13話 大輔との関係
「じゃあ市ヶ谷君は、佐藤君と感動の再会を果たしたんですね」
「ベタベタ展開」
「けど昔の大輔はガリガリのチビで、全然イケメンじゃなかったんだよ」
「意外です。今の佐藤君からは想像できません」
木葉さんは中学が違うので大輔とは完全に初対面、大月さんも中学からの面識だそうだ。大輔の成長に文句を言うのは筋違いだ。
なんだけど……。
この僅かな沈黙を見透かしたかの様に、大月さんが俺を見ながら、
「やっぱり佐藤の傍は苦労が絶えない?」
「……………ソンナコトナイヨー、俺も女の子に囲まれてウハウハだし、大輔のおこぼれで俺に好意を持ってくれる子がもしかしたら」
「いるわけない。みんな佐藤目当てで、市ヶ谷は眼中にない」
「……………デスヨネー。木葉さんも、俺の名前すら知らなかったし」
「はわわわわ。ごめんなさい! ごめんなさい! 市ヶ谷君の存在はちゃんと目に入っていましたが、名前は分からず仕舞いで」
第三者から指摘されて、改めて自分がおかしな立場にいるのが分かる。
今日だって……
「今日の佐藤、胸筋で大騒ぎだったね」
「ああ……、あれは本当に、大変だったなぁ……」
休み時間になる度に女子が群がり、たった5分の休み時間ですら写真撮影が始まる有様だ。最後の休み時間に至っては他クラスの女子まで参戦、流石に疲れて最後の休み時間は大輔フォローをパスして遠巻きに見ていたら、大輔の「やめっ、そこは弱っ、アッーー!」と為す術なくトーンダウンしていく声が虚しく響いた後、ワイシャツをひん剥かれた上半身裸の涙目な大輔が女子の塊から抜け出して俺に抱き付いてきた時は、俺も泣きたい気分になりました。
しかもこの騒ぎは学校中を駆け巡り〝突然脱いだイケメンに女子達が胸筋を弄ってホモエンド〟という、進学校とは思えない頭の悪そうな噂が蔓延、もはや佐藤大輔を知らない生徒は校内にいないレベルになり、そのせいで美緒に緊急呼び出しをくらって真相説明をした後、昨日肘鉄をされた場所と寸分違わぬ位置にまた肘鉄を叩き込まれ、今も横っ腹が超痛いです。
このままだと大輔が更生する前に、俺の腹筋が持ちません。
「大月さん、中学の大輔もこんな調子だったの?」
「んー、ぶっちゃけ平和な方だよ。今までの騒ぎ」
「……………マジデスカ」
大輔の人生、どんだけハードモード設定なの? いやでも女子達に服を剥がれて胸を弄られるって、男なら嬉しいイベントに分類されるのかも……………
レベルが高過ぎて判別できねぇ。
「というより、佐藤には味方がいなかった。イケメンだけど性格がヘタレで浮いてたし、女子の扱いも下手だった」
うわぁ、もはや残念なイケメンを飛び越えて可哀相なイケメンだ。
イケメンの持ち腐れというか、とにかく残念だなぁ。
「私は中1・中3でクラスが一緒だったけど、中1は女子に言い寄られる日々で、中3で久々に見たらゲッソリ、学校も休み勝ちだった」
「そ、そっかー」
「佐藤君、とっても可哀相です」
ここまでくると登校拒否にならなかったのが不思議なレベルだ。
何か大輔を支えていたのだろう?
