義妹と殿下、婚約者と騎士
殿下がアリスンと話している間、私と残された騎士レナートは、さらに離れたところで待機する侍女共々、身じろぎせずに扉を見つめていた。
他の者は皆まだパーティー会場にいるのだろう、静まり返った宿舎だが、中の話し声は聞こえては来なかった。
そこまで考えてはたと思い、同じく立ち尽くしているレナートに話しかける。
「レナート、あなたも殿下も、こんなところにいても大丈夫なの?」
レナートは幼馴染みに近いので、自然と言葉が砕けたものになる。
「まぁ、あまりよくはないけどね。殿下が戻ってきたら、また会場に戻るよ」
レナートの家は代々近衛騎士で、爵位もあるのだが、あまり高くはない。この国ではレナートの家は王室に絶対忠誠を誓う特別な一族であることの方が有名である。また過去にも王家の血が入っていたりといわゆる傍系王族でもあるが、王位継承権は持たず、大臣などの側近や宰相、近衛騎士等の王家に近しい役割を担う重要な家であった。
なぜ爵位自体を上位としないのはさておき、貴族の中でも上位に位置するミュラー侯爵家とは立場的に似通っていた。
なので昔からの知り合いなのであるが、気づくとレナートは王子つきの騎士に抜擢されており、そして私は殿下の婚約者に選ばれてしまった。今はお互いに騎士、婚約者と言う殿下を通じた立場があるので、殿下がいるときはここまで砕けたもの言いはしないし、基本的に話すこともあまりなくなっていた。
「そういえば、私たちが出ていった後どうなったの?」
「大丈夫、君たちは入り口の付近で言い合いしてただけだし、すぐ出ていったからそこまでの騒ぎにはなっていないよ。周りにいたのも、皆君の友人だろう?あれが噂の…とか言ってたけど」
「そう…」
やはり根回ししておいて正解だったか。私のことを貶めたい人たちにアリスンのことを見られるのはあまりよくないと思って、周りを囲んでもらうようお願いしていたのだ。
声は聞こえてしまったかもしれないが…。
「それにしても、君から時々聞いてたあの子が、こんな状況になってるとはね…」
レナートは昔はたまにうちに来ていたので、アリスンの事情も少しはわかっている。と言っても、顔を合わせたことはなく、私の話でしか知らないけれど。
「初動を間違えたのは間違いないわ…お父様には悪いけど。ここまでほったらかしてしまったのは、本当に申し訳ないと思っているから、どうにかしてあげたいのだけど…」
「俺にできることがあれば言ってよ。シャーリー。幼馴染みのよしみで協力するから」
「ありがとう…」
金色の髪を揺らしながら笑いかけてくれるレナート。
昔からこういう優しいところは変わらなくて安心する。私もようやく意識しなくても笑い返すことができた。
「ところでその悪の権化、あの子の母上についてはどうなってるの?」
「そこは抜かりなくお父様が動いているはずよ。まぁ、なんにせよ遅すぎたけどね…」
私が呟いたところで、殿下が外へ出て来た。
「殿下…!」
「あぁ、シャーロット嬢。とりあえず、アリスン嬢はわかってくれたみたいだよ。」
殿下の言うには、私がアリスンをちゃんと心配して心を砕いてくれていることを伝えてくれたとのこと。
わかってくれたとは言うけど、殿下の前だからそう言っただけかもしれないし、引き続き、信頼を得られるようにしなくては…。
「彼女の母上のことは、本人も薄々わかってるようだから、どうしたいかは本人の意思に任せた方がいいかもしれないな」
そんなところまで話せたのか…
当事者じゃないから話しやすいところもあったのかもしれないが、少し悔しいと言うか、寂しいと言うか、今までのことを考えると仕方ないと言うのか複雑な心境だ。
今日のところはそっとしておこう、と促され、私は殿下のエスコートで会場に戻った。
その後は、少ししたら早々に屋敷へ帰ることにする。
お父様と作戦の練り直しだ。
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明日はおやすみ。