21話 一期一会
「うう~、酷いよ真守。恥ずかしかったよ~」
「すまんすまん、焚き付けて悪かった」
予定通り21時前にファミレスを出て、今みんなで駅に向かっている所だ。
大輔は田中・中田さんのべったり応酬でクタクタになっていて、美緒に合コン終了の連絡はしたけど、これは家まで送るべきだろう。
「ねぇ真守、前に『ノリと勢いだけで騒ぐ場面』があるって言っていたけど、今日のがそうだったのかな?」
「あー、そういえば前にそんな事言ったな。多分そうだ」
「そっか。じゃあその、大変だったけど、楽しかった、かな」
ったく、強がっているのが丸分かりだよ。
無理しやがって。
「大輔、お前の女子に対する苦手意識だけど、流石に過剰過ぎないか? 確かに田中・中田さんはベッタリだったけど、そんなに駄目だったか?」
何気ない質問だったけど、目に見えて大輔の表情が曇ってから、
「うん。自分でもそう思っているけど、前に気を許した後……」
そう呟いた後に大輔が押し黙ってしまったので、とりあえず背中を撫でておいた。よく分からないけど、大輔の闇は深いらしい。だけど〝楽しかった〟と言ってくれたし、経緯はどうあれ藤田には感謝しておかないとな。
「そういえば藤田、終盤に神岸さんと仲良くなっていたけど、何かあったの?」
「ああ、お前が七瀬さんと消えた時にチラッと話してみて、俺が柴犬飼ってるって話題だしたら『私はプードル』って返されて、写真の見せ合いっことかで結構盛り上がったぞ」
「へぇー、じゃあ連絡先交換したの?」
「え? してねーけど」
「何でだよ。どう見ても連絡先GETのチャンスだったろ」
「いやー、七瀬さんしか眼中になかったからなー。つーか、おめーはどうなんだよ? 七瀬さんと一緒に戻ってきて、その後にあーんだぞ! 絶対何かあっただろ!」
ぐっ、やっぱりそう見えるか。
「ちょっと話しただけだ。連絡先も聞いてない」
「おいおいおーい、全っ然駄目じゃん! おい下野、このヘタレに何か言ってや……」
振り返ると、中二病が羨むレベルの漆黒オーラを放ちながらトボトボ歩いていたので、無言の相槌をしてから、一緒に下野を優しく撫でてあげました。
「ドンマイ、今日はお前にとって日が悪かった。そういう日もある!」
「気にし過ぎは駄目だぞ。俺もフォローばっかりで戦果なかったから」
下野からすれば本当に何の成果も無く、時間の無駄だったとさえ断言できる内容だったから、もう割り切るしかない。そんな無言を貫いていた下野だが、首を左右に動かしてきた。
「……………それでも、合コンに来て良かったと思う。今の自分を思い知ったし、これから頑張ろうって気分になれたから」
そんな呟きに、藤田が下野の背中をバンバン叩いた。
「おおっ、そうだぜ下野っ! 何事も経験で、そういう葛藤?がイイ男の近道だ! つーかその無駄に長い前髪切れやっ!!」
「うん、今日は下野にとっていい機会になった。俺達が保障する」
ただの意地だったとしても、きっと間違ってない。
この言葉に同情抜きで励ましあったのが何よりの証拠だ。
「その、下野君、僕もその考えは正し…」
「「勝ち組は何も言うな」」
「えええええぇぇぇぇぇえええ! 2人とも酷いよー」
大輔の励ましは死体蹴りになるだけで、イケメンにも適材適所がある。そんな総括でこの合コンが終わると思いきや、意外にも下野からこう言われてしまった。
「自分はどうしようもないけど、藤田は神岸さん、市ヶ谷は七瀬さんに一声かけたら?」
この言葉に、俺と藤田で顔を見合わせてしまう。
「でもよー、俺と神岸さんは相性微妙だろ。ちょっと話しただけだし、おさげ眼鏡だぜ」
「横で見てたけど、藤田と話す神岸さんは楽しそうだった。あと七瀬さんは市ヶ谷の方に興味がある。藤田は七瀬に拘り過ぎ」
「うぐっ。……まぁ途中から分かってたけどさ。だけど、おさげ眼鏡だしなぁ」
下野の意見に藤田が唸っていて、どうにも納得できないらしい。
お前はおさげ眼鏡に恨みでもあるのか?
