12話 大月さんと木葉さん
大月さんが図書室に入った。
朝から観察してきたけど、美緒のレポート通りの寡黙キャラで、女子グループと混じる場面もなかったから、現時点で大輔の過去が漏洩した可能性は極めて低い。
けど、本当に小さい子だな。
レポートによれば大月さんの身長は145という超小柄で、クラスでも一番低い背丈になっている。だが子供っぽい印象はあまりなく、長い髪の一部を後ろで束ねてループする様に見せていたり、成績優秀で授業中に発言する場面があったりという、立ち振る舞いはちゃんと高校生というアンバランスっぷりだ。
そして意外だったのは、木葉優奈さんと一緒にいる場面が多かった事だ。
木葉さんはほんわか雰囲気で親しみ易そうな人柄に加えて、フワッと結われた短いおさげにアンダーリムのメガネがよく似合っていて、おまけにスタイルも良く、身長も160前半という程よく目立つ高さの、我がクラスでトップクラスの美人と親しげだったのだ。
人様の付き合いにとやかく言う気はないけど、意外な組み合わせだ。
もっとも、俺と大輔の組み合わせも大概ですけどね。
因みにその大輔は、美緒にお願いして放課後になるのと同時に引き取ってもらいました。そんなこんなで順調なストーカー行為、続けるとしますか。
長机が並ぶ自習コーナーで勉強中の大月さんを発見、そこから程よく距離のある席を選んで自習を開始、あとは大月さんが帰るタイミングを合わせて下校時に声を掛ければミッションコンプリートだ。
偶然を装いつつ図書室で勉強という同じ行動をしていたと伝えれば、警戒心が薄れて会話がし易くなるだろうし、後は変にがっつかずに同じクラスメイトとして大輔の話題にもっていけば上手くいくだろう。人と親しくなるには、趣味や共通の行動をするいう共感できる場面を作り、相手との距離感を窺いながら歩み寄っていくのが定石なのである。それでは大月さんを見張りつつ、勉強を始めるとしますか。
~ 10分後 ~
ストーカーって、意外と難しいな。
遠くから適当に見てればいいと思ったが、勉強にのめり込めば相手を見失うし、だからといって凝視もできず、つまり集中できないのだ。てゆーかこの状況、好きな女の子に話がしたいけど恥ずかしくて出来ず、ドギマギしっぱなしな純情ヘタレ男子っぽくて虚しい。
もう開き直って声掛けに行こうかな? 正面からお願いすれば案外上手くいかもと思案しながら視線を戻すと、大月さんが居なくなっていた。
やばっ、ちょっと目を離した隙に見失った!
机にも勉強道具が残っておらず、即座に自分の荷物を纏めて、後を追う為に立ち上がって振り返ると。
「やっぱり気のせいじゃなかった。同じクラスの市ヶ谷だよね? 教室でも何度か視線を感じたけど、何か用?」
両手に勉強道具をヒラヒラと翳す大月さんに指摘されてしまった。
全然気付けなかった。
そういえば美緒の報告書に〝俊敏〟って書いてあったっけ。
「……………コソコソ探る様な真似をしてごめんさない。大月さんとお話がしたいので、お時間を頂けないでしょうか」
もはや言い訳の余地もなく素直に謝罪して、駄目元でお願いをしたら意外にもOKが貰えたので、図書室の入口付近で話す事になりました。今までの苦労、何だったんだろう。
◇ ◇ ◇
「大月さんって、佐藤大輔と同じ中学でクラスメイトだったんだよね?」
「うん? そうだけど」
予想外な質問という感じで首を傾げられたが、そのまま会話を続ける。
「俺は大輔と小4の頃に友達だったんだけど、引っ越しで別れて、最近また引っ越して5年ぶりに再会したら、ええっと……」
「見た目はイケメン、中身はヘタレで困惑?」
「……そうです。それで同中だった人と話せたらなーって動機で機会を探っていました。コソコソしてすみませんでした」
改めて平謝りすると、大月さんが訝し気な様子でじっくりとジト目で見ている。
ご立腹な様子ではないけど、居心地が悪い。
「嘘じゃないみたい。木葉目当てでもないっぽい」
「えっ? 木葉って、同じクラスの木葉さん? 何で彼女が出てくるの?」
「それは……、ごめん。ちょっと待って」
台詞の途中、急に大月さんが階段方向に直行、その動きには音が一切なく、さっき大月さんを見失って後ろを取られた事に納得しながら後を追うと。
「はわわわわ。わ、私は何も見ていないので、続きをどうぞです」
「木葉、何してる?」
