13,第一王子の切ない恋物語① (ローダンセ視点)
登場人物にバザン国第一王子ローダンセを追加しました。
好奇心に負けて私は7歳の頃に城下へと抜け出した。正直に言うと、両親が弟2人につきっきりで少し寂しかった。その寂しさを埋めようと、城下の人間と仲良くしたいと思った。
アパートと思われる建物の前に同い年に見える少女がホウキで枯れ葉を掃除していた。
(子供が掃除するんだ。掃除好きかな?)
家の事は大人がするものだと思っていた。だから、掃除する子が物好きなのかと興味を抱いた。
「ねぇ君。掃除が好きなの?」
女の子がこっちを睨んで来た。
「……好きな訳ないじゃない」
そっぽを向いて女の子は掃除を続けた。
(へー。好きじゃなくても掃除をするんだ。ここではそういうものかな?)
よく見るとワンピースの布がくたびれていた。
(新しい服を買って貰わないのかな? お気に入りの服?)
「新しい服は買わないのか?」
「……そんなお金うちにはない」
(お金がないっ!? ……そういえばお金って見た事がない)
全て使用人に生活用品は揃て貰ってる。買い物はした事ない。
(買い物ってどんな感じなのだろう)
「君は買い物出来る?」
「……一応は出来る」
「ならっ。私がお金を持ってくるから一緒に買い物に行こうっ! 明日またこの時間に来るからここで待っていてくれっ!」
「え」
私は女の子に一方的にそう告げて城へと帰った。明日が楽しみだった。
城に帰ると執事の爺やが心配していた。
「ご無事で何よりです。ご両親も心配していましたよ」
(父上と母上が私の心配?)
少しだけ嬉しかったが、様子を見にこないという事は忙しいのだろう。
「お金が欲しい」と爺やに伝えると「な、何か欲しいのでしたら、おっしゃって頂ければ用意致します」と返事が返って来た。
(それでは買い物が出来ない)
「私は買い物をしてみたい」
「買い物ですかっ。してみたいというお気持ちは大事です。爺やと共に行きましょう」
「私は城下の子と買い物に行きたい」
「なっ何とっ!? 城下にお友達が出来たのですかっ!? それは何よりでございます! ささっこちらがお金です。好きなものをお友達に買ってあげるのがよろしいかと思います」
「うん。ありがとう」
渡された袋の中にはずっしりと硬貨が入っていた。初めての硬貨に気持ちが昂った。
爺やは私に友達が出来たと嬉しそうだった。私の周りは大人ばかりだったから、同い年の子と仲良く出来るのか不安だったのだろう。
(私の初めてのお友達か。喜んでくれると良いな)
翌日。一方的に告げた時刻にアパートの前へ向かった。昨日の少女がそこにいた。昨日よりも格好がマシになっていた。昨日は縛っていただけの髪は今日は下ろしてあり良くとかしてあるのが分かる。少し赤らんだ顔でむすっと不機嫌そうだ。
「……遅い」
(待っていてくれてたんだっ!)
私の気分は高揚した。
「またしてすまない。さあ約束通り買い物に行こうっ! 好きなものを言うと良いっ! その代わりに私に買い方を教えて欲しい」
「……変な奴」
(赤い顔で言われても私は傷付かないぞ?)
折角出来た友達だ。大切にしたいと思った。
城下は活気に溢れていた。少女の為に新しい服を買ってあげたいと思い「仕立て屋に行こう」と言った。少女は「……そう」と仕立て屋に案内した。
恰幅の良い女店主のお店だった。木造の親しみ深い感じで落ち着く。
「おや? お坊ちゃんがガールフレンドに服を贈るのかい? 男前じゃないか」
ウインクする女店主。私は気分良く頷いた。
「ああ。この子にぴったりな服をくれ」
少女は慌てだした。
「い、良いよ。服なんて高価なもの買って貰うなんて申し訳ないし」
(さっきまでの余裕は何処にいったのだい?)
「いいや。贈る。君は私の初めてのお友達だ。これぐらいさせて欲しい」
「……お友達。……名前も知らないのに?」
(……そうだったっ!)