神岸さんの清楚で大人しいキャラと相俟って良く似合っていると思うけど、藤田的にはもっと垢抜けた容姿の方がポイント高いらしい。だったら、
「藤田。神岸さんが髪を下ろしてメガネ外したら、絶対美人だぞ」
「…………………………マジで?」
おおう、てきとーに言ったのに超食い付いてきたよ。
それから藤田が目を瞑って、10秒くらい微動だにしなかった後に。
「…………………………いいかも」
気持ち悪い笑顔だなぁ。
「藤田、女の子の評価基準で外見は重要だけど、内面もちゃんと見ろよ」
「いやいや中身も見てるって! マジで!」
「じゃあ解散前にアドレス交換したいって特攻したら? ペット仲間って事で」
「だな! じゃあ行ってみるぜ!」
ノータイムで行っちゃったよ。
今からタイミング云々な話になると思ったけど、すぐに動けるって凄いな。あと先行する女子グループがずっと固まっているけど、何をしているんだろう。
「神岸さーん、今いい?」
「ええっ? どうして藤田君の方から!?」
「んっ? 何その反応? タイミング悪いなら戻るけど」
「いや、その……………、これをどうぞ!」
急に差し出されたメモ用紙を、藤田が受け取った。
「これって、神岸さんのメアド? ……あれっ、どして?」
「藤田君の柴犬がとっても可愛かったので、これからもペット仲間としてお話がしたいです。あとにダーツの時も楽しかったです」
「あっ、はい。ありがとうございます」
「だから、その、まずは友達という事で。…………………………失礼します!」
遠目からも神岸さんの顔は真っ赤で、これ以上は恥ずかしさに耐えられないという感じで逃げてしまった。それから藤田がぽかーんとしながら、
「俺は彼女を追い駆けた方がいいのか?」
ううーん、どうだろう?
もう駅前で逃げた方向も駅だったし、ここはそっとしておいた方がいいのではと思っていたら、七瀬さんが前に出て首を振ってきた。
「私が追いかけよう。藍から藤田君と連絡交換したいと相談されて、先程まで女子で作戦会議をしていた所だよ。買ったばかりで携帯操作に慣れていないからメモ用紙を渡すという線で用意していたのだが、段取りが全てパーになってしまった。やれやれだよ」
「そ、そっすか」
「なので悪いが私達は先に解散させてもらう。藤田君、今日の合コンはとても楽しかった。ありがとう。よければ今後、藍と仲良くやってれ。……じゃあ、さようならだ」
最後の〝さようなら〟で、七瀬さんと目が合った。
散々チャンスを逃してタイミングが悪いのは百も承知だけど、それでも藤田はすぐに行動して、神岸さんは勇気を出した。だったら。
「七瀬さん、まだ再検討中ですか?」
立ち去ろうとした背中を呼び止めてから、携帯を差し出した。
「俺の人間性についての評価が保留のままです。なので分かったら連絡下さい」
「……ぶっ」
「笑わないで下さいよ」
「いや、そんな言い訳染みた口実を出してくるとは思わなかったのでな。君は本当によく分からない奴だよ」
「こんな経験は初めてで、段取りが悪いのは目を瞑って下さい」
「ふむ、若さ故にという奴か。ではゆっくりと考えるので受け取ってくれ」
そう言って七瀬さんの連絡先が書かれたメモ用紙を渡された。
「藍がメモを作る時、ついでに作っておいて正解だった。私も君に渡したかったからな」
「立ち去ろうとしていましたよね?」
「私から渡せば君は業務的な反応をするだけで、その後も希薄な関係になるだけだと勘繰ってしまったのだよ」
……………否定できない。
引っ越しが続いたせいで、親密な関係はずっと避けてきたからなぁ。
「ふっ、どうやら図星の様だな。要するにお互いが望まなければ関係は続かないという事だ。君はもっと〝一期一会〟を大事にした方がいいぞ」
一期一会:人と人との出会いは一度限りの大切なものである
生涯で一度しかないと考えて誠意を尽す。茶道に由来する諺。
「七瀬さんはお節介ですね」
気付かされてばっかりで、もう失笑しかできない。
「そんな事はない。ここまで踏み込んだのは君が初めてだよ」
「じゃあ、踏み込んでくれた理由があるんですか?」
そう尋ねると、考える素振りをしてから意味深な笑みを浮かべてこう答えてきた。
「愛だな」
「……ぶっ」
「笑うとは失敬だな」
「さっきのお返しです。長々と引き留めてすみませんでした。神岸さんを追って下さい」
「おお、そうだった。ではまた会おう〝真守〟」
不意打ちの呼び捨て退場に、本当にもう笑うしかない。
そうして受け取ったメモ用紙を眺めていたら、男子達が駆け寄ってきた。
「やったな市ヶ谷! 今度4人でダブルデートしようせ! 途中でパートナー交換な!」
「交換するな。神岸さんが聞いたら泣くぞ」
「とにかくよくやったぜ! 最後に俺達は有終の美を飾ったんだぜ!」
「だな。ありがとう下野、後押ししてくれて」
「……………別に。ただのお節介だし」
「んなことねーし! 超感謝してっから! だから礼として俺様行き付けの美容院に連れてってやるよ! そのウザくて長い前髪ぶった切ってイケメンにしてやるぜ!」
そんな感じで藤田と下野がじゃれ合っていると、大輔が俺の方に来てくれた。
「真守、その、おめでとうでいいのかな?」
「おう、ありがとな」
そう答えて握手を交わすと、一瞬だけ固まった大輔が嬉しそうに答えてきた。
「今の真守は、昔の真守みたいだね」
そっか。大輔だけじゃなく、俺も変わっていたんだな。
5年も経てば変わって当たり前だけど、俺は七瀬さんが言う〝一期一会〟を軽んじてきた悲しい変化だ。〝大輔の更生〟を託されてはいるけど、これじゃあどっちが更生対象なのか分からないなぁ。
だから大輔を更生させるついでに、俺も変わってみよう。




