりと止まる。


(? 立っているだけですか?)


 (いぶか)しんだが、私は気配を殺し人影の背後に立つ。ナイフを首元に当てた。


「何をしているのですか?」


「なっ!? 気配が全く無かったっ!? お前は暗殺者かっ!?」


「……暗殺者は貴女でしょう。動けば刺します」


(本職の人に暗殺者って疑われました。嬉しい様な悲しい様な……なんとも言えない気分になりました)


「チッ」


 ナイフで脅した。騒がしかった様で姉が目を覚ました。寝ぼけていた様で欠伸をしながらカーテンを開けて月明かりを頼りに部屋の様子を見た。


「な〜に〜? ……って!? 何事っ!? 貴女誰っ!? サツキ何やってんのっ!?」


「姉様。この方は姉様を殺しに来た者です。油断してはなりません」


「えっ!? マジでっ!? サツキが守ってくれたのっ!? うひょぉおおおっ!?」


(何喜んでるのですか?)


 暗殺者は抵抗しなかった。


(本当にこの方は暗殺者でしょうか? 殺意がありませんね)


「……サツキ様でしたか。止めていただき感謝します。アセビ様。聞いていただきたい事がございます」


「んんっ? 言ってみ」


(姉様のノリが軽すぎます)


「私は平民でして、父が重い病に罹って、町医者では治療方法が無く、止むを得ず貴族の医師に頼んだのです。治療する代わりに私は暗殺者として仕える事になりました。アセビ様は平民にも充分な治療を行える様に頑張っているそうですね。そんなアセビ様を私は尊敬します」


(この方はお父様を救う為に暗殺者になられたのですか)


「尊敬って、いやぁ。嬉しいけど、私ってそんな良い人じゃないよ?」


「……良い人じゃなかろうとも、救われた人は沢山います。もう少し早ければ、私も暗殺者にならずに済んだのでしょうね。アセビ様どうか、そのままでいて下さい。……さようなら」


 ナイフを捕まれ、奪われるのか!? と警戒したが……彼女は力無く私にもたれかかった。


(え?)


「ちょっと待てっ!? さよならって!?」


 姉は彼女に駆け寄り抱き抱えた。


「……死んでる」


 彼女は私のナイフで首の頸動脈を切って絶命していた。彼女の血が私の手や胸元を濡らす。


「無責任に任せないでちゃんと生きて私を見張ってろよっ!? 死んだら何にもならないんだぞっ!? あんたの父ちゃんの気持ちも考えろっ!?」


 姉は泣いていた。感情を爆発させる姿は初めて見た。姉はずっと笑っていたから……。


(間接的に人を殺めてしまった。これが人を殺した気分……)


 血に塗れた手を眺めると喪失感が止まらなかった。血の引く思いだった。


 扉が勢いよく開いて灯りを持つイベリス様が駆けつけた。血塗れの私を見て青ざめた。


「大丈夫かっ!?」


「私はっ大丈夫ですがっその方がっ」


 震えが止まらなかった。寒くて寒くて自分の身を抱きしめた。すると、イベリス様は上着を私の肩に掛けた。


「……自害か」


 寂しそうな表情で亡くなった暗殺者を見ていた。


「見たところ……貧しい身の上か。いつだって犠牲になるのは弱い者だ。痛かっただろう」


 優しく目を閉じさせた。


(私は愚かでした。守るだなんて。人がいざ亡くなると、こんなにも無力です。イベリス様は見てみぬフリをしろと仰ってくれたのに……何も知らずに……彼女は私の所為で死んだのかもしれません)


 姉はギュッと拳を握った。


「あんたの父ちゃんの事は任せなっ! 私が悪い医者を無くすって誓うっ! だから、あんたは誇って良い! 天下のアセビ様を本気にさせたんだからなっ!」


 姉は決意に燃えていた。


(姉様……流石です。私も貴女の様に強くありたいです)


「姉様。私にもお手伝いさせて下さい」


「ありがとう。サツキが一緒なら心強いよ」


 ニッと笑う姉につられて私の頬も緩んだ。




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