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銃器使い達の狂宴 ―少年少女の戦場―  作者: 梨乃 二朱
第一章:里浦友恵の憂鬱な学園生活
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 整列してみて気付いたが、この場に集められたメンバーの中に、二年生、三年生の姿は皆無だった。

 上級生は友恵と東出、それから『生徒会』の役員のみで、他は一年生ばかりだ。

 『全国銃器高校対抗戦』の常識は知らないが、普通は三年生と二年生の生徒を中心に部隊を構成するものでは無いだろうか。

 つい先日まで銃の撃ち方も知らなかったような一年生の素人を中心とする部隊なんて、どうぞ倒して下さいと言っているようなものだろう。


「はい、挨拶もそこそこにしておきまして、これから三ヶ月後に開催される銃器高校対抗戦に、このメンバーで参加致します」


 前に立つ生徒会長の三科凛子が、緊張感の無い口調で語り始めた。


「この場には私達を合わせて十一名居ます。これを一個小隊として、二つの分隊に分けたいと思います。小隊長と第一分隊の分隊長は私、三科凛子が勤めさせて頂きます。そして第二分隊は、生徒会副会長、的場薫くんに分隊長を勤めて頂きます」


 生徒会長の紹介に、的場薫は一歩前に出て一礼する。


「では、これより配置割りを発表します。先ずは第一分隊から――――」


 こうして生徒会長直々に名前を読み上げられ、友恵は東出と共に第二分隊配属となった。











 色々あって、訓練所を利用し的場薫の指揮の下、演習を行うことになった。が、どういうわけか友恵と東出が射撃場に入らされ、お手本となることになった。

 これはある意味、公開処刑だ。

 射撃成績の良くない友恵は、今から一年生の前で恥をかくことになるだろう。


「東出くんは『適性銃器』のガーランドで実演してくれ」


「って言うか、何で俺達なんだ? 生徒会役員のお前らがやりゃ良いだろ?」


 東出の何気無い疑問に、密かに同意の意思を見せる友恵。


「射撃能力を見る意味もあるんだよ。――里浦さんは、ストームライフルを使って。一年生に“拳銃組”は居ないから」


 そう言って機械的なフォルムをしたブルパップ式電磁アサルトライフル『Mk.08 Storm rifle』を手渡された。

 『人類統一連合軍』が正式採用する非殺傷性小銃で、『適性銃器』が拳銃の生徒には特に馴染み深い小銃だ。それは友恵も例外ではなく、模擬戦等では良く使用している。

 因みに的場薫が言った“拳銃組”というのは、『適性銃器』が拳銃である生徒を差す渾名のようなもので、実際にクラスは拳銃、小銃関係無く組まれている。


「あ、あの、私、あんまり射撃は得意じゃ無いというか……」


「そうなの? まぁでも、今は上手い下手は関係無いから、思う存分、失敗してくれ」


 友恵は愕然として言葉を失った。

 射撃成績は関係無いという事もさることながら、わざわざ笑顔で“失敗しろ”という副会長の意図が全く分からなかった。

 後輩の前で恥をかくことが、見栄っ張りにとってどれ程の恥辱か、この人は理解していないのだろう。


「まぁ、そんな難しいことはさせないから。はい、じゃあ二人とも位置に着いて。――一年生は、二人の射撃を見て考察すること。良いね?」


 肩を掴まれ射撃位置まで押される友恵は、強気に反発出来ず状況に流されるだけの自分が嫌になった。

 東出は相変わらず面倒臭そうにしながら、『スプリングフィールド M1』を掌に呼び出し射撃体制を整えていた。何だかんだ言いながら、真面目な少年なのは良く知っている。


 友恵も後には退けない状態になってしまったため、腹を括りストームライフルのコッキングレバーを引き、銃身右側に備え付けられているセレクターをいつも通り三点バーストに設定する。