へばり付く様に拘束され、あたふたしている木葉さんがいました。しかも大月さんが小柄過ぎて抱き付く位置が胸の真下になってしまい、制服の上からでも豊満だと分かる木葉さんのたわわ脂肪が強調、更に大月さんの拘束を解こうと木葉さんが姿勢を低くして抵抗する度に、たわわ脂肪がどんどん盛り上がりまくっている。
「木葉、暴れないで。服が着崩れる」
「はうっ」
この指摘で動きが止まったけど、制服が着崩れた木葉さんと目が合ってしまい、気まずい事この上ない。大月さんのストーカーついでに見ていたから木葉さんが美人なのは知っていたけど、近くだと鮮明というか、視線を逸らし難い。
大輔に女子を惹き付けるイケメンオーラがある様に、木葉さんレベルの美人にも男子を惹き付けるオーラが発生しているのだろうか? 因みに美緒も十二分に美人なのだが、あっちはそれを上回る威圧オーラで牽制、ついてに昔馴染みだから、そういうドキドキは全然ないです。とりあえず、まずはこの気まずい流れを変えないと。
「えっと、もしかして2人は会う約束してたとか?」
「え? そうなの?」
「あれ? 大月さんを待ってる様子だったけど、違うの?」
拘束を解いた大月さんがそんな反応をして、2人で???を並べていたら、木葉さんがワタワタしながら頭を下げてくる。
「は、はわわ! ごめんなさいです! 大月さんと一緒に帰ろうとしたら見失って、だけど下駄箱に外履きがまだ残っていて、なので大月さんを探しながらの校内探検をしていました」
成程、そういう経緯で俺と大月さんが一緒なのを発見したから、話が終わるまで隠れて待とうって判断した訳か。
「なので御二人の関係を知らず、お邪魔してしまいました」
……………ん? あれ?
木葉さんの反応がオカシイというか、まるで人の恋路に水を差してしまったかの様な…
「そうと分かった以上、私は退散しまっ……、離して下さい」
「待って、誤解」
立ち去ろうとした木葉さんを、大月さんが後ろからガッチリとホールド、コアラが木にしがみ付く様な絵面になっちゃっている。
「あの、階段で騒ぐのは危ないから2人とも落ち着いて。それに木葉さん、俺と大月さんは今初めて話した仲だから」
「はわわわわ、ひと目惚れですか⁉ ロマンチックですね!」
「いやいや、俺は大月さんが中学生だった時のクラスメイトの話を聞きたいだけで」
「はわっ! 浮気ですか!」
「ひと目惚れの子に浮気相手の斡旋要求って、規格外の外道だよね? 相手は男だから」
「はわっ!」
木葉さんの動きが止まったけど、この静寂の意味、理解したくないなぁ。それからゆっくりと大月さんを引き剥がしてから優しく両肩を掴み、悲しそうな眼差しでこう答えてきた。
「知り合って間もないですが、一緒にケーキ食べ放題に行きますか?」
「ブッ………………、ムププププ」
大月さん、笑いを堪えてるなぁ。
木葉さんの誤解は絶賛暴走中で、もはや着地点が行方不明だ。
「大月さん。笑ってないで助けてくれませんか?」
俺の発言は全て誤変換されちゃうから、大月さんから説明してほしいんですけど。そんな要望を堪え笑いが収まった大月さんに懇願すると、不敵な笑みでこう呟いてきた。
「ココは悪ノリがお約束、OK?」
「余計混乱するから勘弁して下さい」
どうやら大月さんは、意外とノリがいいらしい。この状況を楽しんでいる節があるというか、反応は小さいけど独特なテンションで絡んでくるキャラらしい。クラスではこういう一面は一切見せずの寡黙キャラだったけど、使い分けている様だ。
「了解。じゃあ木葉も説明に参加させていい?」
「えっ、何で?」
「木葉を追い払って2人で話をすれば疑惑は消えない。巻き込んだ方が合理的」
確かにその通りだけど、木葉さんを巻き込むのはなぁ。けど大月さんと木葉さんに接点がある以上、2人纏めて口止めした方が確実だろう。
「分かった。じゃあ木葉さん、誤解を解く意味も含めて3人で話しませんか?」
「はっ、はい。それは構わないのですが、その前に1つ質問していいですか?」
「どうぞ」
「では今更ですが、……………あなたのお名前を教えてくれませんか?」
非常に申し訳なさそうな様子で自己紹介を求められてしまい、横にいる大月さんがまた堪え笑いを始めてしまった。
ですよねー。
クラスメイトとはいえ、初対面だからねー。
注目されまくりな大輔の傍にいるから、俺も名前くらいは知られていると思っていたけど、モブキャラだから名前付いてなかったかー。そんな現実をペコペコと頭を下げまくる木葉さんを制止させてから受け入れ、近くにあったベンチに移動してから、俺と大輔の関係について説明することになりました。




