28話 食中毒?
「そうよ~、あれがあったから2人は立ち直ったの~」
あれにそんな価値があるとは思えないけどなぁ。
「それに真守君は約束通り文通を続けてくれたじゃない。だから離れ離れでも真守君は大輔を支えてくれた。それに美緒もお兄ちゃんが立ち直ったのに、自分だけ塞ぎ込み続ける訳にはいかないわよね~」
彩さんがそう締め括り、改めて〝市ヶ谷真守・観察日記〟を見てみたけど、各引っ越し先で何も残さない様に努めてきたけど、こんなものが作られていたとは夢にも思わなかった。5年前に一番仲良しだったのは大輔で間違いないけど、俺を一番理解していたのは、美緒だったのかもしれない。
「うふふ、そんな経緯で2人が成長して中学生になったけど、そこから色々あったのよ~。特に大輔がね~」
「女の子にモテ過ぎて、破産したり携帯を解約したりBLに染まったりですね」
「あら? どうしてそれを?」
「あっ。まぁその、美緒からちょっとだけ」
この言葉で彩さんからニンマリ笑顔を向けられてしまい、失言だった事を悟った。
「あらあらうふふ、そうだったのね~。変装してまで合コンに行ったのも、真守君が気になって仕方なかったからなのね~」
「いや、美緒が気になったのは大輔の方で、俺はオマケですから」
「そ~んな事ないわよ~。合コンで倒れた真守君を、美緒はず~っと看病していたのよ~。ベッドで寝ている真守君の制服を私が脱がせて、最後の1枚も剥ごうとした所で美緒に締め出されて、そのまま部屋に留まったんだから~」
「それは看病じゃなくて警備です。てゆーか脱がせないで下さい」
「え~、だけど最近の美緒は明るくて活き活きとしているのよ。きっとこれは真守君の影響よ~。家族にお土産を買ってくるっていう有り得ない行動までしてきて~」
「ああ、あのケーキ」
「えっ? どうしてケーキって……、ああ~~~」
しまった!
全力で墓穴に転げ落ちちゃったよ!
ただでさえご機嫌なのに、もう彩さんは嬉しさ飛び越えて興奮気味に言い寄られる体勢になっちゃったよ。
「あらあらあら~、そういう事だったのね~。ごめんなさいね~、真守君からのお土産って美緒が言わないから気付かなかったわ~」
いや、あれは間違いなく美緒が買ったケーキです。
俺が払おうとして腹パンされましたから。
だけどあんな馬鹿っぽい経緯を説明しても信じる訳ないし、ほんとどうしよう。
「真守君は大輔だけじゃなく美緒とも仲良くなってほしかったけど、心配無用だったみたいね~。もしかして2人はもう付き合っているのかしら?」
「違います。そもそも彼女持ちで合コン行く訳ないじゃないですか。それに肘鉄で失神させてくる子と付き合うのは、それなりの覚悟が必要なので」
「そこよっ! 彩さんはその辺りが一番気になってるの! 真守君が美緒をほったらかして他の女の子の好感度ばっかり上げてるんじゃないかって所が!」
俺は事実無根の中傷、大輔は不登校寸前って状況なのに、それが一番でいいの?
てゆーか何でこんな話に?
ちょっと前までしんみりムードじゃなかったっけ?
「このままじゃ美緒の青春は灰色よ! 彼氏どころか友達の必要性すら感じてなさそうで、だから美緒が真守君を我が家に連れて来た時はとっても嬉しかったのよ! 大丈夫っ! 彩さんも協力するから! あの貧相な胸も、今日から毎日牛乳を飲ませて少しでも大きく…」
「何の話しをしているの?」
「さ、美緒っ!?」
屋上庭園の入口に現れ、ゆっくりと近づいて来るけど、不機嫌オーラが駄々漏れである。てゆーか、俺の前に来てからゴミを見る様な目で蔑んでくるんですけど。
「暫く席を外してとは言ったけど、屋上でティータイムとはいい御身分ね。私の青春と胸の話題で食べるスイーツは美味しい?」
「いや、そんな事は……………、ごめんなさい」
「怒らないで美緒。最初はちゃ~んと真面目な話をしていたし、そのささやかな胸の心配をしたのも私だから。それで大輔は落ち着いたの?」
「ええ、今はあなたに謝りたいって家中を探しているわ」
何か言いたげな反応をしてから美緒がそう答えくる。できれば協力してほしいのだが、こういうトラブルに首を突っ込むのは苦手そうだし、どうすれば…
「それでどう解決するの? あと正確な状況把握もしておきたいから、今すぐ話し合いたいのだけど」
「えっ? それは勿論するけど、……怒らないの?」
こちらとしては願ってもない要請だけど、大輔の更生を頼まれたのにこの有様だから、真っ先に叱咤されると思ったのに。
「問題解決が先よ。失敗を延々と追求するより、今後について議論をする方がずっと生産的。それにこの件で一番悪いのは悪評を流している奴よ。そこを履き違えないで」
ほんと、美緒は真っ直ぐだなぁ。
周りには融通の利かない堅物にしか見えないだろうが、俺には正論と正しく向き合っていて、他の誰よりも信頼できる人間に見える。問題解決した後がやっぱり怖いけど、それでも今は全力で頼ろう。
「分かった。美緒の調査能力が凄いのは改めて分かったし、情報も全部話す」
「ええ、上手くいけば犯人特定もできるわ。……………改めてって何?」
「あっ、いや、それは……」
やばっ!
