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義妹の真実

「私、捨てられちゃう、お母様に…みんなに…」

「アリスン!」


捨てられる。

その言葉を聞いたアリスンは、その場に崩れ落ちた。


やはりこの言葉はトリガーだったようだ。

私はアリスンをソファに寝かせると、部屋を出て待機をしていた侍女に伝える。


「アリスンの部屋はどこです?連れていって」




「これで、良かったのかしら…」


私はアリスンを学院の宿舎に寝かせながら、呟く。

アリスンの部屋は一人部屋だった。普通は二人以上がほとんどだから、もちろん侯爵家の力である。

アリスンは端から見てもうなされている。

普段強気に突っかかってくるところしか知らないから、複雑な心境だ。

いや、昔、はじめてあったときも他人に対して怯えの色を見せていた。

あの頃から洗脳は始まっていたのかしら。



あの女がアリスンを洗脳している。

そう言い出したのはお父様だ。


「アリスンは、ジュディスに捨てられることを何よりも恐れている」

ジュディス、あの女の名前だ。

「恐らく、自分の言うようにしないと捨ててやると脅しているのだろう」

「では私たちが助けてあげましょう!」

力強く言う私に対し、お父様は乗り気ではなさそうだった。

神妙に首を振る。

「今のアリスンから無理に引き離すと、心が壊れしまうと医者に言われた。どうも、アリスンは自分の存在価値をジュディスの言うように動くことと認識しているようでな…」


だからまず、ふたりを自然に引き離す必要があった。

無理に離すと、アリスンがジュディスを奪われたと勘違いをしてこちらに対して頑なになってしまう恐れがあり、そうなるとアリスンは完全に心を閉ざしてしまう可能性がある。

アリスンがジュディスに行動の指針を問えなくなると、自分の存在を否定されることになり、心がどうなるかわからない、と言うことらしい。

だから、アリスンの納得する形で、ふたりは離れなくてはならない。

それで待っていたのが学院への入学だった。



これから、私はアリスンにとってのあの女にならなくてはいけない。

私に依存させ、彼女の行動を指示し、どうしたらよいか教えていく。

それが当たり前になれば、あの女がいなくても問題なくなるはずだ。そうしたら、徐々に自分で考えて動けるように促す。

それが私とお父様が考えた作戦だった。


あの女のことを否定し、疑心暗鬼となり弱ったところを助け、次の依存先となること。

それがまず私の最初のステップだった。

本当なら、あの女にまずすがりに行くだろうが、今はそう簡単にあの女のもとには戻れない。自宅に帰るには条件やら手順がある。

アリスンはあの女に言われれば、どうにかして帰ろうとするだろうが、今はその指示は出ていないはずだし出せない。

だから、不安で帰りたいとは思っても、どうしたらいいかわからないと言う状態になると見ている。

そこに私と言う次の指針ができれば、依存先に選ばれ、ある程度の精神的な安定を得られると信じたい。

荒療治が本当に彼女のためになるかは全くわからない。

心が壊れてそのままなおらないかもしれない。

だが、このままにして置くわけには行かないのだ。

彼女のためにも。



一人決意を固めていると、アリスンの瞼が動く。


「起きなさいな、アリスン。」


「…?」


目を開けたアリスンは、体を起こし、キョロキョロと辺りを見回した。


「アリスン、大丈夫ですわよ。ここはあなたの部屋ですわ。」


優しく話しかけたつもりだったのだが、掛かっていた毛布を引き上げ、こちらを見たアリスンの眼には明らかに怯えの色があった。


「どうして、ここに?」

「忘れてしまったの?あなたが倒れたから侍女たちに頼んでここまで運んでもらったのよ」

「…じゃ、私はもう大丈夫だし、お帰りになったら?」


つっけんどんな対応に、さすがにすぐには返答ができない。


「…私はあなたを心配しているのですわ。だいぶうなされておりましたわよ」


アリスンは窓の外へ向き、こちらに視線を合わせずに言う。


「今さら私を心配なんて、本当にお優しいのですね。でも別に大丈夫だし」


嫌味だ。かなり刺々しい。


「あなた、お母様のもとには帰れないのでしょう。姉である私が面倒を見るのは当然ではなくて?」


アリスンはさっと振り向くとこちらを睨み付けた。

かなりの形相に、私は言葉を失う。


()()()()()()()は先ほど、自分を姉と呼ぶなと言いました。私はあなたの妹じゃないなら面倒を見る必要はないでしょ」


さあっと血の気が引く。

失言だった。あのときは、興奮して言葉を選んでいられずつい口にしてしまったことが、こんなに早く問題になるなんて。

このままではまずい。

アリスンは私よりあの女を選ぶかもしれない。

あの女はアリスンをただ利用しているだけだと言うことは明白だし、自分でもそれに気づいているはずなのに。

それなのに、私では駄目なのか。


「…」


なにも言葉が出てこない。

アリスンをどうにかして洗脳から脱させないと、いけないのに、このままでは…



コンコン



私が立ち尽くしていると、ドアをノックする音が。


「シャーロット嬢、ここにいるのだろう?少し良いか?」

「殿下…」


私はふらふらとアリスンの部屋を出て行く。

最後にアリスンの方を見ると、こちらを険しい顔で見ていた。

私はいたたまれず視線を外し、扉から滑り出る。



部屋の前で待機していたはずの侍女は少し離れた位置で控えていた。殿下の護衛も務める側近の騎士、レナートもそばに控えている。

部屋の前にいた殿下は、こちらを気遣うような視線を向け、微笑みを浮かべる。

私もぎこちなくならないように意識をしながら微笑んだ。


「殿下…、こんなところまでご足労頂き申し訳ございません。どうされましたか?」

「いや、君の妹が倒れてしまったと聞いてね。大丈夫かい?」

「え、ええ。体調には問題ございませんわ。」

「そうか…。ふむ。もし大丈夫なら、少し話をさせてもらえないか?」

「え…」


困惑が顔に出てしまったのか、殿下は取りなすように続ける。


「さっきの君の顔から言って、作戦があまりうまくいっていないんだろう?私の方から、君を頼るように言おうかと」

「まぁ…」


少し悩む。

殿下は私とお父様の《作戦》を知っている。

今私に対し頑なになっているアリスンも、殿下の言葉なら聞いてくれるかもしれない。

いろいろな事情をわかっている殿下なら、悪いようにはしないだろう。

でも、うちの問題に殿下のような方を巻き込んでも良いものか…


殿下は私の腕にそっと手を置き、じっと私を見つめた。

蒼い瞳に私が映っているのが見える。


「もう少し頼ってくれ。選抜された政略婚約だからと言って、遠慮することはない。君は私の友人でもあるし、君の妹のことも気にかけているから」

「ありがとうございます…」


ここまで言われてしまっては、拒否することはできない。

私は扉を明け、アリスンに声をかけた。


「アリスン、殿下があなたと話したいそうですわ。いいかしら?」

「…!?」


流石に驚いた様子のアリスンに、殿下が声をかける。


「アリスン嬢、中に入っても構わないだろうか?」

「はっははは、はいぃ!!」


私は殿下を中に誘うと、そのまま外へ出て扉を閉めた。

えーっと洗脳脱出プログラムはあくまでもシャーロットたちの作戦です。

参考にはしないように…(^-^;

明日はおやすみ。

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