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銃器使い達の狂宴 ―少年少女の戦場―  作者: 梨乃 二朱
第二章:里浦友恵と過去の目覚め
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act.6

 取り敢えず今年はこれで終わりです。

 年内に二十部。切りが良いので。

 次回は元日にお会いしましょう!






 

 そう言えば、喉が渇いた。

 バスの中で眠っていたからか、体が水分を欲している。

 駐屯基地で東出から渡されたスポーツドリンクは、既に飲み干してしまっていた。水筒も無いし、喫茶店まではまだ少し距離がある。


「あ、確かこの辺りに公園があったような……」


 いつもの通学路から少し外れ、住宅街に設えられた公園へ向かう。そこなら自動販売機があったような気がする。

 歩くこと二分。

 目的の公園に辿り着き、ベンチの傍に自動販売機があることも確認できた。


 友恵は小走りに自動販売機に歩み寄り、財布から小銭を取り出し挿入口へ押し入れる。

 ペットボトルは少し多いので、缶ジュースにしよう。お気に入りのメーカーの物は無いが、この際、贅沢は言わないでおこう。

 緑茶を購入すると、傍らのベンチに腰掛け、プルタブを開ける。一口付けて、ほっと息を吐いた。


「フゥ、染み渡る……」


 何と無く呟いてみたが、思いの外、婆臭い一言だったので何か恥ずかしくなった。

 ふと、空を眺めてみる。

 すっかり日が長くなって、まだ西の方がうっすらと明るい。もう直ぐ、夏になるな。


 そう思ったのを最後に、友恵の意識は途切れる事となった。











 ふと立ち寄った公園。

 その行動を取った事は、最早、運命と言えた。

 公園のベンチには少女が一人、気持ち良さそうに眠っていた。缶ジュースを絶妙な傾き加減で保持した少女は、何か良い夢でも見ているのかとても穏やかな表情をしていた。


 美しいというより、可愛らしい寝顔に思わず見とれてしまうスグル。

 安心しきった表情に僅かに掛かる黒髪、カッターシャツの胸元から覗く白く柔らかい肌に慎ましやかな谷間、スカートから伸びる程よく引き締まった足が、やけに色っぽく無防備で、スグルという若者を欲情させるには十分過ぎた。


 どれ程の間、彼女に見とれていただろうか。

 とうとうスグルは内から溢れ出す欲求に抗いきれず、息が荒く苦しくなるのを他所に、羽織っていた上着を脱ぎ始めた。



















 解散後、本日の反省会をするべく集まった『生徒会』メンバー。

 役員メンバーはすっかり暗くなり薄気味悪くなった校舎の中を駄弁りながら進んで行き、生徒会室に腰を落ち着けていた。

 とは言え反省会とは名ばかりで、実際は雑談がメインとなる。話題は専ら、里浦友恵がバスの中で起こした珍事についてだった。


 里浦友恵がやらかした奇行は、小隊内の機密事項として扱われる事となった。

 その事に関して、決して口外せず本人に報せる事もせず、ただ隠し通す事で全員が納得した。

 どんな内容だったか。

 それは本当に衝撃的なものであり、とても言葉には出来ない。ご想像にお任せする他に無い。


「これからは休暇を増やした方が良いでしょうか? 住田さんの負傷の件も鑑みれば」


 定位置らしい位置に腰掛けた三科凛子生徒会長は、朗らかな面持ちを僅かに歪めて呟いた。

 それに応えるのは的場薫の役目だ。副会長の的場薫は、いつも通りお茶汲みとして全員分のコーヒーを用意しながら「もっと根本の問題ですよ」と言葉を紡ぐ。


「圧倒的に人数不足です。頭数が足りないんですよ」


「むぅ、やっぱりそうですよねぇ。十一人じゃ半端ですし、二個分隊だけっていうのも心許ないですよねぇ」


「特に今回のような総当たり戦じゃ、数の面でも技量よ面でも不利です。もう大会まで時間がありませんよ? 練度の事を考えると、人員を増やすには今しか無いと思います。どうせ一年生から引っ張る気でいるんでしょうから」


