婚約者内定と根回し
ここ、セレスティア学院は国の貴族の子女の通う学校である。
貴族たちはここでより高度な貴族教育を受けることになるが、それは建前で、各々将来に向けた人脈を築くための場となっていた。
もちろんよい成績を収めたものは王室の覚えもめでたいものになるし、下級貴族なら特に出世のために重要であった。
そして今は、王太子である王子が在籍しているため、王子の側近になろうと生徒たちはそれぞれが各自の得意分野で水面下の争いを続けていた。
王子が側に置く人材は、王子が自らが選ぶが、王妃や妾といった女性だけは違う。
昔、頭の悪い婚約者に溺れた馬鹿な王子が国を傾けたことがあったため、王子の寵愛を受けるに値するかどうか、審査が入るようになったのだ。
(ちなみに審査は王子が望めばいつでも何度でも行える)
女子生徒は未来の王妃になるため、なれなくても妾になりたいがために数々の審査に臨んだ。
そうして選ばれたのがミュラー家侯爵令嬢シャーロット。つまり私である。
ダリア賞にも2年連続で選ばれるほど品行方正で成績優秀、家柄良好、才色兼備と言う才女だった私に、反対の声がかかることもなく、トントン拍子で婚約者となったのであった。
あとは、家に今も我が物顔でいるあの問題さえ、解決すればなんの憂いもない。
もうすぐに控えている義妹の入学にそなえ、私はまずは根回しを始めた。
「ユーディット、もうすぐ私の義妹が入学してくるのよ」
「あら、あなたに妹がいるなんて初耳だわ」
「彼女は母親が平民で、血統的には従姉妹の関係なのですわ。色々あって、表に出せないまま来てしまったの」
「そうなの。表に出せない理由、聞いてもいいかしら?」
「ちょっとね…」
友人たちは、逆に興味を引かれたようだった。
私は友人と言う友人に、義妹のことを話した。
時には何やら思うところがある表情をしている人もいたが、もうすぐどうにかできるはずだから問題ない。
これは、彼女のためなのだ。
この先この学院で彼女がうまくやっていけるように。
「あの完璧令嬢シャーロットに電波な義妹がいたなんてね」
「何とかして目を覚めさせないといけないの」
もう5年くらい妄言を言われてきたので、彼女の行動パターンや言いそうなことなど、だいたい予想がつく。
はじめての社交の場になるであろう入学パーティーの場で、どういう展開になるか。なにを言うであろうか。あらかじめ友人たちには伝えておいた。
入学パーティーが社交界デビューとなる子女は確かに多いが、それまでにお茶会や交流会などを全く経験していない義妹。
なにをやらかすか。斜め上じゃないことを祈るのみ。
そして、一番に理解を頂きたいお方に話をする。
「私には実は義妹がいるのですわ。殿下」
「おや。ミュラー家の令嬢なんて、君くらいしか聞いたことなかったな」
「まぁ殿下ったら本当は調べなんてついているくせに。わかっているのでしょう?今の当主…お父様の兄の娘を養女にしたこと。そして、未だに社交界に出そうとしないこと」
「…何か理由でもあるのだろう。君や君の父上が、なんの理由もなく屋敷に軟禁したりしない。何か考えがあったはずだ」
「ありがとうございます。…義妹は、悪い母親に洗脳されているのでございます」
そう。
アリスンは間違いなく、あの女に洗脳されている。
それを解く時がきたのだ。
今日、少し前に入学した新入生を在校生が歓迎する入学パーティーが行われる。
テーブルセッティングから料理の発注やら会場の整備からすべて在校生が行う、在校生と新入生の入り乱れる初めての会だ。
アリスンにとってははじめての社交場。
私を見つければ、恐らく、何かしら突っかかってくるはずだ。
当日の私は、朝から珍しく冷静でいられなかった。
みぢかくなっちまった。




