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第7色目「僕達は映画仲間」

地下に建設された極秘研究施設『クヌート・洛北』

表向きはパッとしない化粧品会社で、そんなに効果があるとは思えない化粧水やダイエット食品を取り扱っている。

しかし研究員兼社長である『コズミック山田』はついに、永遠の若さと美貌を手に入れることのできる不老不死の薬を開発することに成功した。

服用した途端、肌は水をも弾き、加齢による目元の小じわはまるで10代のピチピチ女子高生のように張りのあるものに!

体力は充実し、肝臓は綺麗なピンク色を取り戻したのだ!

更年期障害に悩んでいたコズミック山田の下腹部がチクチク痛みだす!

「やだ!わたし、閉経したはずよ!」

永遠の若さと美貌を手に入れたコズミック山田は本社に営業にきていた新入社員『鈴木君』と禁断の恋におちてしまう!

「鈴木君…わたし…」

「ああ、わかっているよ…山田、いや…コズミック!」

しかしその幸せは長くは続かなかった!不老不死薬の副作用によってコズミック山田の体は急激に老化を辿り、ついには肌年齢105歳にまで落ちてしまった!

「不老不死薬の一番の効能は死なないこと…でもわたしの体はどんどん枯れてゆく…」

果たしてコズミック山田はどうなってしまうのか!

新入社員鈴木との恋の行方は!

全米が涙した壮大かつ究極ラブストーリー!


「なぁ水嶋。いまこんなのが流行ってるのか?」


「昔に公開された映画が今密かなブームになってるみたいですね。これも結構な人気作だったみたいで。特にラストの新入社員鈴木が地下施設ごと爆破するシーンはすごい迫力で。私も泣いちゃいました。」


「あれなんで鈴木は地下施設を爆破したんだ?」


放送部が企画した映画上映会に僕たちは来ていた。

水嶋は映画を見るのが好きらしく、文化祭のパンフレットを広げモタモタしている僕の腕を引っ張って真っすぐ視聴覚室に向かっていった。

やっぱりスクリーンで見たほうが楽しいです。

と水嶋は言っていたが。

どうもああいう薄暗い空間は僕に寝ろ、と言っているようにしか思えず、結局謎の爆破シーンだけ見て視聴覚室を後にした。


「夕方からまた違う映画も上映されるみたいですね。もう一回来ます?」


「そうだな。時間があればそうしよう。とりあえず昼飯にしようか。」


グラウンドや食堂に続く渡り廊下には様々なクラブが運営する出店が並んでいる。何故僕がこんな時間にふらふらしているのかというと、我が野球部はユニフォーム展示と写真を置いただけのいわゆる手抜き出し物を毎年やっているからであって、テニス部がせっせとクレープ焼いたり剣道部がみたらし団子をノルマ分必死に売り捌いてる横で僕らは嫌味な顔をしてたこ焼きを頬張ることができる。

手抜き出し物の教室には一年を配置しておけばいいし、なんとも気楽な二日間である。

グラウンドに出て出店を一通り見回りながら僕たちは昼に何を食べようか吟味していた。たこ焼きでも食うかな、と思っていると、水嶋が視聴覚室に文化祭のパンフレットを忘れたからと言って足早に視聴覚室に舞い戻っていった。

グラウンド横の階段で水嶋を待っていると、背中をドーンと叩かれ声をかけられた。


「見てたぞ。デートですか、そうですか、なるほどねぇ。」


ブランカがニヤニヤしながら立っていた。


「なんか変だと思ってたんだよ。そー太が半泣きで、あいつ来ないー、って騒いでたから。」


ブランカのことだ。5分後には野球部連中に良からぬ噂を流されるに違いない。実際水嶋と二人で回っているんだし、人が多いグラウンドにも出ているので事実の噂が流れても、僕たちは映画仲間です、と一言つけておけば大したことにはならないだろう。