 三科会長は頬杖を付き「当たり前です」とふてぶてしく答えた。

 的場薫は全員にコーヒーを配って回る。コーヒーと言ってもインスタントである。安っぽくも芳ばしい香りが室内に広がった。


「目ぼしい一年生には粗方声を掛けたのですけど、やっぱり尻込みされちゃいましてね」


「まぁ、そりゃそうでしょうね。会長の妹さんは? どうしてダメなのですか?」


「断られまして。自分には才能が無いとかで」


「二年生で良ければ、心当たりが何人かありますけど?」


 二人の会話に割り込むように、美坂彰が声を上げた。


「二年生ですか……。気乗りしませんが、一応どんな人か聞きましょう」


「委員会の連中なんですけど、腕は確かです。『学生会』とは関わりは無いと言ってました」


 クラス委員長を勤める美坂は、他の委員会の生徒と繋がりが深い。何故か生徒会長よりも。


「半端な素人よりは使えると思いますが?」


「また君はそんな事を。今度も里浦さんを追い出そうなんて考えて無いよね?」


「そ――――ッ! もうそんな事は思ってないよ………」


「全く、ちゃんと和解したのか?」


「それは、タイミングが無くて…………」


 的場薫に説教される美坂。

 里浦友恵が使い物になると思っていなかったのは、何も彼女だけではない。教育していた的場薫以外、誰も里浦の秘められた才能に気付く者は最後までいなかったのだ。


「フッ、彰は里浦に嫉妬していただけだろう?」


 ずっと黙ってコーヒーを啜っていた柊綴が鼻で笑いながら核心を突く。美坂は面白いくらいに顔を真っ赤にして、「そ、そんなんじゃ無い!」と声を荒らげた。

 因みに的場薫はよく分かっていないらしく、頭に疑問符を浮かべながら柊綴に視線を向けていた。


「まぁまぁ、嫉妬してたのは皆おんなじですから。――――それより、その二年生というのは何の委員会ですか?」


 まだ反論したげな美坂だったが、これ以上は恥の上塗りと気付き「……風紀委員です」と呟いた。

 瞬間、三科会長の表情が一気に曇りを見せた。


「風紀――? あそこは『学生会』の温床だった場所です。そんな方々を迎え入れるつもりはありません」


 断固拒否の構えを示す三科会長。

 それを勇めるのは、席に着いた的場薫だった。


「前年度は、ですよ。役員が総入れ換えになったので、目くじら立てる程では無いかと。それに、腕が立つなら歓迎すべきでは?」


「薫くん、貴方は少し寛容が過ぎます。奴等が我々に行った、いえ、落ちこぼれと認定した罪も無き生徒達に行っていた事を忘れたのですか?」


 三科会長の言葉に全員が昨年度に起こった事件の数々を頭に思い浮かべただろう。

 犯罪未遂から犯罪そのものまで、掘り起こせばヘドが出る程に胸糞が悪くなる事は間違いない。


「許す事が出来てこそ、初めて『学生会』を打ち倒す事が出来たと僕は思いますよ?」


 しかし、的場薫はこの中の誰よりも殊勝な思想の持ち主であった。

 『学生会』を許すと、彼は嘯く。

 それは『生徒会』役員の面々に酷く衝撃を与える発言であった。


 驚愕に言葉を無くす三科会長。

 「チャンスは誰にでも与えられるべきです」的場薫は続ける。


「どうですか。もしも『学生会』残党がこの学園に居るならば、高校生活を送りながら更正するチャンスを与えてあげるというのは?」


「貴方は何を考えているのですか!? そんな事、出来るわけ無いでしょ!」


「やるんですよ、会長。貴女を縛り付ける過去から逃れる為にも」


 諭すように静かに言葉を紡ぐ的場薫に、三科会長は反論をしようとして止めた。

 彼の言葉は至極真っ当で、どんなに受け入れがたくとも受け入れざるを得なかったからだ。


「我々には後が無い。この私に妥協しろと言うのですね?」


「いえ、妥協などする必要はありません。ただ認めるだけです。もう『学生会』など存在しないという現実を。そして『学生会』のメンバーだった生徒を、ただの生徒として受け入れるだけで良いんです」


 そして三科会長は静かに溜め息を吐き、「勝てませんね」と呟く。


「貴方は変わりましたね。顔に傷を負ってから。一体、その傷は何を教えてくれたのですか、薫くん? ――――フフッ、答えたく無いならば、まぁ良いでしょう。それにしても、貴方を副会長に選んだ一年前の私を褒めてあげたくなりましたよ。やはり私には貴方が必要なようです」


「買い被り過ぎはよくありませんよ」


「買い被りではありませんよ。惚れた弱味ですね。今の彼女に飽きたら、いつでも私のもとへ来てください。今度こそ、私の全てを貴方に捧げましょう。純潔だけでなく、ね」


 いつもの朗らかな面持ちに戻るや否や、とんでもない告白をする三科会長。

 これには流石の的場薫も、「からかわないで下さい……」と頬を赤らめるのだった。











 

 夜道で変質者に遭遇した場合、「助けて!」と叫ぶより「110番して!」と叫ぶ方が効果的らしいです。変質者が怯むんだそうです。

 年末ですが身辺の安全配慮には気を配るように、皆さん気を付けましょう。


 それでは、良いお年を!

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