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21,第一王子の切ない恋物語⑦

 

(差別? 偏見? 何故そのような事をする?)


 宮中画家が描いた明暗のはっきりした油絵を横目に廊下を進む。窓と交互に並べられたその人物画の瞳が私を見つめてる気がした。


 ローズが滞在する部屋へとメイド達が入っていく。その一番後ろにいるメイドの手首を掴むと目を見開き驚かれた。扉を後ろ手で閉めて他の使用人と引き剥がす。


 友を失ったばかりの私は余裕が無かったのだろう。自覚はあったが予想以上に怯えられた。まるで仔犬の様に身体をふるわせるメイドに問い掛けた。


「エリカを虐めたのは本当か?」


 睨んだ自覚はあった。メイドは顔を真っ青にして謝る。


「すいませんでしたっ! やらないとローズ様が解雇すると脅してきたので仕方なく嫌がらせをしてましたっ!」


「仕方なくだと?」


「すいませんっ!」


(嫌がらせをしたのは仕方のない事? 解雇が

 嫌でしたのか? 人が一人死んだんだぞ? それが仕方ないだと?)


 弱い立場になった事のないローダンセには解雇されるかもという恐怖が分からない。


 目の前のメイドがエリカを苦しませていたと知り怒りがふつふつと込み上げてくる。


「……ならば私の命令にも仕方なく従ってくれるか?」


「え?」


「やらねば……殺す」


「っ! 分かりましたっ!」


 ローズの様に権力を翳して脅した。冷静であったのならば、その様な事は嫌悪していた。


 憎しみが私の内部を支配していた。腹の奥からどす黒いものが込み上げて吐きそうな気分だ。






 私はローズを誘って郊外の公園へとピクニックに出かけた。ローズは鼻歌を歌う。私に誘われてよほど嬉しかったのだろう。


(ローズにこうして構っていればエリカは死なずに済んだのだろうか? ……今更考えても仕方ない。大事なのは被害者をこれ以上増やさない事だ)


「ローズ。君は美しい」


(そう。美しい。苦労を知らず。世間を知らず。下々の気持ちを知らず。君は無邪気で美しい。まるで自分を見ている様だ)


 ローズは恋する乙女の様に頬を染めて潤んだ瞳で私を見上げる。


「……手間の掛かる。周りに迷惑をかけるしかない大輪の花など邪魔なだけだ」


 エリカを手折ったローズが憎かった。ローズに付いていたメイドに合図する。


「日頃の憂さを晴らすがいい。私が許す」


 ローズはメイド達に取り押さえられた。真っ青な顔で私を見上げる。私は背中を向けてその場を去る。ローズの悲鳴が聞こえた。よほどメイド達に恨まれていた様だ。


(いいきみだ。……エリカ。見ているか? 君の無念は晴れたかい? まだ足りない? ……私は君の気持ちをきちんと理解してなかった様だ)


 エリカが居ない。寂しくて、悲しくて、胸が空っぽな気持ちだった。感情が薄れていく。


(……エリカの気持ちが分かるのはイベリスぐらいか。イベリスが羨ましいな)


 聡い私の弟。エリカのいない寂しさを弟なら理解してくれる。


(憎んでくれないだろうか? エリカの代わりに私に怒ってくれたのだから、もしかしたら……)


(民の為に私を殺してくれるかもな)




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