しかし、こいつは無い事をいかにもあったように話すタイプの人間であって、二人は付き合っていて体育館裏に消えていった、などという事を平気で野球部連中に報告するに違いない。

いや、絶対する。

早めに鎮火しておかないと。


「僕たちは映画仲間だ。」


「へぇ。」


「水嶋のオススメ映画を見てきた。」


「へぇ。」


「とりあえずブランカよ。たい焼きでも食べなさい。奢るから。」


「お前たちは趣味の合う映画仲間だよな。今理解した。」


ブランカを餌で黙らせる事に成功した僕は痛い出費ついでに、もう二つたい焼きを買った。

「ごめんなさい」と息を切らして戻ってきた水嶋はたい焼きをがっつくブランカを見て少し申し訳なさそうに後退りした。


「じゃ俺はいくわ。ごちそーさん。」


ブランカは校舎の中へと消えていった。

水嶋が俯きながら僕に言う。


「あの。いいんですか?野球部の方達と回らなくて。惣太さんと約束してたんじゃ…。」


「いいよ。どうせ毎日部活で一緒なんだし。そー太は今ごろ学校を脱出してるよ。」


「そうなんですか。」


「たい焼き食べる?」


適当に昼飯を調達して中庭に移動した。

いつもここでそー太とくだらない話をしていること、入学してから丼物しか食べてないこと、部活のこと。色んな事を水嶋に話した。水嶋は楽しそうにうん、うん、と頷くばかりだった。


「そういえば、水嶋の事あんまり聞いてなかったなぁ。転校してきた時、みんな質問してたけど。なんか席も近くだったし、タイミングを逃したって言うか…。」


あの、転校初日の騒がれように少し僕自身距離を置いていた。輪に入って同じように盛り上がることができなかった。

やはりここでも、少し高いところから周りを見ていたんだと思う。どうも苦手だった。その場だけの興味と薄っぺらい付き合いをしようとすることが。

でも今は、素直に水嶋の事を知りたいと思った。


「私、小さい頃は東京にいました。」


「東京か。じゃあこっちの方言は慣れないでしょ?」


「最初はびっくりしました。みんな勢い良く喋るし、中林先生も。」


「あのおっさんはね。練習中なんて、何しとんねんボケが!とか普通に言うからね。」


「すごいですね。」


水嶋があはは、と笑っている。


「部活は何かやってたの?」


「美術部でした。」


「水嶋、絵上手いもんな。こっちでも美術部に入ったらいいのに。」


「入ろうかな、とは思ってたんですけど…。」


水嶋は俯いて黙り込んでしまった。やっぱり途中から入部するのは少々気が引ける部分もあるのだろうし、新しい環境で新しい事を始めるのはそれなりに勇気がいるものだ。

ましてや水嶋のこの性格。気持ちはあるが、やはりどこか遠慮しているのだろう。


「もし入ろうと思ってるならいつでも言えよ。美術部の川村に言っといてやるから。」


「本当ですか?ありがとうございます!」


こいつはこいつなりに、この学校に馴染もうと頑張っている。

僕だって見知らぬ土地に転校することになれば怖いし不安だ。水嶋が嬉しそうに笑うのを僕は知っている。水嶋が寂しそうに一人でいたことも知っている。

だから僕は。

こんな風に考えたことなんて今まで一度もなかった。

これは水嶋に対するただの同情だったのだろうか。

転校生に手を差し伸べて、その善意に満足したいだけだったのだろうか。

どっちにしろ、水嶋と出会って、変わっていく自分がなんだか可笑しくって恥ずかしかった。


「まだ映画まで少し時間あるな。」


「15時からですね。」


「そうだ。くんくん探偵見に行こう!お前の考えた、くんくん探偵!」


「あ、はい!」


グラウンドから聞こえる賑やかな声。

こんな日に見る僕らのくんくん探偵はきっと、いつも以上にかっこよくて、素晴らしいに決まっている。

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