20話 渡り鳥の習性
個室が空いていたので男女交互になる様に着席、みんなの好物を話題にオーダーして、趣味やあるある話をしていた所で料理が到着。それからも身近な流行を話題に盛り上がり続けて、次はスイーツのオーダーかなというタイミングで美緒からの着信が入る。なので水を差さない様にひっそりと個室を出て、恐る恐る着信にでてみると。
『合コンは楽しい? あと、まさか三次会に行ったりしてないわよね?』
「いやいやっ、今もファミレスで9時前に解散する予定だから!」
『あらそうなの? それにしては合コン特有の姦しい奇声が聴こえてこないけど?』
「店の入口に移動してから電話に出たんだよ。個室で電話はマナー違反だからな。あとせめて騒がしいって表現にしてくれ」
『同じ意味でしょ? けど、……………ふーん。なるほどね』
変なカマをかけてくる辺り、やっぱり怒ってる。
激おこのプンプンだよ。
『念の為、お店を出る時に連絡して頂戴。じゃあまた』
ふぅ。一瞬の通話だったのに心臓に悪過ぎる。
てゆーか、もし大輔が無事に帰れなかったら、俺の命も帰れな…
「今話していたのは、君の彼女かな?」
「うわっ! って七瀬さん!? 何でココに?」
急に耳元で囁かれて、思わずバックステップしちゃったよ。
「トイレの帰りだよ。……ふむ、今の驚き具合から察するに、黒だな」
「違います! 背後から急に囁かれたら誰だってビックリしますし、それに彼女持ちで合コンは駄目でしょ?」
今でも七瀬さんの声が脳内でこだましっぱなしだから、照れ臭くて目を合わせ難い。なのに当の本人は余裕たっぷりで、同い年なのに完全にあしらわれているなぁ。
「……ふむ、君は嘘を付くタイプには見えないが、当たらずとも遠からずといった所かな」
うぐっ、反応し辛い。
てゆーか、俺と小夜の関係って何だろう?
友達はしっくりこないし、大輔の更生を命じられての関係だから………、上司かな? そんなタジタジ反応が続く中、七瀬さんが言葉を続けてくる。
「合コンとは面白いな。親密になりたい相手にどんな行動を取るか、その言動で人間性が滲み出てくる。実に興味深い」
「そんな風に俺達を見ていたんですか?」
「楽しみ方は人それぞれだろう。因みに私の見解では、藤田君は一直線で周りを引っ張れる、下野君は社交性が乏しく繊細、そして君の相方である佐藤君は、臆病だが優しい男だな」
そんな全てを見透かしてくる様な瞳で語った後、まっすぐに俺を見据えてきた。
「そして君の評価なのだが、その前に1つ質問してもいいかな?」
「ど、どうぞ」
若干気圧されながらも愛想笑いで首を縦に動かすと、
「君は楽しんでいるのかな? 市ヶ谷真守君?」
真正面からぶつけられたこの言葉に、息が詰まる。
「君のおかげで合コンは楽しいものになった。私が女子代表として礼を言っておこう。急なカラオケ中止からの対処、周りへの気遣いと適切な話題提供、同い年なのにここまで見事な対応ができるのかと感心してしまったよ」
「そ、それはどうも」
「だが君はそれだけで誰にも好意を向けなかった。この合コンは急な増員があり、佐藤君の付き添いで嫌々連れて来られた口かと思ったが、君は私達全員と友好的になろうという姿勢で、だがある程度親しくなれば距離を置く。まるで〝知り合い以上・友達以下〟の関係を望んでいるかの様だったな」
「……………………………………………………」
何度噛み締めても、全く反論が思い付かない。
大輔と別れてからの5年間、俺は七瀬さんに言われた通りの人付き合いをしてきた。波風が立たないこの距離感なら、ぼっちにはならず、お別れもあっさりとできたから、ずっと平和で何の問題もなかった。
だけどそれは市ヶ谷真守という存在が、何処にも残らなかったという証でもある。
もう引っ越しはないのに、今までの自分に引っ張られていた事に気付けなった事実に唖然としていたら、七瀬さんが俺の肩を掴んできた。
「すまない。私なりの意見を伝えたいだけだったのだが、君を傷付けてしまった」
そう詫びてから、頭を深々と下げられてしまった。
「あっ、いえ、これはビックリしただけで、別に傷ついた訳では」
戸惑いながらの謝罪に七瀬さんの表情が曇ったままで、ココは謝罪を重ねても無駄な場面だ。だったら…
「じゃあ俺も七瀬さんに言いたい事があるのですが、いいですか?」
「ああ、構わない。何でも言ってくれ」
まっすぐな視線で俺を見据えていて、これはもう何を言っても大丈夫そうなので、偽らざる気持ちを伝えておいた。
「ありがとう、ございます」
ヤバい。想像以上に恥ずかしい!
