24話 自己犠牲
やーっと脇腹の痛みが引いた月曜の朝、藤田からの「やったか?」の問いに「やってない」と返してから合コンを振り返り、藤田は神岸さんと携帯でお互いの飼い犬自慢、かく言う俺も七瀬さんに引っ越しばかりな境遇を伝えたら妙に納得された後、各地で巡った観光地の話題で盛り上がるなど、関係は良好だ。
ただ大輔は財布に入れた筈の田中田さんのメモ用紙をなくしたらしいのだが、どう考えても美緒の仕業だろう。
そして下野は本当に美容室に連行され、あの長ったらしい前髪がバッサリ、本人は慣れない様子だが、以前よりもずっと好印象に変貌したと伝えたら、嬉しそうな反応をしてくれました。
そんな感じで今日はこの4人でずっとつるんで、周りも新しい組み合わせだからか視線を感じる場面が多かったけど、なーんかいつもと違う感じがする。
気のせいかな?
―【勉強会(3)】――――――――――――――――――――――――――――――
大月 :【緊急呼び出し】今すぐ1人で校舎裏に来て
※画像3枚添付
市ヶ谷:すぐ行く
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放課後になって帰ろうとしたら連絡が入り、大輔に断ってから急いで校舎裏に向かい、待っていた大月さん・木葉さんと合流した。
「急に呼び出してごめん」
「ううん。問題ない」
人気のない校舎裏に呼び出しなんて、男子なら意識しながら向かっただろうけど、添付された写真のせいで、そんな気持ちは微塵も感じる事ができなかった。
「随分と楽しんだみたい。合コン」
「市ヶ谷君、……本当に、お持ち帰りしたの?」
「この後解散して何もなかったから。全然説得力ないけど」
3枚の画像うち2つが先週末にやった合コンの解散前の現場写真で、1枚目は俺が田中田さんの色時掛けで絡まれている場面、2枚目は美人と一緒にタクシーに乗り込む場面という、浮気現場の決定的瞬間みたいな写真だったのである。
「まず1枚目ですが、被告人はこの女性の胸を鷲掴みしていますね?」
「異議あり! よく見て下さい。その女性は俺の腕を掴んでいます」
「ほぅ、これは女性の方から胸を押し当てている。つまり痴女に襲われ中と主張する訳ですか?」
「うぐっ、まぁその通りです。てゆーか大月さん。このノリ何?」
急に裁判?始まっちゃったよ。
あと田中さんごめんなさい。あなたを痴女認定しちゃいました。あれ? 中田さんだったかな? 俺はどっちの胸を鷲掴みしたんだっけ?
「では2枚目ですが、先程の女性2名とは違う美人とタクシーに乗り込むという急展開ですが、行き先はホテルですか?」
「この人は……俺の知人で、夜遊びが見つかって強制帰宅されている場面です」
「証拠はありますか?」
「大輔も同乗して家に送ったから、大輔の親が証人だ。それに1枚目の女子2人は大輔が本命で、俺を引き留めれば大輔も残るって算段の色仕掛けだから」
「ほほほぅ、…………………………本当みたいだね」
「良かったです」
この反応はどういう事だ?
2人とは定期的に勉強会をするだけの仲で、他の女子と会ったから嫉妬されるという関係にはなっていない筈で、合コンに行ったのも告知済みだ。茶化されて感想を求められるくらいはあると思ったけど、どうにも空気が重い気がする。
「ところで、この3枚目の写真は?」
それは合コンとは全く関係のない、俺達3人が図書室で勉強をしている写真だった。勉強会は週2ペースで行っていて、これは合コン前に撮られたものだろう。
そんな何気ない質問をした筈なのに、木葉さんが心配そうな顔で俺の手を掴んできて、大月さんも溜息交じりに俺の肩に手をのせてきたのだ。
「市ヶ谷君、これは誤解されているだけです。だから……、えっと……」
「これが3枚の写真が載っていたオリジナル文章。読んで」
大月さんが携帯を差し出したので見てみると、それはクラス女子のSNS部屋で、とあるアカウントが3枚の画像と共にこう綴っていたのだ。
〝市ヶ谷真守は女子の胸を触ってくる変態〟
〝ラブホ経験あり〟
〝貴公王子を利用して合コン三昧〟
という、市ヶ谷真守を徹底的に中傷する文章が羅列してあったのだ。そしてこの文章をじっくりと凝視した後
「この貴公王子って何?」
「中学時代の佐藤のあだ名。第一声がそれ?」
「ここまで露骨だと寧ろ清々しいなーって。あっ、別に傷ついたりはないから安心して。引っ越しで色んな人間関係を見てきたし、過去10回の転校先で歓迎されない場面もあったから」
今回はやっかみかぁ。
影でネット拡散だから、陰湿な性格だろう。こういう相手には正論が通じないし、写真まであるから説明しても言い訳と解釈される可能性が高い。偽名だから犯人も分からないし、これからどう動くべきか……
ギュッ
「ってええ? 木葉さん何で抱きしめ…、って何で涙目なの!?」
「だって、だってだってー」
訳が分からない!
淡々と現状を語った後にどうすべきかを考えていただけなのに、何で木葉さんが悲しむのさ!?
「市ヶ谷、今どう対処すべきかだけを考えてたよね?」
「うん。事態収拾は早い方がいい。おかしい?」
「異常。一瞬で割り切るなんて普通は無理。市ヶ谷の闇が垣間見えた。それに引っ越し多かったとは聞いたけど、10回もあったの?」
「小学校から換算すればね。それ以前も含めればもっとだけど」
それより今は木葉さんをどうにかしないと。でも泣いている女子を引き剥がす訳にもいかず、大月さんにアイコンタクトで助けを求めても無反応という有様だ。そんな困惑しかできなかった俺に、木葉さんが涙の理由を答えてくれた。
「私はショックです。市ヶ谷君のおかげで伊万里ちゃんと仲良くなれて、昨日は私の中学友達とも再会できました。全部市ヶ谷君が背中を押してくれたおかげです。だからこの悪口を見た時、私はとても悲しかったです。勉強会が佐藤君目当てと揶揄されたのも、辛かったです」
「えっ? 大輔目当て?」
「私と優奈は、佐藤大輔とお近づきになる為に市ヶ谷と接触した糞ビッチ設定なの。こっちは佐藤と優奈が接触したら騒がれそうだから避けてきたのに」
そんな馬鹿な!
大輔には悪いと思ったけど、クラス1美人である木葉さんとの組み合わせは嫌な予感しかないので、勉強会の事は伏せてクラスでも2人に話し掛けない様にしてきたのに、巻き込むなんて酷過ぎる。SNS文章を見た限り、犯人が憎んでいるのは俺だけなのに、攻撃材料として使えるという身勝手な理由だけで2人を貶めてきたのだ。
「分かった! 俺はともかく、木葉さんと大月さんが無関係って事だけはすぐに証明させる。だから俺は勉強会を止めて、もう2人とは…」
会わない様にする。
そう言おうとしたのに、踏み止まってしまった。七瀬さんの顔が過ったのだ。




