27話 観察日記
「あれは小4の真守君が引っ越してくる数ヶ月前、美緒のお友達が我が家に遊びに来たんだけど、その時に『豪邸だ!』って騒がれてね~。翌日からクラスでお金持ちって茶化される様になって、しかもその子が美緒の物を奪って『頂戴、金持ちだからいいでしょ!』って言われて大喧嘩になっちゃったの」
うわぁ、子供の所業とはいえ、きっついな。
美緒じゃなくてもキレて当然じゃないか。
「それから両保護者が呼ばれて、その子も一応謝ってはくれんだたけど、どう見ても嫌々な様子で、親も変な人で話にならなかったのよね~。その後も美緒が悪いって風潮にされてクラスで孤立して、その理不尽さに耐えられずに荒れたのよね~」
「大変だったんですね」
「それ美緒を不登校にさせたの。それから暫くして落ち着いてくれたけど『あの子がいる学校には絶対行かない』って譲らなくて、それで先生に相談に行ってみたら、その子はもう転校済みだったのよ」
「えっ、何で?」
「美緒の事で調子に乗ったみたいで、すぐに別件の騒動を起こしていたの。元々トラブルの多い子だったみたいで、しかも別件の被害者の親が影響力のある人でね~」
何てゆーか、最近の教育現場は戦場というか、壮絶だなぁ。
「それでどうにか美緒を1ヶ月ぶりに登校させたんだけど、その1ヶ月で10キロも太っちゃてね~。家ではもう暴飲暴食で大変だったのよ~」
おおぅ、俺が初めて出会った時はデブだったけど、そんな経緯があったのか。5年ぶりに再会した時は痩せたなーって感じたが、どうやら今が本来の姿だったらしい。
「変貌した美緒に近づく子は誰もいなくて、美緒自身も『誰も助けてくれなかった』って、学校の人間全てを信用しない捻くれ者になっちゃったの。そしてこの頃になってようやく大輔の異変に気付いたの。美緒に付きっきりだったせいで油断しちゃったのよね~」
「その、親って大変ですね」
「ありがとう。大輔と美緒は別クラスだったけど、美緒の騒動で色々言われたらしいの。だけど私や美緒に心配かけない為に、ず~っと我慢していたのよね~」
あいつ、臆病で気弱なのに……、ほんと不器用な奴だな。
だけど大輔は大輔なりに気を使って、頑張って耐えていたのだろう。
「美緒は捻くれて暴飲暴食、大輔も泣き虫になったりと、もう彩さんはどうしたらいいの?って泣きたくなった所で、真守君がぜ~んぶ解決してくれたのよ~」
「……………えっ? あの、確かに大輔とは仲良くしましたけど、美緒は俺達を見ているだけだけで、何もしていませんよ?」
「うふふ、美緒にはそれで充分だったの。ちょ~っと待っててね~」
そう言って彩さんが席を外してから数分後、1冊のノートを持ってきたのだが
「すみません。この〝市ヶ谷真守・観察日記〟って何ですか?」
「んふふ~。これは美緒が作ったものよ~」
えー、マジで?
