珈琲みたいな人生を送りたい
珈琲みたいな人生が送りたい。
「僕が淹れる珈琲っていつも砂糖いれるの忘れて途中で入れるんだけどね。いつも混ぜないから結局自分好みの味になるのは最後の一口なんだ。だから僕は珈琲みたいな人生を送りたい」
「よくわからないなあ。君のいう事はいつも難しい」
朝日のあたるカウンターでミルクティーを飲む。二人が言う。
「こういうのって解説しちゃうとカッコ悪いからあんま言いたくないんだけどね。要は君が僕にとっての砂糖なんだよ」
カーテンが風でなびいて彼に朝日があたる。幸せそうに笑っていた。
「結局よくわかんないよ。自称詩人さん?」
「ははは。酷いなぁ。一応何個か賞は頂いてるんだけどねえ」
飲みおわったミルクティーのカップを片付ける。
「ねえ、今度美味しい珈琲屋さん行こうよ」
「ねえ。珈琲飲みおわったの?美味しかった?……返事をしてよ」
彼と珈琲を飲みに行くことはなかった。
約束の日、いつもは待ち合わせに遅れないのに何時になっても来ないから家に行ってみたらいつものカウンターで昼寝をしているかのように彼は永遠の眠りについていた。近くには一口だけ残った珈琲があった。死因は急性カフェイン中毒。珈琲の中にカフェイン錠剤が溶かしてあったらしい。遺書は一言だけ。
「珈琲みたいな人生が送れてよかった」