33話 思惑
市ヶ谷真守の噂鎮圧を開始して3日目だが、経過は順調だ。
犯人は偽名という立場で悪評を広めたかった様だが、そんな実体が見えない不審者の言葉を全て鵜呑みにする程、周りは間抜けじゃない。
だから1年女子だけに流れていた悪評を別の偽名が全学年に同じ悪評を流せば、2つの偽名が同一かどうかの判別は不可能、更に文章の癖を同じにすれば同一犯と錯覚する人が多くなるのは必然で、そこに支離滅裂な表現を加えれば、悪評の信憑性が下がるのは当然だろう。
次に市ヶ谷真守への批評抑制だが、本人の主張を最低限に、周りが誤解だと伝える様にした。
人は本人よりも周りの意見を重視する生き物で、その周りが矛盾のない説明をすれば、悪評の信憑性は下がる。更に兄さんが市ヶ谷真守の味方をする事で、兄さんとの立場を悪くしたくないA組女子も噂をしなくなるという算段だ。
木葉優奈の中傷は予想外だったけど、首謀者の女子はヤンキー軍団に連行、仲良くカラオケをして翌日から大人しくなり解決となった。
そしてこの件の副産物として、私達5人に手を出せばヤンキー軍団に絡まれるという噂が広がり、更に私と同中の生徒が『平和な高校生活を望むなら、佐藤美緒には関わるな』という触れ込みを流したので、私達を悪く言う輩は誰一人としていなくなった。
これには少々不本意な点があるけど、今は良しとしよう。
こういう事は火事と同じで、迅速な初期消火が大事だ。
合コンという軽率な行動には怒りを覚えたけど、真っ先に報告した所は評価している。
問題の隠蔽・放置による肥大化は誰もが愚行と認めるものだが、いざ自分に降りかかってきた時、正しく行動できる人間は少ない。
それにこの問題は市ヶ谷真守が相談に来た日、散々話し合った後に徹夜でSNSに偽装の噂を流すという手回しまでしたのだから、上手くいってもらわないと困る。
市ヶ谷真守は…………………………、兄さんの更生に不可欠な存在だから。
とにかくこれで悪評は収まった。
ただ私としては、適度に犯人情報をリークして追い詰めようとしたのに、市ヶ谷真守はそれを拒否、この事態を自然消滅で終わらせる手段を選んだ。犯人は兄さんを〝貴公王子〟という中学のあだ名で呼び、真っ先に1年女子に噂を流した点から、同中だった女子なのは明白、もう見当もついていたというのに。
確かにもう犯人が新たな噂を流しても誰も信用しないし、目立つ行動をすれば自滅する状況にはしたけど、甘い考えだ。
そう感じたのに、私は市ヶ谷真守の意見に同意してしまった。
どうしてあの場で頷いてしまったのかは今でも分からないけど、本人がそう望んでいた訳だし、もう犯人が余程のバカじゃない限り、大丈夫だろう。
そう思っていたのに。
こういう人間は、損得よりも感情を優先して動くという事を、嫌という程に思い知らされてしまったのである。