 電磁アサルトライフルの発砲時の反動は低いが、フルオートの制御は苦手だった。少しでも射撃精度を高める為、三点バーストを選択するのは、至極当然と言えよう。


「二人とも準備は良いな? 先ずは腰だめで撃ってくれ」


「あぁ? そんなんじゃまともに当たんねぇぞ?」


「それで良いんだよ。はい、ファイアファイア」


 相変わらず意図は分からないが、友恵と東出は人形の的が起き上がるのを見計らい、腰だめに構えたままトリガーを弾いた。

 セミオートマチック小銃である『スプリングフィールド M1』からは単発の『.30-06 スプリングフィールド弾』が発射され、三点バーストに設定したストームライフルからは三発毎に『6.5mm Ele弾』というエネルギー弾が発射される。

 当然の如く、腰撃ちではまともに狙いも付けられず、大いに無駄撃ちしながら的を撃ち倒して行く。命中判定の出た的は、速やかに倒れる。


「見ていたな、一年生諸君。このように腰だめで撃っても当たらない。ただ弾をばら蒔いただけだ」


 やっとの事で的を全て撃ち倒した頃合いを見計らい、的場薫は一年生へ向けて解説を始める。


「なら、どうすれば良いのか。――宮野くん、分かるかな?」


「え? サイトを使えば良いのでは……?」


「その通り。サイトにも種類は様々だ。東出くんのガーランドは“アイアンサイト”、里浦さんのストームライフルは“グレーンドットサイト”を備えている。――この二つのサイトの特徴としては、どちらも近接戦闘に適しているという点だ。開けた視界を確保しつつ、標的を照準出来る。特にドットサイトは、アイアンサイトとは違い照星、照門を合わせずに点を標的に合わせるだけで済む。どちらが素早いかは、言うまでも無いな?」


 的場薫の解説に耳を傾けながら、何か友恵のハードルが僅かに上がったような気がして胃に来る物を感じた。所謂、緊張というものだ。

 考えたくなくて今まで考え無いよう努めていたのだが、もしかすると彼は友恵に一年前の復讐をしようとしているのではないか?

 だとすれば、甘んじて受け入れるつもりでいたのだが、こう大勢の前で恥をかくのは少しキツイ。


「標的を倒したいなら、サイトを使い安定した姿勢で落ち着いて狙うこと。――では、二人とも訓練再開だ。レディー・ゴー」


 合図と共に、標的が一つ上がった。

 友恵はグリーンドットサイトに浮かぶ緑の光点を標的の胴体部分に合わせ、トリガーを弾く。先程と同じように、三発のエネルギー弾が発射され的を撃ち倒す。

 標的が倒れると、直ぐ様、別の標的が起き上がり、友恵は焦りつつも冷静に銃口をスライドし照準を移す。


「サイトを使えば正確に標的を狙える。それは分かったね?」


 また標的を全て撃ち倒した頃を見計らい、的場薫が解説を始める。


「弾種によっては薄い障害物なら貫通する事が出来る。東出くん、やってみてくれ」


「ん? あぁ、俺だけしか出来ないのか」


 今度は標的が起き上がると共に、バリケードに見立てたベニヤ板も一緒に起立した。

 東出はアイアンサイトで照準を合わせる事をものの一瞬で済ませると、連続して八発の『.30-06 スプリングフィールド弾』を撃ち放った。銃弾はベニヤ板を易々と貫通すると全て的の心臓部へ命中した。

 最後の標的が倒れると共に、カキンッ、という甲高い金属音が鳴り響いた。クリップ式弾倉が空となり、クリップが排出された音だ。


「アメイジング。百発百中だね」


「バカが。止まってる的に当てるなんざ誰だって出来るだろ?」


 東出の言葉に、先程から何発も外している友恵は密かに頬を赤らめた。


「注意すべきは、銃弾は何かに当たると少なからず弾道を変化させるものだ。それは物理法則によるものだが、まぁ詳しくは授業で習うだろう。――兎も角、貫通したからといって、必ずしも標的に命中するとは限らない」


