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15,第一王子の切ない恋物語③

 

 私とエリカがそれぞれ湯あみをした後、私は湯気で上気したエリカの肩に両手を載せてある決意を伝えた。


「エリカのご両親にきちんと説明しよう。私だけでは信じて貰えないかもしれないから爺やもついて来て欲しい」


 爺やの方を見ると胸に片手を当てて軽く頭を下げた。


「かしこまりました殿下」


 エリカに向き直ると、こくりと頷いた。


「……それが良いと思う」


「よしっ! では早速」


 行こう! と言いかけたらエリカが止めて来た。


「ちょっと待って。お礼が言えてない……その……服ありがとう……可愛いって言って貰えて嬉しかった」


 口を笑みの形にし目が細められる。頬が湯あみの後で赤いのもあって破壊力があった。


「っ!?」


(笑った顔初めて見たっ!? 凄く可愛いんだけどっ!?)


 自分の顔が一気に熱くなった。


(えっ!? ちょっと恥ずかしんだけどっ!?)


 慌てて両手を振って顔を見ないで欲しいとジェスチャーしながら後ずさった。


 エリカは「……どうしたの?」と首を傾げる。


「な、何でもないっ! 気にするなっ!」


(くそっ!? 嬉しいのに恥ずかしいとか意味が分からないっ!?)


 爺やが背後で「ほっほっほっほっ若いですの〜」と微笑ましく笑っていた。


 すると突然扉が開いて5歳の弟のロベリアが抱きついて来た。


「友達が来たって聞いたんだっ! 兄さま俺とも遊んでっ!」


 にぱっと笑う弟に私は少し仰反る。


「い、今は忙しい。後でな」


(遊ぶ気分ではない。第一ずっと母を独占しようとイベリスを退けようとしていただろう?)


 扉から2歳の弟イベリスを抱っこした母がやって来た。黒髪に緑色の瞳の儚げな雰囲気だ。たれ気味の目を細めてエリカに笑いかける。


「貴女がローダンセのお友達ね? どうかこれからも仲良くしてあげてね」


 エリカは緊張しているのか、こくりと頷いて私の後ろに隠れた。母は「あら、可愛い」とくすくす笑っている。イベリスは良く分からなくて首を傾げていた。


 ロベリアがエリカを睨んで「兄さまは渡さないっ!」と言っている。


(ロベリアよ。その独占力どうにかならないか? 正直迷惑だ)


 呆れた私はロベリアに言い聞かせる。


「ロベリア。イベリスと仲良くしてくれ。兄さまは少し用事があるんだ。だから、後で遊んでやるから今は我慢だ」


(ロベリアはいつもイベリスに突っかかる。兄として情け無いと思わないのか?)


 ロベリアはぐずった。


「イベリスと仲良くするの嫌っ! あいつ俺を見下すっ!」


「まだ2歳だぞ? そんな訳ないだろう」


 とりあえずロベリアの頭をぽんぽんして宥めた。


(どんなけイベリスから馬鹿にされてるんだ? それって不味くないか?)


 ロベリアは「ぶー」と口を尖らせてとりあえず落ち着いた。


(……疲れた)


「エリカ行こう」


「……う、うん」


 ぐったりしながら私はエリカの両親の元へ向かった。





 雨は止んでいたが曇り空だった。夕暮れ時で薄暗い。アパートの玄関の呼び鈴を鳴らした。重厚な木製の扉が音を鳴らして開かれる。現れたのは目の下にくまがある色白の痩せた女性だった。女性は視線を下に向けて目を見開く。


「……どちら様?」


 何処となくエリカに似てるので母親なのだろう。友達の親御さんだから私は丁寧な挨拶を心掛けた。


「初めまして。ローダンセ・バザンです」


「え。ローダンセ……第一王子の?」


「はい。今日は娘さんの件で来ました」


「……!?」


 狼狽る女性は私の後ろにいたエリカを見て目を釣り上げた。


「エリカっ!? 一体何をしたのっ!?」


 エリカが何かやらかしたのだと勘違いした様だ。


 すかさず爺やが割って入って来た。


「マダム落ち着いて下さい。ローダンセ様はエリカ様にお友達として服を贈ったのです。どうやら、盗んだ物と誤解されたそうなので、こうして誤解を解こうと参ったのです」


「えっ!? そうだったのですかっ。それは大変申し訳ない事をしました。ですが、何故エリカとお友達に? うちは庶民の上に貧しい家庭です。仲良くしても殿下のメリットはありません」


(友達はメリットが無ければ作らないのか?)


 大人の思考は良くわからない。


「私が仲良くしたいからと思っただけなのですが……ご迷惑でしたか?」


(そちらが迷惑なら、エリカと関わらない様にするべきなのか? 気持ちは乗らないが……)


 女性は「とんでもないですっ! 仲良くしていただけるに越した事はございませんっ!」と慌てる。


 女性はエリカにニコッと笑い「ごめんなさい。誤解してたわ。早く上がって」と家に招いた。


 エリカは少し強張った表情で「うん」と頷いた。


「誤解が解けて良かったね」


 エリカは「うん」と答える。


(……良かった筈なのに胸が騒つくのは何故だろう?)


「それではこれで失礼します」と私はお辞儀をしてその場を去った。爺やが私にこそっと耳打ちする。


「エリカ様の事をどうかこれからも気にかけて下さい。何か嫌な予感が致します」


「そのつもりだ。……親というものは子が悪い事をすると家から追い出すものなのか?」


「陛下と王妃様がその様な事をすると思いますか?」


「いや絶対にしない。叱って何故か泣く」


 前にむしゃくしゃして壺を割った。値が張る物だったそうだが母は「怪我したらどうするのっ!?」と叱って泣いていた。壺よりも私が怪我してないかを心配していたのだ。


「エリカの母親は違う様だな」


(そうだ。エリカの母親の考えが分からなかったから気分が悪いのだ)


「もっと勉強せねばな」


 爺やは満足そうに「良い心がけです」と頷いた。



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