実らずの実
「私はあんたが優と一緒にいるのをみると吐き気がする!」
高校3年の秋。思いもよらない修羅場に巻き込まれてしまったのか。
三角関係が拗れたかのようなセリフを向けられたら芹は、
(修羅場や…)
と思う他なかった。
この修羅場に突入した女子高生、
芹
は普通に学校生活を送っていただけであった。
仲の良い友達と毎日楽しく過ごして…、高3ということもあり受験勉強もそこそこやりながら。
だからこそ恋なんかしている暇もない。そんな人もいなかった。ましてや芹が通う学校は女子校だった。
恋愛によるイザコザはそう出会えるものなのか?いや、なかなか出会えるものではないだろう。
もちろん修羅場をつくったつもりはない。
だが、芹にはこの状況は本当に思いのよらなかった突発的なこと…と思ってもいなかった。
放課後の教室。この過激な友人に、1人で、呼ばれた。なんとなく予感はしてた。
「あのね、だから、私は優とは何でもないんだよ?」
誰もいない教室の教壇に立って堂々としている彼女に宥めるように告げる。
だが、彼女の気は立ったままだ。
「優は、芹といる時が一番幸せそうだもん…。私といる時は、楽しくなさそう。もう全然。一緒にいるのが嫌みたいに、私と話しててもいつもいつも芹、芹…芹のことばっか。ずっと私が優といたのに、ずっと!!」
彼女の言い分。 芹には分かるようで、分からなかった。
彼女はずっと好きだった、優のことが。
でも、途中から仲良くなった芹のことを、優が誰よりも大事にしているように見えた。
そんなことだった。
「だから…。」
それが芹に、分かったとしても。
(確かにわたしは優のこと大好きだけど、でも、そんな恋愛感情とかじゃなくて…。ただ初めてありのままの私を認めてくれた、本当に大事な人…それだけ。)
そう。それだけ。芹にとってはそれが全て。自分自身ではそう思っている。でも芹にとっての彼女の特別さに、それの思いにはまだはっきり気づいていない。
廊下から、吹奏楽部の楽器の音が聴こえる。
ほんの少し開いた窓から運動部の掛け声が聴こえる。放課後はまだまだ、長い。
「今日もさ、2人が休み時間、廊下で話してるの見えたの。」
優と芹は、クラスが違う。だから話すとなると大体は廊下だった。
見られていたか、なんて芹は考える。
最近なんとなく、彼女に2人で会っているのを見られないようにしていたのも、なんとなくそんな雰囲気を感じ取っていたから。
「なんかね…なんだろ…?感じるんだよね、見てて。愛し合ってんの?」
「だから!!!違うって!!!本当に!ただ普通に友達なだけだから!本当に!信じてよ!」
「…まあ…ね…分かってるよ…。」
芹は、じゃあなんなんだ!と、問い詰めたくなったが、彼女がうつむき、瞳が見えなくなって、やめてしまった。
「違うってね、思おうとしてるんだけどさ、思えない?のかなぁ…。なんか嫌になって、嫌な感情がウワァってでてきて抑え切れなくなって、気持ち悪くなる。」
俯いたまま告げる。悲痛な声で。
彼女は、強いようで、弱い。 芹は感じ取った。
ここまで強い思いをもてるなんてそうそうできるものじゃない。でも、すぐに壊れてしまうような脆い…もの。
芹は彼女になにか返すことが出来なかった。何を返すべきなのか、それもまたなにも思いつかなかった。