22話 強制終了
「んじゃー解散です! お疲れ様で…」
「ストーーーーーーーーップ‼ ねぇ、3次会やらない?」
七瀬・神岸さんが抜けた6人で集合、藤田が合コン終了の合図をしようとした所で、田中さんが切り出してきた。……いや違う中田さんだった。
「いやもう9時過ぎだし、これ以上遅くなるのは危ないよ」
「そうだぜ田中、最近の不審者はガチで危ねーから止めとけって。それに制服でこれ以上の夜遊びは警察に補導されちまうかもだぜ!」
「じゃあ自由参加でどう? 週末で明日学校ないし、もうちょっとだけ遊ぼうよ! カラオケしない?」
正論で諭してみたけど、中田さんが引いてくれない。
あと藤田、それ田中さんじゃなくて中田さんだから。
「折角仲良くなれたんだし、もっと親睦深めようよ。佐藤君もそう思うよね?」
「で、でも真守の言う通りもう遅いし……って、うわぁ!?」
大輔が否定的な態度を示した途端、田中・中田さんが両サイドから大輔の両腕にしがみ付いて、全力で体を押し当てている。
「うわぁ、やっぱり太くて固い! 逞しい!」
「これ他の男子より絶対凄いって!」
腕です。腕のことだからね。
「そ、そんな事ないよ。あと2人とも離れて。お願いだから」
「「カラオケに行くなら離れますー」」
何てゆーか、色仕掛けもここまで露骨だと、ドン引きだなぁ。
田中・中田さんに対する大輔の反応はずっと淡白で、このまま別れれば連絡先交換したとはいえ自然消滅の可能性があるからもうひと押し!っていう2人の気持ちはよく分かるけど、流石にここは引き下がってもらおう。
「大輔、これ以上は門限アウトだろ。それに9時解散って約束を2次会前にしたので、3次会するにしても俺と大輔は欠席します。藤田と下野はどうする?」
「わりーけど俺も駄目だぜ。流石にこれ以上は親がうるせーから」
「同じく」
「という訳で、もう遅いので解散しましょう」
「「ええー」」
もう結論は出ているのに、田中・中田さんが大輔から離れようとしてくれない。なのでもう大輔を無理矢理引っ張って帰ろうとしたら、こう思ってしまった。
これ以上、踏み込んでいいのか?
これは大輔の問題であり、自分に責任はない。そもそも今までの自分ならとっくの昔に1人で帰っている。後で何か言われても「説得したけど駄目だった」で通るし、友達の為って口実があれば何してもOKって訳じゃない。過剰干渉はお節介の筈だ。
いや待て、ここで大輔を見捨てたら美緒にぶっ殺される訳で、きっとこれが七瀬さんの言う一期一会で…、訳が分からなくなってきた。
「えっと、その、僕は真守に従うから」
だから決定権を丸投げするな。
俺はお前じゃないし、そもそも5年も会ってなかったのにどうしてそこまで信じられるんだよ。
そんな葛藤で動けずにいたら、田中・中田さんが俺にガッチリと抱き付いてきたのだ。
「市ヶ谷君って結構イケてるよね。背もそれなりで太くないし、印象だって悪くないよ」
「もし付き合ったら、女子をちゃんと幸せにしてくれる男の子って感じするー」
両腕から女の子特有の柔らかさが!
大輔はずっとこの感触を堪能して羨ま……って落ち着け、どう考えても俺を落とせば大輔も来るって算段の色仕掛けだよ!
「ねぇ、市ヶ谷君、4人でカラオケしようよ。ちゃんとみんなで楽しめる様にするから」
「大丈夫、七瀬には黙っておくし、今夜限りでも構わないよ」
うぐっ……、あからさまな罠なのに、童貞には断れない口説き文句だ。
週末に男女4人でカラオケ(暗い密室)なんて、何が起こるか分かったものじゃなく、下手すりゃオールナイトで間違えだらけになっちゃうよ!
