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22/25

22,落城。(イベリス視点) 残酷描写があります。

12の後です。


登場人物にローダンセとロベリアを追加しました。

 



(城が燃えている……)


 宵闇の中、俺は城を呆然と外から見上げた。石造りの城の為、建物は燃えずに内部が一部燃えている。


 遠征で国境を守っていたが、ローダンセ兄上が下流階級の民と結託し城を占拠したという報を受けて、急いで戻って来た。


(アセビが動けない隙を狙ったか)


 俺の婚約者の国、ケスマン国では疫病が蔓延して連絡が取れない。救援要請をしても疫病への対処を優先して来れないだろう。


(父上は無事か? 兄上の考えはさっぱり分からない)


 兄上と会話をしても本心を読み取る事が出来なかった。兄上の事をあえて例えるのならば……迷子の様だ。


 背後から兵士が俺に声を掛ける。


「隊長。ローダンセ殿下は城にいた貴族を悉く殺しているそうです。これは、いくら何でもやり過ぎではないでしょうか?」


 僅かに震えた声だった。


(兄上の行いは目に余るものだ。貴族だから全員が庶民を蔑ろにしていた訳ではない。きちんと善良な者もいる。そこら辺が見えていない……いや見ようとしていない?)


「兄上を止めたい。手を貸してくれないか?」


(兵士は庶民ばかりだ。だから、兄上も手を出さない筈だ)


 兵士は「はいっ」と頷いた。






 城へと意外にすんなり入る事が出来た。エントランスには反乱軍と思わしき者達が待ち構えていた。反乱軍の庶民の代表と思われる人物が俺に近づく。


「イベリス様はお通しする様にとのご命令です。貴方様に恨みを持つ者はおりますが、慕う者の方が多い。下々を想って苦心している事を我々は皆理解しています。貴方の様な方が新たな国には必要だと殿下も承知しているのでしょう」


(俺が必要だと? お前らが切り捨てた貴族の中にも俺の様に苦心していた者がいたというのに?)


 身勝手な発言に苛立った。


「……俺は兄上を止めに来たのだが? 反逆者として貴様らと共に処刑すると言っても通すのか?」


 脅してみたが、目の前の人物は余裕のある笑顔を浮かべた。


「それで貴方様の気が済むのなら構いません」


「……チッ」


(気が済む筈がない。人を殺した時の胸糞悪さ。あんな気持ちを味わうなど好き好んでするかっ)


 こちら側の兵士が「どうしますか?」と戸惑っていた。


 取り押さえ様とすれば、血を見る事は明白だ。ならば、折角の機会を不意にする訳にもいかない。


「お前達はここで反乱軍を見張っててくれ。俺は兄上の元へ行く」


「……どうかお気をつけて下さい」


「ああ。そっちも気をつけてな」


 初陣からついて来てくれた同い年の兵士に笑いかけた。


(俺は果たして理想の隊長とやらになれるだろか。……サツキ。もしも俺に何かあったら泣いてくれるだろうか? アセビの事で泣いていたのだから、俺の時も泣いてくれるだろうな)


 サツキの事を考えると不思議と勇気が湧いてきた。





 玉座に肩肘をついて兄上は座っていた。金髪が輝いて様になっている。玉座には貴族達の遺体が転がっていた。血が床に飛び散っている。


「イベリス。人を殺すのは楽しいか?」


(は? 頭いかれたか?)


「貴族を殺したのでしょう? 兄上は楽しかったですか?」


(楽しんでいたのならば斬るしかないな)


 だが、返答は予想しなかったものだった。


「わからない。殺した事が無いんだ」


「は?」


(何を言ってる? 兄上の所為で何人死んだと思う? 自分の手を汚さずに綺麗な手のまま、血に汚れた玉座にふんぞりかえっているという事か?)


 ローダンセの目は虚だった。


「ローズだって貴族だって皆、別の人に殺させた。仕方がないじゃないか。だって、ユニティ神は人を殺しちゃダメって言うんだ。天界に行けないじゃないか。エリカに会えないじゃないか」


(クズかっ!?)


 頭に血が上った。


「ならばっ殺させた民は天界に行けなくて良いのかっ!?」


(ここまで腐っていたとはっ! 見損なった!)


 兄上は不思議そうに俺を見つめる。無邪気な子供の様だ。


「何を言ってるんだ? 全部彼らの意思だ。

 私は無理強いはしない」


「……っ!?」


 唇を噛んだ。


(そうだ。兄上はいつも無意識に人の望む事をしている。俺を無意識にロベリアから守ってくれていた。だから、俺は兄上を信じたかったんだ)


「兄上は……一体何がしたいんですか?」


(兄上は今エリカさんの為に行動している。だが兄上は心の底から貴族を憎んでいるのか?)


「……エリカに会いたい。イベリスは言ったよな? エリカは私の所為で死んだのだろう? 私が何もしないで側に置いておいたのが原因だと」


 確かに言った。感情任せに言った。蔑ろにされた弱い者の末路に自分を重ねてしまった。八つ当たりだったと思う。罪悪感はあった。


「ならば、私がいなくてもどうにかなる世の中にしなければいけないだろう」


「……民を平等にするという事ですか? 貴族を切り捨てて何が平等ですか?」


「……平等? イベリスこそ何を言っている? 王族と貴族を根絶やしにすれば皆平等だろう?」


 極論過ぎて背筋がひやりとする。


「イベリスをここに呼んだのは、私を殺して欲しいからだ。自殺もユニティ神は嫌うからな」


「……父上とロベリアは無事何ですかっ!?」


「父上は無事だ。民から人望があるからな。ロベリアは殺されたかもしれない」


「ロベリアは兄上を慕っていたのに止めないのかっ!?」


「? ロベリアを憎んでたんだろう? いつも突っかかってくる相手を心配するのか?」


「俺はっ兄上の気持ちはないのかと聞いているっ!?」


「……役には立ったな。だが、恨まれるのは自業自得だ。仕方がない」


(冷たい人だ。慕って来た相手をこうも簡単に切り捨てれるとはっ!?)


「全ては彼らの意思のまま。私はもうこの世に未練は無いんだよ」


 ローダンセは壁に飾ってある宝剣の柄を握った。


「相手が丸腰だと戦い辛いだろう? 私は素人だから大丈夫。軍神と名高いイベリスなら一瞬で終わらせてくれるだろう?」


「っ!? 誰の所為で軍神と言われたとっ!?」


「私だね。敵に追い詰めさせて殺そうと思ったんだよ? 本気じゃ無かったけどね。だって、イベリスは一番厄介な相手だからね。アセビも厄介だ。アセビが動けなくてイベリスが遠征した今しか無かったんだ」


 殺そうとしたと本人から初めて聞いた。知っていたがショックが大きかった。息が詰まりそうだ。


 兄上はゆっくりと近づいてくる。


「素人だとね。寸止めが出来ないんだ。うっかり殺させないでくれ」


 無作為に剣が振り回される。反射的に腰の剣を鞘から引き抜き、剣を弾いた。


 兄上は満足そうに笑っている。


「そうそう。その調子」


 得体のしれないものと対面している気分だ。気持ちが悪くて吐きそうだ。


(兄上を殺しても良いのでは?)


 疲れきった頭にそんな感情が芽生えかけた。




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