「ただ中3の二学期からは、学校を休まず一心不乱に勉強していた」
「そうなの?」
「受験シーズンですし、山桜合格に向けて頑張ろうって夏休みに決めたんじゃないですか?」
中3の夏休み、その時に大輔との文通で『全力で勉強して山桜に絶対合格しろよ!』って激励したけど、もしかしてそれが原因か? いやでも木葉さんの言う通り受験生だし、いくらなんでも……
「その辺は謎。佐藤は好成績だけど友達いないから有名私立に行くと思ったのに、ココ一本の単願受験だった」
……………俺のせいっぽいなぁ。
確かにそういう命令したけど、人生まで賭けるなよ。そんな重過ぎる決意に困惑していたら、大月さんが覗き込む様に俺を見定めてくる。
「だから私としては、佐藤と一緒にいるあの男は誰?って思ってた」
「まぁ、引っ越しで別れた旧友が戻ってきたなんて、気付けないよね」
そして大輔はヘタレイケメンに進化、俺は連日騒動に巻き込まれているから溜息しか出てこない。
「市ヶ谷君、大変そうですね」
「だね。佐藤が悪いとは思わないけど、傍に居続けるのは大変だし、市ヶ谷が佐藤の問題を背負い込む必要もない。それでも一緒にいるの?」
そういえば俺、何でこんなに大輔に拘っているのだろう。
薄情だけど、大輔を無視して他の友達を作るって選択肢もあったのに、大月さんに言われるまで気付く事すらなかった。淡白な人付き合いが当たり前だったのに、なんでだろう。
「俺、引っ越しばっかりで人と長く付き合った経験がないんだ。この高校に進学したのも、何となく続いていた大輔との文通がきっかけで、深い意味なんてなかった。なのに大輔と再会したらすっごい喜んでくれたんだ。あのイケメン顔をグチャグチャの嬉し泣きで歪めながら力一杯抱き付いてきたりで、そういうの初めてだったから」
ありのままの気持ちを手探りに喋っていたら、大月さんが頭を下げてきた。
「意地悪言ってごめん」
「いやいや、大月さんの意見は尤もだから。因みに2人は、中学の友達とはどうなった?」
「卒業式で別れてからは全然。同じ高校の友達は一人もいない」
「私も大月さんと同じです」
残念な返事が戻ってきたけど、これは仕方のないことかもしれない。だけど2人が寂しそうにしている様子を見て、つい流されてしまって。
「もし連絡ができるなら、会いに行ってみたら? 俺は引っ越しで県外移動だから縁が切れて当然だったけど、地元なら会いに行ける距離だよね? 中学で仲良しだったのにこのまま自然消滅は勿体ないよ。もしかしたら俺と大輔みたいに、友達に戻れるかもよ」
つい洩れてしまった呟きに、2人がぽかーんとしてる。
しまった!
初対面の女子に指図とか何様だよ!
「すみません。お節介が過ぎました。忘れて下さい」
柄にもなく考えなしに喋ってしまった事に後悔しつつ、すぐに謝ってこの場を収めようとしたけど、手遅れでした。
「いやいや、市ヶ谷の意見は尤もだから」
うぐぅ、大月さんのオウム返しが心に刺さる。不快な反応されるよりは遥かにマシだけど、ものすっごいニヤけ顔の大月さんに迫られて、これ以上は仰け反れないんですけど。
「だけど今時文通とは古風」
「いや、小学生の連絡方法ならアリだよね?」
「わざわざ手紙を用意・文章執筆は手間では?」
「確かに面倒だったけど、手紙なら考えを整理してから気持ちを伝えられるし、記録として残るのは利点かな。それに引っ越し先の観光地に行った時にお土産を送れる相手が1人くらいは欲しかったし、離れた相手とのやり取りは視野が広がるというか、結構楽しかったかな」
「ほほう、そういうものか。市ヶ谷との文通は面白そう。ラブレターも上手そう」
「いや、ラブレターは書いた事ないです」
「そうなのぉ?」
うぐぅ、これ以上迫られたら背骨が折れる。
もうバランスを崩したら押し倒される勢いで、てゆーか結構な密着具合なんですけど! 小柄とはいえ大月さんは同い年な訳で、しかもナチュラルな上目遣いに、つい顔が緩んじゃいそうだ。
「はわわわわ。大月さん、それ以上は市ヶ谷君が可哀相です。それに全然お節介じゃなかったですよ」
木葉さんの指摘に大月さんが離れてくれて、それから俺の意見を吟味した後、
「確かにこのまま自然消滅するくらいなら駄目元で会いに行くのはアリ。入学祝いで携帯買ったし、他校の友達と意見交換は楽しそう」
「私も携帯買ったので、会いに行ってみます」
ふぅ、どうにかいい感じに収束してくれた。そうして引き下がった大月さんが新品の携帯電話を取り出し、スカスカの連絡先一覧を見ながら唸り声を上げてくる。
「友達作りは大変。新学期はつくづくそう感じる」
「そうですねー」
「でも、2人は友達だよね?」
何の疑問もなくそう告げたたら、大月さんがまた唸り出してきて
「どうだろう」
「ええー」
この無慈悲な反応に、木葉さんの落胆の声が響き渡りました。




