29話 正面突破
「おはよー伊万里ちゃん」
「おはよう優奈、市ヶ谷の連絡見た?」
「はい。駅前で待っていてほしいとの事ですが、何でしょうか?」
「きっと今後の話。……はぁ」
もう高校生なのに、こんな下らない騒ぎに巻き込まれるとは思わなかった。嫌いなら無視すればいいのに、あえて近づいて来る真理が理解できない。ただの変態行為。
世界は争いが絶えず、そもそも人間は十人十色だから価値観が違うのは当たり前。全ての人間同士が仲良くなるのは不可能。だけど分かり合えないなら無理に干渉せず、お互いに正しい距離感を取れば、争いは避けられる筈。
ほんと、これだけで充分なのに。
「駄目だよ伊万里ちゃん。溜息は幸せが逃げちゃいますよ」
「優奈は相変わらず。不安じゃないの?」
「私には伊万里ちゃんがいますし、市ヶ谷君もいます。だからきっと大丈夫ですよ」
優奈は本当にイイ子だ。
美人なうえに性格もよく、今の言葉も根拠のない希望的観測なのに、優奈の笑顔があれば本当に大丈夫だと思えてしまう。
柄じゃないけど、この笑顔を守る為に頑張ろう。
そう決心した時、市ヶ谷がやってきた。
とんでもない爆弾を持って。
◇ ◇ ◇
佐藤大輔はイケメンである。
しかも長身なので集団に紛れても頭1つ分飛び出すので勝手に視線を集め、更に顔の下にある細マッチョ体型にまで視線が強制的に流れてしまい、そこに成績もイイという情報が加わればもう無敵、性格が残念という事実は無根になるのである。
木葉優奈は美人である。
胸が大きいのにお腹が引っ込んでいるチート体型で、健全な男子達の視線が下がるのは致し方なく、更におっとりとした性格で誰にでも優しく、そこにアンダーリムの赤縁メガネというマニアック属性が加わればもう無敵、一部女子から猛烈に嫌われているのは些細な事なのである。
なのでもしこの2人が一緒に登校すれば、羨望・驚愕・嫉妬という様々な感情で騒がれるのは必然、そこに美人妹まで加われば阿鼻叫喚となり、そしてこの騒動のど真ん中に放り込まれた私は、この元凶を作った張本人に八つ当たりをしている所ある。
「市ヶ谷、何これ? どうしてこうなった? 誰がここまでやれと言った?」
「おおひゅきひゃん、いひゃい。ほんひょうにいひゃい」
当然だ。
今までの抓りはちゃんと手加減したけど、今回はそうする理由がない。
これじゃ騒動鎮火どころか、炎上商法みたく全部丸焦げだ。
「大丈夫、全て計算通りよ。大月さん」
「うっ、佐藤妹」
さっきまで佐藤兄・優奈と一緒にいて大注目だったから、私は少し前を歩く市ヶ谷の所に非難したけど、どうしてこの件と無関係な佐藤妹がここに?
「はじめまして、でいいかしら? 同じ中学だから面識くらいはあると思うけど」
「同中なら佐藤妹を知らない人はいない」
「そう、光栄だわ」
噂通りの威圧感。
まだ4月なのに佐藤妹がいるC組一同は誰も逆らわなくなったと聞いている。
正直、佐藤兄以上に関わりたくなかった存在だ。
「美緒、お前中学で一体何を…………、いやいい。それで木葉さんには説明したの?」
「ええ、快く了承してくれたわ。兄さんが木葉さんと話せる話題も提供済みよ」
なっ!
佐藤妹を呼び捨て!?
確かに市ヶ谷は佐藤兄と幼馴染、その妹と交流があっても不思議じゃないが、佐藤妹の中学時代を知る身としては、驚愕の一言。
「これから状況説明をするけど、あなたには質問に答える形式の方がいいかしら?」
「じゃあ質問、何この状況? あえて犯人に喧嘩を売る意図が不可解」
そう訴えると、佐藤妹が問題の写真3枚が掲載させてSNS画面を見せてくる。
「この犯人の目的は悪評で兄さんとコレとの仲を裂き、コレを孤立させる事よ。だからまずそこを潰す。そもそもこんな噂で縮こまるなんて馬鹿らしいじゃない。そうは思わない? 市ヶ谷真守」
「はい、美緒の言う通りです!」
佐藤妹に服従する市ヶ谷の姿を見て察した。
嫌な信頼関係だ。
「もっと穏便なやり方は?」
この至極全うな問い掛けに、佐藤妹が笑顔になって
「勿論あったけど、時間が掛かるうえに根回しが面倒だから却下したわ。それにこういうトラブルは時間を優先すべきよ。何よりも、犯人の思惑通りに事が進むのが気に入らない。だからこの犯人が嫌がる行動を選びながら問題を解決させるわ」
なんという天邪鬼。
中学時代、佐藤妹に敵対すれば消されるって噂があったけど、ここまでとは。
そんな佐藤妹に戦慄していたら、市ヶ谷が聞いてきた。
「美緒、まさか大輔と木葉さんをカップルっぽく歩かせているのって」
「ええ、犯人への当てつけ。この光景をどう感じるか、考えただけで愉快な気分になれるわ。大月さん、あなたも兄さん目当ての糞ビッチ設定よね? 並んで歩いてみる?」
「謹んで辞退させて頂きます」
そもそも身長差があり過ぎて全然カップルに見えない。
それに私は糞ビッチじゃないので。
「そう。まぁそれは木葉さんだけいいわ。あと大月さん、私と友達になりましょう。大丈夫、3日だけでいいから。それまでに全てを終わらせるわ」
「………………………………………了解」
こんなにも頼もしく、ドン引きな友達は初めてだ。
恐らくこの問題は佐藤妹の宣言通り、3日で解決するだろう。
数々の犠牲と共に。
「市ヶ谷、何故笑う」
「いや、美緒に友達ができて良かったなーって」
確かに佐藤妹には友達が皆無だから市ヶ谷の反応も分かるが、釈然としないのでまた頬を抓ってから
「じゃあ友達記念として、佐藤さんも抓って」
「分かったわ」
そうして市ヶ谷の頬が力強く掴まれ、更に佐藤妹の手首が90度曲がって、
ぐりっ!
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ」
悲鳴と共に市ヶ谷が飛び跳ねた。
私の方は全然なのに、佐藤妹が抓った場所は一瞬だったのに真っ赤に染まっていて、そんな光景に思わず笑ってしまった。酷い状況だけど、こういう遠慮無用で滅茶苦茶な空気は嫌いじゃない。
だって私は、面白い事が大好きだから。