「私の名前はローダンセ。君は?」
「……エリカ」
「エリカ。うん可愛い名前だ。これで私達は晴れて友達だ。店主。エリカにとびきりの服を仕立てくれ」
「か、可愛いって……」
エリカはもじもじと恥ずかしがっていた。
女店主は「やるね〜。任しときなっ!」と豪快に笑った。
女店主に連れられエリカは奥の部屋に入って行く。時間を持て余した私は店の外へと出た。賑わう市場。貴族も町人に紛れてちらほらいた。
物珍しさにキョロキョロと品物を見ていると八百屋の店主が「坊ちゃん気をつけな。見たところ良いところの出だな。子供ってだけで人攫いに狙われるんだ。金持ちなら尚更、身代金欲しさに狙われる。路地裏には行かない様に」と注意された。
(路地裏?)
ダメと言われたら行きたくなる。不幸な子供の性に私は従った。
路地裏は静かで表通りと比べて薄暗かった。そしてーー
(死んでるっ!?)
薄汚れた格好の男の人が壁に背を預けて倒れていたから死体かと疑った。
「すぴーすぴー」
(生きてるっ!? 驚かせないでくれ!)
どうやら眠っている様だ。こんな場所で眠るなど私の常識では考えられ無かった。
(やむを得なくここで寝ている? 家が無いのか?)
「おーーい! お坊ちゃんっ! 大切なガールフレンドを置いて何処行ったんだい!?」
女店主の声が響いて来た。
「すまないっ! 今行くっ!」
私は慌てて仕立て屋に戻った。するとーー
エプロンドレス姿のエリカが居た。白いワンピースの上に赤いレースのエプロンが掛けられている。レースにはエリカの白い小ぶりの花が刺繍されていた。
「……置いて行くなんて酷い」
エリカはむすっとしていたけれども
「可愛いっ!!」
あまりにも可愛かった。
エリカはもじもじと恥ずかしがる。
「え……。そうかな……」
「うん! 可愛いっ! 店主よ。ご苦労であった。これがお金だが足りるか?」
袋ごと硬貨を渡す。女店主が袋の中を見てギョッと目を丸くする。
「足りるどころかまだ何着か買えるよ。はい。お釣りだ。こんな大金を子供が持ち歩くなんて危険だ。早くお家に帰るんだね」
(そうだったのか? お金の事は良く分からないな)
首を傾げて受け取ると、エリカが真剣な顔をしていた。
「……ここの店主は親切だからお釣りをくれた。他だとお金盗られていたかも。だから、店主の言う事守った方が良い」
(そ、そうなのか)
私は女店主に感謝した。
「お金の事もそうだが、エリカを可愛くしてくれてありがとう」
女店主はニッと笑った。
「そう言ってくれると、仕事のやり甲斐があったよ。エリカちゃんの事大事にしなよ。お坊ちゃん」
「ああ。無論だ」
(お金とは人を幸せにしてくれるが危険も伴うのか……。難しいな)
早く帰った方が良いと言う助言に従いアパートの前までエリカを送る。
「それじゃあまたね。明日も会えないかな?」
赤い顔で「……会う」と返事がきた。
「良かった」
まだもじもじしてる。熱でもあるのかと心配になってきた。
「エリカ。大丈夫か?」
「……え? う、うん多分」
(多分?)
「エリカちょっと良いか?」
私はエリカにグッと近づきおでこに自分のおでこを当てて熱を測った。
(母上に熱がある時こうしてもらったが……熱いな)
離れてエリカに「熱がある」と伝え様としたが……
エリカは真っ赤な泣きそうな顔でよろよろと家に向かう。
「エリカっ! 体調が悪いのでは!?」
心配して声を掛けたが、「い、良い。これ以上は危険。近付かないで」と拒否られた。
(え!? 何故!?)
「明日は会ってくれないのか?」
「会うけれど……今は無理。心配は要らない」
(会ってくれるのか! そうか心配は要らないのだな! 友よ! その言葉を信じるよ!)




