プロローグ2
「ばぼるうううううっ、行っじゃやだぼおおおおおぉぉぉおおお」
「泣くな大輔、涎が垂れ流しだぞ!」
小4、引っ越し当日に態々訪問して、全力で泣きじゃくりは勘弁してほしい。昔は俺も引っ越しの度に泣いていたけど、クラスのお別れ会で貰う寄せ書き色紙が4枚目となれば、もはや悲しむのも馬鹿馬鹿しいというものだ。
「でぎゃびだじゅからあああああっっっ、じゃぐじょぐだぼおおおぉぉぉおおお」
「ああ、手紙の返事は必ず出す。約束だ。だからいい加減泣き止め!」
過去の引っ越し後に文通をした事はあるけど、全て音信不通という悲しい結末なので、もう自分から送る気はない。
今回は、どれくらい続くかな?
「でぼ真守がいじゃぐなっだら、僕どうずべばいいじょ?」
「それなら散々話し合って、何をすべきか書き出しただろ。暇な時にそれやっとけ」
「……………うん、分がっだ。ごのリズドバンドも、大切にじゅる」
「おう、大事にしろよ!」
涙でぐっちょりな顔をハンカチでグリグリと拭ってから、同じリストバンドが付いた手で握手を交わす。
大輔は泣き虫で、臆病で、喋るのも下手糞な奴だ。
そして俺はいつ居なくなるか分からない身の上だから、クラスで孤立していた大輔と仲良くするのが丁度いい居場所になると判断して、転校後に友好的に話し掛けてきたクラスメイトを全部無視して嫌われ者と仲良くした俺は、変人扱いされるのと同時に、孤立する事に成功したのである。
それに大輔は予想通り面倒臭い奴だったけど、根気よく話を聞けば何が言いたいかは分かったし、純粋で素直だったから、一緒にいた時間は、案外楽しかったのだ。
だから引っ越しを伝えた時は、全力で大泣きされて離れてくれなかった。
なし崩しにその日の夜、大輔の家でお泊り会をするレベルで。
だからその時に話し合ったのだ。
今後、どうすればいいのかを。
そもそもこいつの場合、友達作り云々よりも、貧弱で泣き虫なのが問題だから、自分自身を鍛え治した方がいいという結論に至り、ネット情報を吟味してからチラシの裏紙に項目を書き出した後、大輔の部屋の壁に貼っ付けてやったのだ。
===【大輔と真守の約束】======================== ========
・週6ランニング(雨ならヒンズー・スクワット)
・週3筋トレ
(腕立て2回 ★腹筋20回★ 背筋10回)
テレビ見ながらでいいからやれ!
終わったらバナナかプロテイン
・勉強頑張れ!
・寝る前にホットミルク(寝る子は育つ)
※余裕になったら難度UP
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てっきとーに書き出したけど、大輔のスペックを考慮すればこんなものだろう。何せ腕立て伏せ1回で死にそうになる奴だからな。しかも腹筋20回は無理って嘆いてきたけど、女子の正義が巨乳である様に、腹筋は男子の嗜みで最重要課題だと、延々語って説き伏せてやったのだ。
そして俺が引っ越すまでの数週間、時間を作って一緒に運動もしてやった。背中を押しながら走ったり、腹筋で上がらない胴体を引っ張り上げたりで、ほんと手間のかかる奴だったけど、俺が大輔に残せるものは、これくらいしか思い付かなかったから。
「んじゃー俺行くわ。美緒も来てくれてありがとな。兄妹仲良くしろよー」
遠巻きにこちらをじーっと眺めていた大輔の妹にも手を振ってから車に乗り込み、小4の新学期から冬休みまでという時間に区切りを付けて、この場所を後にした。
傍から見れば感動的なお別れだったのかもしれないけど、今まで住んでいた場所から離れていく虚無感は、今までの引っ越しで感じてきたものと同じで、黙りこくって運転をしている父さんと母さんとも、この時はどう会話をしていいのかが分からない。
それに引っ越しが決まる度に父さんは俺に謝ってくれて、母さんもいつも以上に優しくなってくれて、そんな両親だからこそ困らせたくはない。偶々俺が引っ越しの多い子供として生まれただけで、この境遇を悔やんでも意味はない。
だから全部受け入れて、ついて行くだけだ。
だけど今回、俺は仲良くなった友達に大泣きをされてしまうお別れをしてしまった。
人付き合いのやり方、もっと考えた方がいいな。




