プロローグ
「佐藤く~ん、笑って~。ハイチ~ズ」
「ち、ちーず」
おかしい。
今は授業の谷間、5分しかない休み時間なのに、何で大輔は女子とツーショット写真を撮りまくっているのだろう? てゆーか初対面でいきなり写真ってアリなの? 撮った写真を女子達はどうする気なのでしょうか?
「次は私~、佐藤く~ん、ちょ~っと胸板出してみない~?」
「えっ、ええっ?」
大輔はオドオドするだけだったが、何故かこの反応がOKと判断され、女子の手でぷちぷちとボタンが解かれ、大輔の鍛え抜かれた胸筋が露になる。
「きゃーーーーーーーー!」「超凄いですけど!」
「硬い、硬過ぎる!」「ヤバい!これはマジでヤバ過ぎる!」
鳴り止まない黄色い歓声に、涙目になった大輔がこちらを見る。
「ま、真守ぅ~~~~~」
「良かったな大輔、お前の胸筋めっちゃ褒められてるぞ」
「うぅ、恥ずかしいよ~」
許せ大輔、クラス女子に囲まれた完全アウェイでの異議申し立ては、完全に自殺行為だ。てゆーか、何で俺まで包囲されてるの? 傍から見ればハーレム状態だが、誰一人として俺を見てないから1ミリも嬉しくない。そうしてオドオドし続ける大輔にボタンを解いた女子が、
「大丈夫だよ佐藤くん、私も脱ぐから恥ずかしくないよ~」
そんな超理論を説いた後、あろう事か自分の制服リボンを取ってから第二ボタンまで解かれて、首筋と鎖骨のラインが露になる。
「どう? 落ち着いた?」
「ぜっ、全然落ち着けないよ! まっ、真守ぅ~~~~~」
連打されまくりなSOS信号だが、俺は目を背けているので対応不可です。いや、だってそのサービスは※(ただしイケメンに限る)である大輔に向けられたもので、そうじゃない私めには有料コンテンツだよね?
そもそも第二までなら胸元は見えず、夏なら全然アリな服装、つまり大輔はからかわれているのだ。あと周りの男子諸君、殺意の波動を向けないでほしい。てゆーか向けるなら大輔だけにしてくれ。どう見ても俺はとばっちりですけど? だがそんな事情は伝わる筈もなく、俺の肩を揺らし続ける大輔の手を強引にスルーし続けていたら、肩を掴む手が1つ増えて、
「君は佐藤くんの友達だから~、特別に見てもいいよ~」
凄いな。
イケメンの傍なら女子のおっぱい謁見がセーフに変貌するのか。美男美女に取り巻きが常備されるのも納得だ。こんなお零れが貰えるなら、喜んで下僕と化す奴は大勢いるだろう。
「ええっと……」
「市ヶ谷、市ヶ谷真守です」
俺の名前が分からなそうな反応に自己紹介をする。
なお、イケメンである佐藤大輔の自己紹介が不要なのは言うまでもない。
「市ヶ谷くんね。だから写真撮って。お願~い」
含みのある上目遣いで懇願されたので、差し出されたスマホを素直に受け取ってツーショット撮影。ご満悦な反応とお礼を返された瞬間、シュバババババッと全方位からスマホが差し出されて、
「次は私、私のツーショット!」「とにかく連射、超連射で撮りまくって!」
「早く早く休み時間終わっちゃう!」「お願いモブヶ谷くん!」
うん、役得はあるけど人権はないというか、人として認識されてないなコレ。俺が女子に囲まれているのは100%大輔が原因なのを肝に銘じておこう。俺自身がモテモテになったと錯覚した勘違い野郎にならない様に。
そうしてモブキャラと化した俺は、腕組み・ハグ・お姫様抱っこと密着度が増していくのと同時に、大輔のYシャツ開放度が増していくツーショットを、休み時間が終わるまで無心で撮り続けました。
ほんと、どうしてこうなった?
01-05話は経緯・主要キャラ説明です。すぐ本編!という方は06話へ。