 的場薫は自身の『敵性銃器』の使用弾である『.44マグナム弾』を取り出し、ジェスチャーを踏まえながら説明をする。


「因みにストームライフルのエネルギー弾では、ベニヤ板だろうと貫通はしない。さっき東出くんが“自分だけしか出来ない”と言ったのは、そう言う意味だ」


 ストームライフルの銃弾は、“スタンガン”と同じく高圧電流だ。例え通常弾で撃ち抜く事の出来るベニヤ板であれ、絶縁性のあるバリケードに当たれば、静電気が表面で拡散するだけだ。

 もし穴が空いた場合は、違法銃器として銃刀法違反の罪に問われる。


「よし、二人とも有り難う。もう下がって良いよ。――何故、こんな初歩の初歩をわざわざ実演付きで説明したかと言うと、実戦になると忘れる生徒が多いからだ。授業でも学ぶような基礎だが、しっかりと復習しておくように 」


 的場薫の許しが出て、目立った恥をかく前に下がれた事に心底安堵した。


「じゃあ、これより射撃訓練を始めるけど、ここで幾つかの班分けをする。それぞれの役割に合った班に分かれて、訓練を行ってもらう」


 すると先程までのんびりした面持ちで訓練の成り行きを見守っていた他の生徒会役員が、前に出てきた。

 どうやら四人で手分けして指導を行うようだ。


「東郷くん、住田さんは三科会長のもとへ。東出くんと和泉くんは美坂さんのもとへ。残りは柊さんのもとへ行って、訓練を行うように」


 名前を呼ばれた生徒会役員は、それぞれ手を振るなり一礼するなり反応を見せた。

 そう言えば、的場薫は誰も担当しないようだ。どうやら彼は、全体訓練の担当なのだろう。


「それから里浦さんは僕の所に来るように」


 違った。

 そしてよりにもよって、二人きりで訓練を行う事になってしまった。


 友恵は声は出さなかったが、あまりの驚きに愕然とした。

 また胃に来る物を感じ、同時に気が遠退いた。何とか失神は免れ、その場に踏み留まる事が出来た。


「はい、では散開。皆、頑張ってね」


 それを合図に、全員が行動を開始し各々の班割り通りに移動する。

 的場薫はと言うと、真っ直ぐ友恵の前まで来る。友恵は勇気を出して、何故に二人きりなのか問い質してみる。


「あ、あの、何で私だけ……?」


「まぁ、単純に『適性銃器』が拳銃だからかな」


 そう言われれば、納得せざるを得ない。

 確かに『適性銃器』が自動拳銃なのは、友恵と的場薫の二人だけだ。


「それでだけど、ちょっとした試験を受けて貰いたいんだ」


「試験……?」


「まぁ、そう身構えなくても。ちょっとピットを走って貰うだけだから。いつも通りで良いよ」


「いや、でも私、あれ苦手なんだけど……」


 「大丈夫大丈夫。さぁ、レッツゴー」不安と困惑の只中に居る友恵などお構い無しに、的場薫は肩を掴み別の訓練所へ押して行く。

 先程、東出が言った通り、友恵は押しの強い男性に弱いらしい。

 言われるがまま、状況に流されて行くのであった。











 

 東出くんの『適性銃器』は『スプリングフィールドM1』半自動小銃、『M1ガーランド』と言った方が分かり良いですね。

 個人的に、あの空クリップが排出される時の金属音が好きです。が、当時の日本軍等は銃撃戦の中でもその音を聞き分ける事が出来たそうで、弾切れが相手に露見していたそうです。

 ボルトアクション式が主流であった時代では、クリップ式のセミオート式は画期的な小銃だったそうですが、何事も問題は付き物なのですね。そこが面白かったので、採用したのですが。

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