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5,初陣 (イベリス視点。残酷な描写があります)

大変暗い内容です。飛ばしても差し支えないかもしれませんが、こちらを読まないとイベリスの心情が理解出来ないかもしれません。

 

 俺は15歳になった。今日は初陣の日。バザン国で村人が一揆を起こした。それを俺が鎮圧する様に国王陛下が命じた。ごく小規模なもので、経験がないに等しい俺でも収める事が出来ると踏んだのだろう。


 声変わりが済み低くなった声に未だに慣れない。100にも満たない数の兵士が山中で待機していた。村に突入する前に兵士に呼びかける。


「これから戦うのは本来なら我々が守らねばならない者達だ。飢饉で苦しむ彼らを見て見ぬフリをしていた王族にも非はある。だから、どうか可能な限り生捕りにして欲しい」


 甘い考えだろう。本気で殺しに来る相手に手加減をするなど、戦う事を生業にしてるとしても舐め切っている。


(それでも殺したくない。一揆を起こす彼らの気持ちが分かってしまう)


 ここの領主が穀倉地帯の開拓を怠った事と、飢饉が起きたにも関わらず税と生産物を平年通り納めさせたのが原因だ。


 気持ちは一緒だった様で頷く者が殆どだった。軍の1人が手を挙げる。


「人質にされた領主はどうしますか?」


「助けれたら助ける。これは領主の責任だ。無理して、救おうとしない様に」


「では、一揆もそのままにしては?」


「それが出来れば一番なのだが……他所の町や村が後に続くと非常に困る。早めに収めないと、最悪な事態になりかねない」


「村人の要求を飲んでは?」


「それもダメだ。一度その様な例を作れば、不満がある度に戦いになる」


 今の国王の何代か前に一揆を起こした民の要求を王侯貴族が飲んだ事がある。すると、各地で一揆が勃発し血で血を洗う暗黒時代になった。


(戦いは憎しみしか生まない。正直言って戦うのは面倒くさい)


 ため息を吐きたかったが、軍隊の隊長がそんなんでは士気に関わる。心の中で吐いといた。すると慌てた兵士が息を切らしながらこちらに走ってきた。


「申し上げます!! 一揆に参加していると思われる村人が我らを包囲してます!!」


「何っ!?」


(これはどういう事だ? こちらの情報を流す裏切り者がいたのか?)


 直ぐに思い浮かぶのは、2人の兄。慎重な長兄はこの様な大胆な行動は起こさない。すると残るは次兄。次兄は殺意を隠しもしない。


 武装する村人達が剣や鍬、鎌を持ち木の影から現れた。飢饉で頬がこけ、痩せていた。代表と思われる者が俺を睨む。


「望みは1つ。1年間徴収を止めろ」


(何でそれを事前に俺に言ってくれなかったんだ!? 領主を人質にした後では手遅れだ!)


「……それは出来ない。領主を解放すれば、この一揆はなかった事にしよう」


 破格の措置だ。しかし、村人はそれでは納得しない。無理に無理を重ねた結果、やむを得なく武器を取った彼らに戻る事は出来ない。


「……兄ちゃんは話が分かる奴だったんだな。目を見てや分かる。でも、もう遅い。もう、俺らには明日はない。せめて、こんな事が二度と起こらない様にしてくれ」


「……ああ。約束しよう」


 村人と軍の戦いが始まった。殺さねば殺される悲惨な戦いだった。血に塗れる手を見ては「嫌だ」と思った。


(戦いは嫌だ。何故、殺さねばならない? 彼らが何をしたというのだ?)


 村人は全員死んだ。此方の軍も死人が出た。村に行くと人が一人もいなかった。いや、いた。女性が一人悲壮な表情で教会に向かうのが見えた。


(せめて女子供には生きてもらいたい)


 油断していた。早く女性の後を追うべきだったのかもしれない。


 教会に向かうと、静かだった。嫌な予感がした。扉を開くと--


 床が真っ赤に染まっていた。


「おい!! 誰か生きている者はいないか!? お前たちも探せ!!」


「「「はい!」」」


 女性と子供達が自害した死体が転がっていた。皆痩せていた。


 ドンッ


 壁を叩いて怒りを抑えようとしたがダメだった。


(兄上……俺はお前を絶対に許さない)