七瀬さんも固まっちゃったし、渾身のギャグがド滑りした感じになっちゃったよ。
「重ねて申し訳ないのだが、何故私は感謝されたのだ? しかも君が辱めを受けた様になっていて、私としては非常に困るのだが」
「いや、七瀬さんの意見には驚いたけど、悪意はなかったし、俺自身も本当にその通りだと思ったから。むしろズバッと教えてくれて有り難かったというか、ってごめん! ずっと気を付けてたのに喋り方が馴れ馴れし…」
「ぶっ、あっはははははははは」
思いっ切り笑われてしまった。
周りのお客さんや店員に注目されて、超恥ずかしいんですけど。
「すまない。あまりにも予想外な反応でね。それと、やはり敬語口調は作っていたのだな」
「初対面の女子ですから、失礼のない様に振る舞うのは当然なのでは?」
「成程、間違ってはいないが……、ふむ、どうやら君の評価を改める必要があるな」
「改めるも何も、まだ何も答えていませんよね?」
「確かにその通りだが、再検討の余地ががあるので保留させてもらう。それにそろそろ戻らないといけない。これ以上遅れたら、私のトイレ内容が大だと思われる」
そんな下ネタをドヤ顔で言ってから部屋に戻っていく七瀬さんに俺も続いたのだが。
「そういえば、君へのお詫びがまだ出来ていなかったな」
途中でこう呟いていたけど、何する気だこの人?
俺と七瀬さんが戻った後に全員でスイーツをオーダーしたのだが、6人分のスイーツがテーブルに並ぶ光景は鮮やかで、自然と全員で写真を撮りまくってしまった。そんな騒ぎが収まった所で、俺の向かいに座っている七瀬さんが、自分の抹茶ケーキを一口サイズに切ってからフォークに刺して。
「市ヶ谷君、あーん」
とてもいい笑顔で言ってきやがりました。
「どうした? 早く食べたまえ市ヶ谷君。据え膳食わぬは男の恥だぞ」
「諺の使い所が上手いのが余計アレですね。……分かりました。あーん」
渋々口を開けると、ご満悦な七瀬さんがケーキを差し出し、パクッと口に収まった。
うん、抹茶味だ。
「どうだね? 普通に食べた時と比べて何か違うのかな?」
「ななせさんのあいじょうがつまっていて、とってもおいしいですー」
「ふむ、清々しいまでの棒読みだな。不満があるのなら善処するぞ」
どうやら七瀬さんには、全方位から熱視線を感じながら食すこの表現し難いこの気持ちが理解できないらしい。なのでさっきの他人行儀だって指摘を免罪符にして、自分がオーダーした白玉餡蜜を1つ摘んでから。
「じゃあ七瀬さんも体験してみて下さい。はい、あーん」
「うっ、……いや、……私はそういうのは性に合わないので、遠慮しておこう」
んっ? この反応は予想外だ。
もしかして七瀬さん、女の子扱いに慣れてない? だったら。
「田中さん・中田さん、大輔が2人のデザートを食べてみたいなーって顔してますよ」
「えっ? ……ああー。じゃあ佐藤君、あーん」
「私のも食べてね。あーん」
「ふええええ。ま、真守うううううう」
2人からナイスアシストって顔を、逆に大輔には窮地で仲間に裏切られた様な絶望顔をむけられちゃいました。
「大輔、ここは有り難く食べればいい。七瀬さんも据え膳食わぬはって言ってただろ」
とにかく田中・中田さんの焚き付けが上手くいって、更に神岸さんまでもがこの流れに乗って藤田にあーんを向けているから、これで退路は完全に塞がれた。
「さぁ観念してあーんして下さい。それに七瀬さんは色々教えてくれる優しい人ですから、きっとココでも男を立ててくれますよね?」
「うぐっ、………………いいだろう。ここまでお膳立てをされた以上、引き下がる訳にはいかない。やってやろうじゃないか」
と、ムキになったご様子で意気込んできたけど、それでも羞恥心が捨てきれないせいか、差し出したわらび餅との睨めっこが続き、何かもう面倒臭くなってきたので口がちょっと開いた瞬間を見逃さずに。
「むぐっ」
口に突っ込んでおいた。
それを咽ながら飲み込むと、恨めしそうにこちらを眺めてきて。
「まさか差し出された君の玉を私の口に無理矢理捻じ込んでくるとは。初体験なせいか、とても衝撃的な味だったよ」
「意味深な表現に変えないで下さい。白玉ですよね?」
そんな下品で下らないやり取りを交わし、2人で失笑してしまった。
そういえばこの合コンで笑ったのは初めてかもしれない。
ほんと、七瀬さんには敵わないなぁ。
それからも市ヶ谷=七瀬、佐藤=田中&中田、藤田=神岸というペアであーんの応酬が続いたのだが、唯一取り残された下野が自分で頼んだスイーツを黙々食べていた時、田中さんが余って冷えたポテトを1本、下野の口に入れてくれました。
切ないなぁ……………