そういえばさっきの観察日記、ひょっとしてとんでもない爆弾なのでは!?
すぐにこの場から撤退せねばと思ったのも束の間、美緒が彩さんの方を向いてしまい、
「そのニヤケ顔止めてくれない? 目障りなんだけど」
「うふふふふふ、お気になさらず~。やっぱり2人はお似合いよ。美緒だってず~っと真守君の見てきたしね~」
「何を言っ……………………、っっ!!!!!」
彩さんの手元にあるノートを発見して、美緒が絶句してしまった。
捨てた筈の観察日記が目の前にあって、しかも傍にはその観察対象と母親がいる。
ここまで酷い黒歴史の露呈が、他に存在するのだろうか。
「美緒、これは…」
そう言った刹那、美緒が右肘を大きく振りかぶって俺の懐に突っ込んでくるのと同時に右脇腹が疼き、考えるより先に生存本能が右腕を下げて脇腹をガード!
僅かに俺の方がはや
ドボォォォッッッ!!!!!
「げぼはっ!」
右脇腹への肘鉄を空振ってからの、左脇腹グーパン……だと………
俺の腕にガードされる直前で肘鉄の軌道が下がり、腹部を掠めて肘鉄が振り抜かれた後、関節の稼働限界まで振り上げられた腕が更なる反動によって振り落とされ、無防備に晒された左脇腹に美緒の拳がめり込んだのである。
その威力……、肘鉄と甲乙……………、付け…難し…………………………
「きゃああああああああああああああ」
体感的には10メートル以上吹っ飛ばされた感覚で、ティータイムのテーブルを巻き込みながらぶっ倒れてしまい、食器が落ちる金属音と共に彩さんの悲鳴が響いた。
「美緒、あなたなんて事を! 今ので真守君のフラグがろっ骨と一緒にへし折れたかもしれないわよ! きゃ~~~、脇腹に美緒の拳マークがクッキリと!」
「ふんっ、右をこれ以上攻撃するのは可哀相だから、今回は左にしてあげたわ。有り難く思いなさい」
そんなツンデレ発言(?)を吐いた美緒が〝市ヶ谷真守・観察日記〟を回収するのと同時に、ドタドタと足音が近づいてくる。
「今大きな音が聴こえたけど、って真守ううううううううううううう!」
この無惨な光景に大輔が駆け寄り、ぐったりとした俺をお姫様抱っこしてから叫んだ。
「酷いっ! 誰がこんな事を!」
「食中りよ。その証拠にお腹が赤くなっているわ」
間髪入れずに美緒が指摘して、そのまま大輔が彩さんの方を振り向いて。
「駄目だよ母さん! ちゃんと賞味期限を守らないと!」
「えええぇぇぇぇえええええ~~、ちょっと美緒、それはいくらなんでもあんまり…」
美緒が抗議を遮って彩さんに詰め寄り、大輔に見えない様にしながら日記を掲げて。
「何でこれがココにあるの? ……どこまで話したの?」
「そ、それはね~。捨てちゃうのは勿体無いかな~って思ったから~。親としてコレは大事にすべき物だと思ったのよ~。どこまで話したかは……………、てへっ」
ぷちっ
「兄さんはそれを客室のベッドに寝かせて。私はこれを片付けるから」
「さ、美緒~。片付けるのは食器よね? どうして私から視線を逸らさないのかしら~」
「さぁ、どっちかしらねぇ」
にじり寄る美緒に対し、それでも笑顔を絶やさない彩さんだが、冷や汗だらっだらである。
「ねぇ美緒~、ちゃ~んと手加減してくれるわよね? 真守君も、実は演技でそんなに痛くなかったよ~って恍けていいのよ~」
そんな事を彩さんが言っていたらしいけど、俺はとっくの昔に気絶していて、この後どうなったのかは分からない。美緒のパンチをくらった後、これだけを切に誓って意識を失ったのだから。
腹筋を鍛えよう。生きていく為に。