 奥の部屋から領主が兵に連れられて出てくる。悲惨な光景に領主は悲鳴を上げた。


(生きていたか)


 拳を強く握り締め間抜けな顔を殴り飛ばす。


「ガハッ」


 歯が一本コロッと床に落ちる。


「なっ何故っ!?」


「どうして守ってやらなかった? 守れただろうっ!? お前には貴族の誇りはないのかっ!?」


 民が税や生産物を納める代わりに貴族は民を守る義務がある。貴族は威張って良いという決まりなど無い。


「陛下が許そうが俺は絶対にお前を許さない。また会う時は死ぬ時だ。覚悟しとけ」


 兵士にそいつを捕まえて、城まで送る様に指示を出す。俺は生き残りがいないか村を回ろうと外に出ると、同い年かと思われる兵士が後を追って来た。


「あ、あのっ!」


「どうした?」


「そのっ。自分は今まで王族とか貴族には碌な奴がいないと思っておりましたが、隊長は違いますね! 村人を救おうと考えてくれて、そのっ。領主を殴った時は感動しましたっ。自分は一生隊長について行きたいですっ!」


「……そうか」


(誰も救えなかった俺にそんな事を言ってくれるとは……)








 国王陛下に報告する為に後始末は軍に任せて俺は先に王都に戻った。


(怒りを抑えきれなかった。これでは、敵が増える一方だな)


 城の廊下を歩いていると、おでこを出した黒髪の眉間にシワがよった軽薄そうな男が腕を組み俺を睨んでいた。


「チッ。無事だったかっ」


(コイツが村人に情報を渡したに違いない)


「……俺は今、虫の居所が悪い。視界から消えろ」


「生意気なガキだ」


 捨て台詞を残し、次兄はとっととその場を去った。


(ガキはお前だ)


 大きな扉が守備隊によって開かれた。赤い絨毯の先にはふとっちょな身体の金髪に灰色の瞳の王冠を被ったおじさんがいた。小粒の瞳が俺をぽかーんと見つめる。


「イベリス。なんじゃ? 血塗れではないか……誰か! イベリスの着替えをここに!」


「父上っ! 良いですから! 後で自分で着替えますから! それよりも報告に来ました」


(玉座の間で着替えれるかっ!)


 一揆での事を話した。


「そうか。良くやった。悲しい結果だが致し方なかろう」


「……最悪の結果です。女子供まで全員とはっ。陛下から預かった兵士も数名ですが死なせてしまった。私の責任です。如何なる罰も受けます」


「ふ〜む。良くやったと言っとるのに罰が欲しいとは真面目過ぎるぞ。もう少しせこく生きれんのか? それではこの先、生きていけんぞ」


「……無理かもしれませんね」


「堅っ苦しい言い方をやめい。この場には儂とそちしかいない。父に甘えてくれんか? その胸の内を全部話してくれんか?」


 父を見ると気が緩んだ。すると、堰き止められない感情が言葉に出てくる。


「……俺はっなんでっこんなに無力何だっ!? この手は人を殺す為のモノじゃないっ! 守りたかった……」


 胸が苦しかった。涙が溢れた。


「優しい子じゃな。そんなイベリスが儂は大好きじゃ。そちの母とそっくりじゃ」


 母は流行病で既に他界していた。大好きな母に似てると言われて、少し気持ちが落ち着いた。


「そういえば、伝書鳩が届いたぞ。そち宛じゃ。どうやら、アセビ王女がそちに会いたがっている様じゃ。ほっほっほっ。青春じゃな〜」


 アセビと聞き思わず固まった。


(奴が俺に会いたいだと? どうせロクな要件じゃない)


 手紙を見せてもらうと、確かに[逢いたいです]と書かれているが……


「父上。急ぎますので失礼します」


「ほっほっほっ。後の事は気にするな。儂が何とかする。一か月は戻ってこんで良いぞ。ほっほっほっ」


「ありがとうございます」


 この筆跡はサツキだ。感情だけを伝えてくるなんてらしくない。


(きっと、何かあったんだ。……アセビだな。奴はいつもサツキに迷惑をかける。もう一回殴った方が良いかもな。今度はグーで)



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