16,第一王子の切ない恋物語④
暇さえあればエリカの元へ遊びに行った。エリカの母は私を見て嬉しそうにエリカを見送る。エリカの顔色も良さそうだ。
「……あれから両親が優しくなった。お父さん。仕事場でいつも大変な目に遭っていたけど、ローダンセが私と仲が良いと知ってお父さんの仕事場での待遇も良くなった。全部ローダンセのおかげ。ありがとう」
(私はそこまで影響力があるのか?)
良い事なのだが少し複雑な気持ちになった。
「……ユニティ神って知ってる?」
エリカが突拍子もなく話し始めた。私は首を振った。
「知らない」
エリカは嬉しそうに笑う。
「人には身分や差別があるけど、ユニティ神の元では皆平等という教え。ユニティ神を愛する者は死後、天界に行く事が出来て不自由なく一生暮らせるらしい。両親はそれを信じてる。だから、ユニティ神が嫌う盗みや殺人を嫌う」
(なるほど、エリカが追い出されそうになったのは、ユニティ神を信仰していたからか)
ようやくエリカの両親の事が少しだけ理解出来た。
「平等とは良いな」
(人が平等であれば、エリカは初めからもっと良い環境で暮らせた)
エリカは少しおかしそうに笑った。
「……王族なのに平等が良いの?」
「確かにおかしな話だ」
(王族じゃない自分はどんなだろうか?)
そして8年が経った。私は15歳になる。婚約者が出来た。公爵家の令嬢ローズだ。確か同い歳だった。エリカは両親の勧めで城でメイドとして働いている。
私は父である国王の補佐をしながら勉強の日々を送っていた。忙しいとエリカと会話をする機会も減った。そして、婚約者は私の元に毎日来る。
「ローダンセ様っ! 今日も麗しいっ! 高貴な方って指先まで美しいのですねっ!」
戦いが嫌いな私は剣は持たない。すると当然手も綺麗なままだ。
(うるさい。今はまだ仕事中だ。じゃなくても来るな)
執務室で私は書類をチェックしているところだった。
「……ローズ。毎日来なくても良いから。私は忙しいんだ」
ローズはぷんすかとわざとらしく頬を膨らました。ピンクブロンドの縦ロールにふりふりのドレスが如何にも貴族っ! という感じだ。
「そんな事言って本当はわたくしと会いたくないのでしょうっ!?」
(凄いな。正解だ)
「そんな訳ないだろう」
「……知ってるのですよ? エリカという庶民にご執心だとか?」
8年も仲良くしてれば流石に貴族の誰もが知ってる。
「……友達だ」
「なるほど。そういう事にしてあげても良いですが……わたくしうっかり殿下に近づく薄汚いネズミを駆除してしまうかもしれません」
挑戦的に見上げる瞳にどす黒い感情が込み上げた。
「ローズ。……私を怒らせたいのか?」
「いいえっ! とんでもございません。唯、わたくしの事を放っておくと危ないですよ?」
口を弧に描くローズ。
「甘えたいだけだろう。こっちに来い」
気は乗らなかったが仕方なくローズを抱き寄せた。こういったスキンシップをしないとエリカに何をするか分からない。ローズは嬉しそうに頬を染めて目を閉じて何かを催促してくる。
(……無視して良いか?)
無視してると二の腕をつねられたので仕方なく唇を寄せた。
(キスとはつまらないものだな。何が良いのかさっぱりわからない)
廊下から慌てたような足音が去って行く。扉はローズが開けたままだった。
(一体どうしたんだ?)
ローズは満足そうな顔で説明する。
「ああ。ちょうどメイドが通りかかった様です。殿下のお友達ですから問題はございませんね?」
(……最悪だ。エリカに見られた)
「……悪いが出て行ってくれ」
顔を掌で覆い気持ちを落ち着けようとした。この婚約者を少しでも自分から引き離したかった。
「分かりました。ではまた来ます」
礼儀正しく淑女の礼をしローズは去っていった。




