「痔じゃありませんよ、癌です」
この秋が過ぎて年が明けたら50歳だというのに。
「30代から変わってないつもりなのになぁ」とか言う図々しくも呑気な母がいる。
その母が。
「検査するんで、今日は晩ご飯食べられないんだよね〜」と、言った。
子供を産んでから痔になる人は多いらしい。
私を産んでからずっとか!
随分長いこと良くなったり悪くなったりしていたのが、ここ数年かなり悪化していたそうだ。
それでも病院に行くのは面倒だし恥ずかしいので、市販薬を色々試していた、と。
初めは座薬で、でもそのうち入れる度に出血がひどくてあまりに痛いので、CMで見た内服薬に頼ったらしい。
それの注意書き『2週間続けても改善が見られない場合は、病院に行きましょう』的なことが書いてあったのに、ひと月以上粘って諦めたようだ。
「それいつ頃?」
「この冬」
「半年以上も前じゃん!?」
諦めて、それでもなかなか病院に行く気になれなかっただと。
肛門にあるイボはひょっこり外に出てきてて、それがついに常時出てるものだから、自転車に乗るにも痛みがあって。常に出血している状態になって。
悪化の一途をたどって、これはきっと病院に行って切除だと覚悟したらしい。
切るなら膿みやすい夏じゃないほうがいいと考えて、弟の体育祭やら文化祭やら色々行事の多い9月が過ぎて、保健センターから病院をいくつか紹介してもらったという。
「で、今日行ってきたんだけど」
「だけど?」
「診察台に載って、一目見てお医者さんが言ったの」
『痔じゃありませんよ、癌です』
なんで一目で判るのかねぇ?と本気で首をかしげてる。
「ちょっと待って。母さん健康診断、毎年受けてたよね?随分前に再検査が、とか言ってたよね?」
「うん」
前々回 検便で引っかかって、下剤を2リットル飲むという拷問的な前準備の後に、内視鏡を下から入れたけど。
「入れるのすっごく痛いのにさ、腸内は『なんともありません。綺麗ですね』って言われてね〜。内視鏡抜くのに出血してたのにそう言うんだもん」
だから前回も要検査が付いていたけど、痔を治さないことには痛いばっかりで意味がないなぁと。
「つまり、再検査しなかった、と」
「そう」
そう、じゃないだろ!?
「癌って、癌でしょ! なにそれ、どうすんのよ…」
母さん、死んじゃったり、するの?
「とりあえず、今日の病院で内視鏡検査して、癌って確認したら大きな病院を紹介して貰う」
動揺する私とは正反対に、なんて事ないみたいに母さんが言った。
「大丈夫だから」
あっというまに検査からの大病院の検査入院、そして手術。
「いや、ホント癌って聞いた時、これは死んだか!と頭真っ白になったんだけどね〜」
かなり痩せて退院した母さんは、今はもう元気。のほほんとそんな事を言っている。
身障者扱いになっちゃったけどね。
検診を受けましょう。再検査も受けましょう。




