09話 潜入捜査
「なんで大輔は4号以降も告白断らなかったの?」
食事を終え、ドリンクバーで飲み物を2つ用意した所で会話を再開させる。俺なら1号と別れた時点で暫くは自分を見直すだろうし、それに短期間で別れ続けたら自分にも問題有りって思わなかったのか?
「兄さんは3号以降、もう彼女は作らないって言っていたわ。友達も減っていったから」
「まぁ、そうなるな」
こんな状況になれば人が離れていくのは当然で、本人もそれが分かっていたのなら、どうして?
「4号以降からは強硬手段で迫る様になったの。あなたなら断れる? 大好きと言いながら、凶器をチラつかせて詰め寄ってくる女子の返事を」
=== 想像(ヤンデレ女子の告白) ============== ============
「えっ? 付き合えないって、どうして?
私がこんなに愛しているのに、嘘だよね?
……ウソ…………、ウソウソウソウソウソ
……ウソ吐かないでよ……」
断られたのが余程ショックだったのか、無表情で糾弾してくる。その不気味な剣幕に呆気に取られていると、彼女の手からカバー付き包丁が現れた。飛び上がって逃げ出すも、素早く手首を掴まれて万力のように締め付けてくる。
「……どうして逃げようとするの?
……逃げたでしょ? ……逃げたよね?」
な、なんだ突然、この妙な迫力は……
射殺すような眼差しで睨まれた後、振り上げられた包丁が
(以降、想像不可)
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「……………………………………断れ、ないです」
そんな血生臭い告白があるの!?
甘酸っぱさが行方不明なんですけど!!
「それも含めて私が全部潰したけど、兄さんは塞ぎ込んでいき、不登校の時期もあったわ。成績は良かったけど、出席日数はギリギリだったから」
「文通にはそんな事、一言もなかったぞ」
悩みがあるなら書けば良かったのに。
そんな腑に落ちない反応をしたら、思いっきり睨んできて
「手紙の出し過ぎって警告したでしょう? だから悩みが書けなかった。これ以上煩わせて、あなたにまで嫌われてしまう事を、兄さんは何よりも恐れていたから」
「な、なるほど」
確かに手紙が多すぎるって注意はしたけど、怒った訳じゃない。だけどそれは伝わらなくて、深刻に捉えてしまったのか。この事実に思わず萎縮していたら、
「けどあなたが去年の夏、山桜合格という目標を示してから、兄さんは元気を取り戻してくれたわ。文通の頻度もあげて励ましてくれた事には感謝してる。ありがとう」
「へっ? ……いやいや、こちらこそです。俺も励みになりましたので」
いきなりのお礼に戸惑ってしまい、間抜けな返事になってしまった。美緒の表情に変化はなく、しれっと言われただけだったけど、それでも照れるな。案外、俺に対する好感度が高かったりするのだろうか?
「けど私としては、有名私立に進学してほしかった。兄さんの過去を知る人間がいない環境の方が障害は少ないから」
「あー、そうだね」
やっぱり勘違いでした。
きっと美緒は裏表のない素直な性格なのだろう。
正論を貫くタイプというか、眩しいくらい真っ直ぐだ。
「でも、大元は大輔の『山桜高校へ合格する為に勉強中』って言葉が発端では?」
「そうね。山桜は学区内で一番偏差値が高いという理由で選ばれただけのキーワードで、私がいくら説得しても兄さんは折れなかった。言いだしたのは兄さんで、あなたを恨むのは筋違いなのは、分かっているから」
あちゃー、これって理解はしているけど、許してない奴だ。美緒の好感度を図りかねていたけど、感謝と恨みが入り混じっているせいでこんな微妙過ぎる距離感になっちゃったのか。やっと納得できたよ。
「そして合格通知が届いた瞬間、兄さんは手紙を出したの。合格記念として春休みに会いに行きたいという希望を添えて。それからは『真守と再会できる』と、嬉しそうにしていたわ」
「えぇー、マジですか」
やべぇ、そんな事情知らなかったから、読まずにスルーしちゃったよ。美緒が強引に手紙を届いてなかった事にしてきたのは、こういう理由だったのね。
「でも、仕方ないわよね。引っ越しが忙しかったのでしょう? 数分で読み終わる手紙が読めない程に。あなたが荷造りをしている最中、兄さんはずっと返事を待ち続けて、日が経つごとに元気を無くし、食欲も失い、衰弱していったわ」
ねっとりとした視線が超怖いです。
今すぐにでも逃げ出したい程に。
「本当にごめんなさい。償いならいくらでもします」
入学式を休んだのも、俺が原因だったのか。
彩さんは仮病って言っていたけど、外出したら倒れる状態だったのかもしれない。
「因みに大輔はもう大丈夫? 今日の様子からは体調不良って感じはなかったけど」
「安心して。昨日の夕食から食欲を取り戻したから」