俺も男である以上、こういう事もやぶさかではないけど、そうなったら今後大輔と絶対ギクシャク関係になる訳で、美緒が知ったら俺が死ぬまで肘鉄を止めないだろう。
だけどもしココで断って今後女子との縁がなかったら、一生後悔するに違いないっ!
そんな人生になるくらいなら、思い出を作ってから美緒に殺されるのも…
「おーい市ヶ谷・佐藤、俺達はもう用済みっぽいから帰るぜ。勿論この事は他言無用にすっから。男の友情だぜ!」
「ちょっ、見捨てる気か藤田っ!」
俺がトリップしている間に、もう帰る気満々の藤田と下野が、手を振りながら答えてきた。
「わりー、田中には合コンセッティングの恩義があっから止めらんねーよ。市ヶ谷、今日は色々まとめてくれてサンキューな。じゃーなー」
「ご武運を」
「ガチで撤収かよ! この薄情もの!」
ううっ、これは本当にヤバい、このままじゃ押し切られる!
大輔も一緒に帰ればよかったのに俺の傍から離れないし、そりゃー俺自身が毅然とした態度で断ればいいだけだけど、人生初の色仕掛けは想像以上の破壊力で、理性を保つだけで精一杯なんですけど!
「うふふ、佐藤君達は帰らなかったから、OKって事だよね」
「やったね。じゃあ行こっか! 勿論ちゃーんとサービスするからねー」
「ま、真守ぅ……」
大輔、そんな萎んだ声出すくらいならお前が断れよ!
そんな煮え切らない態度だからこうなったんだぞ!
「その、中田さん、やっぱりこれ以上遅くなるのは……」
「今更何言ってるのー。それに私は田中ですよー」
「ああ、ごめん…って頭を首筋にグリグリしないで! ってたな、じゃなくて中田さん! 俺の手を何処に押し当ててるの!」
俺の手が中田さんの胸に押し当てられて、柔らかな心臓の鼓動が伝わってくる。もしこの指を動かしたら、15年間ずっと謎のままだったあの感触の正体がっ!
ってヤバいヤバいヤバい!
このままだと本能に流される!
とにかく落ち着かないと!
箸を持つ方が右手で、おっぱいを鷲掴みする方が左手で……ってもう駄目だ! 頭がフットーしそうだよおお! 田中さんも頭をグリグリ中で、もう思考回路がショート寸前で諦めようとしたら。
「子供は帰って寝る時間よ」
後ろから強引に襟首を引っ張られて田中田さんから分離できたけど、知らない美人がいた。スタイルの良いショートの女性で、セクシーな服装と化粧が相俟って、大人っぽさが際立っている。この人と比べたら、田中田さんが子供と評されても仕方がないレベルの美人さんだけど、どちら様? どっかの大学生?
「あなた誰ですか?」
「ちょっとおばさん、邪魔しないで下さ…」
ギロッ
田中田さんが抗議した途端、物凄い殺気が放たれ、全員が押し黙ってしまった。
「私はこれの知り合いで、これ以上の夜遊びは許可してないから連れて帰る。文句ある?」
暴力的な威圧に、反論どころか意見すら許さない勢いだ。
てゆーか、俺はこんな美人のお姉さん知りませんけど?
「ま、待って下さい。俺は大輔を家に送らな…」
ズゴギィィッッッッッ!!!!!
「……………………げほっ、……ぁぁアぁあ…………………」
未知の衝撃が脇腹に突き刺さり、声にならない嗚咽が洩れる。
今のは……、肘鉄?
じゃあ……まさか……………
「兄さんは私が連れて帰る。後で洗い浚い白状してね」
やっぱ……り……、……………さ……ょ…………………
美人の正体が判明するのと同時に、警告通り手加減なしの肘鉄をくらった俺は、そのまま意識を失い、人生初の合コンが終わったのである。




