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19,第一王子の切ない恋物語。⑥ (ローダンセ視点)

 


 ローズが出て行った後、仕事を再開したが……全く身に入らなかった。


(エリカに暫く会っていなかったが、今日は何の用事で来たんだ? ……ローズめっわざと見せつける様にしたなっ!? ……だがエリカと私は恋人では無い。何故私はこんなにも焦っている?)


 エリカの事が気になって仕方がない。それは何故だ? どうしてだ? と自問自答しても答えが出なかった。


 悩んでいると弟のロベリアがやって来た。今年で13歳になる。


「兄様大丈夫? ローズがご機嫌みたいでさ。俺をおちょくって来てうざかったんだよ。何かあった?」


 ローズは弟達に姉さんヅラして構ってくる。ロベリアは反応が面白いらしい。イベリスには無視されている様だ。


「……私にも良く分からない。問題ない筈。そうだ。婚約者とキスしてもエリカが傷つく事は無い筈だ」


 ぶつぶつ悩んでいるとロベリアが「えっ!? キスしたのっ!? しかもエリカの前でっ!?」と驚いていた。


(……13歳にはまだ早い話だったな。だが……ロベリアは仲の良い女の子がやたらと多い。私よりもそこら辺詳しいかもな)


 ロベリアは女の子にチヤホヤされる事が大好きだった。意見を求める事にした。


「……不味いと思うか?」


 ロベリアは目をまん丸にした。


「不味いも何も……兄様はエリカの事好きでしょう? そりゃ身分が邪魔して正妻には出来ないけど……愛人にするんでしょ?」


(愛人っ!?)


 弟の当然そうするんでしょう的な発言に雷に打たれた気持ちになった。


(私はエリカが好きだったのか。そうなのかもしれない。エリカは私の事をどう思っているのだろうか? 嫌ってはいない筈……多分)


 エリカの気持ちが気になってきた。


「……エリカもそれを望んでいると思うか?」


「さあ? 無愛想だから良く分からない」


「……そうか」


 兵士が慌ただしく部屋に入って来た。


「大変でございますっ! エリカ様と思われる水死体が発見されましたっ!」


「何だと?」


 この兵士の言っている事はおかしいのだと思い込みたかった。エリカが死ぬ筈ない。


「っ!? 兄様っ! 行きましょうっ!」


「……ああ」


 だから何も考えずに弟の後を追った。






 そこは城にある井戸だった。使用人が洗濯などを行う場所だ。濡れたメイド服を着た水死体が布を被された状態で井戸の側に寝かせられていた。母が10歳のイベリスと共に無感動にそれを見つめている。それを見つけたロベルトは真っ先に大好きな母の元へ向かう。


「母上! 何故ここに!?」


 母は黙ったままだった。私は水死体の顔を見るべく布をめくった。死体の状態が悪く誰か判別出来なかった。だが、服はエリカの物だと分かる。ユニティ神で神聖な食べ物とされる葡萄の刺繍を服に施してある。エリカはユニティ神を信仰していた。


(……ユニティ神の信者は王宮勤ではエリカぐらいだ)


 理解してしまった。エリカは死んだ。


「うっっ」


 嗚咽をもらした。鼻がツンと痛んだ。胸が苦しかった。


(何故死んだ?)


 母に「何故ですか?」と質問した。


(何故母はエリカが死んだのに平然としている? 心優しい母が何故泣かない? 悲しまない?)


 色んな意味を含めた「何故?」だった。


「私が手伝ったのよ」


 意味が分からなかった。


「エリカさんは逃げたいって言った。だから手伝ったのよ」


 頭が真っ白になった。


(それは……どういう事だ?)


「母上が殺したのですか?」


 私の稚拙な頭ではそれしか答えが出てこなかった。だから、当然「違う」と否定されると思っていた。


 母は黙った。


(……? 何故黙っているのだろうか?)


 イベリスが母を庇う。


「兄上。母上を責めるよりもご自分の過ちに気付くべきでは?」


「……それはどういう事だ?」


 イベリスは聡い。綺麗で純粋な目で容赦なく真実を告げる。


「兄上は自分の手元にエリカさんを置いといて何もしなかった。エリカさんは兄上が何もしないから他の使用人達に虐められた。だから追い詰められた。だから母上に救いを求めた。兄上の所為です」


「虐められた? 私の所為? 私は知らない……」


 エリカは虐めの事など何も言ってなかった。


「知らなかったで済む問題ですか? 知らなかったから自分は悪くないと思ってますか?」


 ロベリアがムキになる。


「黙れイベリス! 兄様は忙しかったんだ! 王太子なのだからそこまでの事を気遣う余裕は無かったんだ!」


 イベリスはロベリアに冷たい視線を向けた。


「ロベリア様は黙って下さい。エリカさんは貧しい身の上だと兄上は理解してますか?」


「ああ」


(知ってはいるがそれが何だ?)


「……兄上。貴方は下の立場の気持ちを理解していないのですね。生まれながらに当然の様に全てを手に入れている兄上には到底理解出来ないかもしれません」


 イベリスは怒りを押し殺している様に見えた。


「下の立場は上の者の慈悲により生き延びられるのです。いつだって上の者の顔色を気にしなければならないのです。……私はロベリア様に嫌われていた。母上や父上そして兄上の誰かに救いを求めなければ生きていけなかった。分かりますかその恐怖? 赤子は一人では生きられないのですよ? すがるしか身を守る術が無いのですよ?」


「エリカも赤子だと言いたいのか?」


「はい。エリカさんには味方が兄上しかいなかった。その意味が分かりますか?」


(……嫌なところを突いてくるっ。確かに……私の所為だ。私がエリカと関わったばかりに……友にと望んだばかりに……エリカは死んだ)


 身分差故に死んだ。自分の身分の高さが憎らしかった。全ての人間が平等ならばエリカは死なずに済んだ。


(ならば……身分差を無くせば良い。……早く気付かなくてすまなかった。エリカ。どうか天界で叱ってくれ)


 私は弱い者を救うと天に誓いを立てた。


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