そういえばティータイムで大輔はひたすらお菓子を食べ続けていたけど、あれは燃料切れ寸前だったからか。それに今日の昼の弁当もしっかり食べていたし、とりあえずはOKか。
「これが私達の大まかな経緯、何か質問はある?」
そう言われて考えてみたけど、聞きたい事は1つしかない。
「事情は分かった。それで俺はどうすればいい?」
この言葉に、美緒が頷いてくる。
「随分と飲み込みが早いのね」
「このままじゃ大輔が駄目なのは分かったし、美緒も昔話をする為に俺を捕まえた訳じゃないだろ」
俺と再会した事で大輔は元気を取り戻したけど、問題は解決していない。人は同じ失敗を繰り返せば自信を失っていき、悪循環から抜け出せなくなる。美緒も解決に至らない現状を打開する為に俺に相談してきたのだろう。
「あなたの言う通りよ。このままだと兄さんは高校でも同じ失敗をするわ。それに今のまま高校・大学を卒業できたとしても、社会でやっていけるとも思えない。だから兄さんを〝更生〟させたいの」
更生:精神的、社会的に、または物質的に立ち直ること。
もとのよい状態に戻ること。蘇生。
「更生って、大輔を通院させるのか?」
「……………今、兄さんを病人扱いした?」
「してません! 言葉の綾です! すみませんでした!」
殺意を感じたので即座に謝っておきました。マジこえー。
「あなたへのお願いは2つ。1つ目は兄さんの友人として傍に居続けてほしい。あなたにまで裏切られたら、立ち直らせるのは困難だから」
「それは構わないけど、俺はイケメン事情を知らないから女子の対処はできないぞ」
この物言いに、美緒が不思議そうに首を傾げて、
「今日のあなたを観察した限り、上手くあしらっていたじゃない」
観察されていたのか。
どうやら今までの言動が吟味された上で相談に至ったらしい。
「適当にかわし続けただけでその場凌ぎだ。続けるのは無理だぞ」
できるのはフォローまでで大輔自身に動いてもらいたいし、有耶無耶な反応は相手に失礼だから続けたくない。
「悩む必要があるの? 邪魔なら邪魔と言えばいいじゃない。遠慮は無用よ」
「いや、それだと誰も寄り付かなくなるよね?」
「上辺だけの付き合いなんて不毛よ。そもそも遠慮して自分の意志を伝えないって、馬鹿らしいとは思わないの?」
うわぁ、声に淀みが一切ない。
本気で言ってるよ。
「ま、まぁ、確かに正論だけど、孤高の存在になりそうだな」
穏便な意見で濁してみたが、そういうのは不要とばかりに美緒が口を開いて、
「友好的でなくても威張らずに平静としていれば大丈夫。変に絡んでくるものを排除して、手出し無用なのを知ら示せば周りは静かになる。案外、悪くない待遇よ」
「そ、そうですか」
なんかもう、美緒の人間関係が心配だ。
だけど本人は納得済みだし、口を挟むのは止めておこう。
「えーっと、とりあえず大輔の交友関係については俺なりに頑張ってみます。美緒は客観的な意見を定期的にくれると助かる」
「了解。それでもう1つのお願いだけど、これを見て」
分厚いレポートが渡され、そこには同級生の名前・顔写真・クラス・特長・〝警戒レベル〟が記載されていた。何これ?
「私達が通う山桜高校の1年生は203名、その中で私達と同じ中学が27名、更に兄さんと同じA組が2名いるわ。可能な限り情報を集めたから、まずは目を通して」
指令に従い、ざっと流し見しながらも脳内復唱をして、すぐに情報が引き出せる様に……。
「って、俺は潜入捜査官じゃないぞっ!!」
何で同級生の個人情報を影で把握せにゃならんのだ!
てゆーか美緒も不思議そうに首を傾げるな!
こっちが変みたいじゃん!
「それよりこの資料、どうやって作った?」
軽く目を通したけど、個々の性格・行動パターンまでもが事細かに書かれていて、昨日今日で作った代物には見えないんですけど。
「高校の合格発表から卒業までの間に情報収集して春休みに纏めたの。今後も随時更新していく予定よ」
うわー、本気度がヤバい。
警察も真っ青なプロファイリング能力だ。
「ここまで、やりますか」
「可能な限り準備して、不安要素を減らすのは当然の行動よ」
いやいやいや、俺が指摘したのは美緒の底知れない執念です。もはやブラコンを超越した何かに進化済みだ。たとえ冗談でも大輔を侮辱すれば敵対行動と見做して、排除してくるに違いない。そんな戦々恐々な決意を思い知らされてから、やたらと重みを感じるレポートを黙々と確認していくと、1人の女子に焦点が定まった。
「なぁ美緒、この〝大月伊万里〟って子、本当に要警戒なの?」
ヤンデレ女子の告白は、電撃文庫『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』2巻&10巻を参考にしました。パロディとして捉えていただければ幸いです。