確かにずーっと見られていたけど、まさかこんなものを作っていたとは。
「美緒にとって真守君は特別だったの。騒動に加担しなかった子も信用できない美緒だったけど、転校してきた真守君は例外だったのよ。しかもその子が唯一信用しているお兄ちゃんとお友達なら、そりゃ~気になっちゃうわよね~」
「な、なるほど。でも何で観察?」
「うふふ、じゃあ一緒に日記を見ましょうかね~」
=====【市ヶ谷真守・観察日記】================== =========
●4月17日(月)
お兄ちゃんが〝市ヶ谷真守〟という人間と仲良くしている。私とも一緒に遊ぼうってさそわれたけど断った。アレは私を助けなかったヤツらじゃないけど、同じかもしれない。だからみきわめる事にする。アレがホンモノかどうかを。
●4月18日(火)
休み時間にお兄ちゃんのクラスに行くと、2人でお話しをしていた。アレがお兄ちゃんにキガイを加えるようすはなく、楽しそうである。
●4月19日(水)
観察をしていたらアレに「昨日から見てるけど…」と言われたので逃げた。かくれ方がダメだった。すとーかーはムズかしい。
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そういえば、出会った頃の美緒はやたらちょろちょろしてたっけ。
何かの遊びと思って放置したけど、こういう事だったのか。
「可愛いでしょ~。真守君に気付かれない為にどうすればいいか真剣に悩んでて~」
「そうですね。途中から観察そっちのけで隠れ方ばっかり考えてますね」
読み進めると、俺に見つかったかどうかのスコアまで作られている。
そうして美緒のストーカー精度が上がっていく中、気になる文章があった。
=====【市ヶ谷真守・観察日記】================== =========
●5月10日(水)
お兄ちゃんの悪口を言ってきた奴を、アレは笑顔でちょっと話しただけで追い払った。その後もお兄ちゃんと楽しそうに遊び続けて、トラブルは起きなかった。私は間違ってないってちゃんと説明したのに上手くいかず、アレは上手くいった。
なぜだろう。考えても分からないから観察をつづけよう。
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「これって」
「美緒には衝撃だったのよ。自分には出来なかった事をあっさり解決させた真守君の姿がね」
「いや、多分適当にあしらっただけですけど」
「だけど美緒は真っ直ぐな性格だったから、こういうやり方を知らなかったのよ」
そんな感じで俺の観察にどんどん熱が入っていくのだが。
=====【市ヶ谷真守・観察日記】================== =========
●5月15日(月)
アレは食べ残しをしない。マズいぶどうパンも我慢して食べている。理由をお兄ちゃんに聞いたら、好き嫌いばかりだと変なおじさんがしまっちゃいに来るかららしい?
●5月16日(火)
アレがマッチョな人を見た時、けいさつかんのポーズ(敬礼)をしていた。
どうやらマッチョはエラいらしい。
●5月17日(水)
習字の授業で、新しいふでを『ふでおろし!』と、とくいげに使っていた。
意味が分からなかったので辞書で調べてみた。やっぱり男はさいていだ。
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「すみません。滅茶苦茶恥ずかしいんですけど」
「あらあら、とっても可愛いじゃないの。隠れてこの日記を盗み見るのが、当時一番の楽しみだったのよ~。もう面白くてね~」
まぁ、娘に捻くれ続けられるよりはマシかな?
悪趣味だけど、自分の子供が何をしているかを把握するという大義名分もあるし、いいのかな?
しかもこの観察日記は毎日更新されていて、美緒の記録を通して懐かしい日々を思い出しながら読み進めていき、残りページが僅かになった所で、何の脈絡もなく終ってしまったのだ。
「あれ? ここで終わり?」
休みなく続いていた観察が、12月23日で唐突に終了している。
「この翌日が、真守君が引っ越すのが分かった日よ」
「あっ」
そういえばそうだった。
何の予兆もなく2週間前に引っ越し宣告されるのが我が家の恒例行事で、しかもあの時は2学期最終日の前日に連絡がきて、年明けの3学期前に移動という最悪のタイミングだったのだ。
なのでクラスのお別れ会は簡素なもので、即席で作られた寄せ書き色紙を貰うだけで呆気なく終了。あとは大輔が大泣き、佐藤家クリスマスパーティーに強制参加のうえにお泊り会という怒涛の展開だったのである。
「真守君がイイ子なのはすぐ分かったし。この日記を通じて美緒も立ち直ると思ったのに、まさか観察が半年以上も続いて、真守君が引っ越しちゃうのは予想外だったわ~」
「あの、途中で諭したりしなかったんですか?」
「こういう事は本人の気の済むまでやらせないと意味がないし、私も美緒が納得するまで待ってあげたかったの」
「じゃあ、俺が去った後どうなったんですか?」
「そりゃ~2人とも落ち込んだわよ~。美緒は一見大丈夫そうだったけど、ある意味大輔よりも深刻だったわ。しかもこの観察日記がゴミ箱に捨ててあったから回収したの。だけど真守君の置き土産のおかげで、2人とも立ち直ったのよ~」
「えっ? ……………まさか、あのてっきとーに書いたチラシの裏紙ですか?」




