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銃器使い達の狂宴 ―少年少女の戦場―  作者: 梨乃 二朱
第一章:里浦友恵の憂鬱な学園生活
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13/27

act.10

 ドアに付いた友恵は、左腕を大きく振り上げ力の限り木面に叩き付ける。

 木製のドアは簡単に壊れ、ドアノブから蝶番までをも破壊し倒れる。と、同時に突入を図り、中で待ち構えていた敵性プログラムと対峙する。


 ストームライフルのグリーンドットサイトで狙いを付け、トリガーを弾く。三発の『6.5mm Ele弾』が撃ち放たれ、真正面に居た敵性プログラムを撃ち貫いた。

 そのまま銃口をスライドさせ、次の標的を緑色の光点で捉えようと試みる。が――――


「ダメだ。それじゃ遅すぎる。今の一秒で蜂の巣にされているぞ」


 背後で友恵の動きを観察していた第二分隊隊長、的場薫が待ったを掛けた。


「良いかい。ここは戦場だ。使っている弾薬は非殺傷性のものだが、殺るか殺られるかの世界とそう変わりはしない。当たって合格の試験をやってるんじゃ無いんだ」


 カービンモデルのストームライフルを肩に凭れさせる分隊長が、左手の指で鉄砲を作り解説をする。


「必要なのは実効制圧力。如何に数を効率良く撃ち、敵を怯ませるかが重要なんだ。少し見ていろ。――リセットして下さい」


 咽頭マイクに呼び掛けると、先程、友恵が撃ち倒した敵性プログラムが復元される。

 ドアは壊してしまった為、元に戻る事は無いが、それ以外は突入前の状態に戻された。


 的場薫は友恵を下がらせると、ストームライフルのコッキングハンドルを引き突入準備を済ませる。

 「突入!」怒声と共に部屋へ飛び込み、ストームライフルを構えた。

 一番手近な敵性プログラムに狙いを付けるも一瞬で済ませトリガーを弾く。矢継ぎ早に飛び出るエネルギー弾は、瞬く間に敵性プログラムを撃ち貫く。

 その後はあっという間で、流れるような動作で三人の敵性プログラムを撃破した。


「屋内での近接戦闘ではサイトに頼りきる必要は無い。エリアで敵を捉えさえすれば、自ずと体の中心を狙える筈だ」


 その鮮やかさに見とれ、友恵は呆けた顔をしていただろう。

 エリアで敵を捉えるという説明通り、彼は敵を目視で捉え射撃したのだ。それも三人同時に、なぞるような銃捌きで。


 と、不意に友恵の頭に手のひらが乗せられた。

 ヘルメット越しであった為、直接感触を確かめる事は出来なかったが、それが的場薫の手のひらと直ぐに分かった。直ぐ隣に居るからではなく、こういう事がしょっちゅう起こるからだ。

 最近になってだが、彼は友恵が集中力を欠いていたり、また何かで落ち込んでいたりしていると、こうして頭を撫でるように手のひらを置いてくる。優しく力強さを感じる手のひらに、友恵は思わず顔を赤らめてしまう。


「標的は狙って撃つ、狙って撃つではなく、すぅっとなぞるように撃つと良い。特に対複数戦の時は、線ではなく面で攻撃するように心掛けるんだ」


「は、はい!」


「うん、良い返事だ。これは練習だから何度失敗しても何度でもやり直せる。難しい事でも、今なら何度でも試せるんだ。心行くまでやってみなさい」


 そして頭を撫でる時は、大抵口調が少し変わる。

 穏やかでありながら厳しさのある、優しさを感じる口調だ。


「じゃあ、もう一度だ。――リセットお願いします」


 友恵はストームライフルの銃身を見下ろし、先程の彼が見せた動きを復習してみる。

 突入後、一番近い右手側の敵性プログラムから狙い、左に銃口をスライドさせながら交じり合った瞬間にトリガーを弾く。


 一連の動きは、まるで空気が流れるように鮮やかだった。それが友恵に出来るか、正直自信は無い。

 けど、失敗してもやり直せるなら、やってみる価値はある。


 決意を新たにした友恵は、先程と同じくドアに付き「突入!」と力強く叫んだ。









「んあぁ……疲れたぁ……」


 大きな欠伸を一つする美坂彰は、すっかり日の落ちた空を見上げて今日一日を振り返った。

 小隊、分隊間のコミュニケーションは概ね良好。個人の戦闘能力も着々と伸びて来ているし、この調子で行けば他校の部隊にも引けを取らないレベルにまで上達するだろう。


 ただ一人、問題は里浦友恵にある。

 的場薫が手を掛けて育てている隊員だが、その成長は芳しく無い。ほぼ毎日、銃を取りピットを駆け回っている里浦だが、やはりまだ動きにぎこちなさがあり、それは素人に毛が生えた程度と言える。まだ一年生の方が使えるというものだ。

 彼女の何がいけないのか。

 それは極端に自信の無いところだろう。今日一日、彼女の訓練模様をモニタリングしていた雨竜教師が、的場薫が何故あんな才能の無い娘を育てようと躍起になっているのか理解できないと嘆いていた。

 努力は認めているようだが、それに付随する結果が思わしくないらしい。


「的場も、結構意味不明なところあるからなぁ。何にせよ、ダメな奴は早目に摘み取った方が小隊の為だと思うけど……ん?」


 不意に屋内射撃場に明かりが灯っているのが見え、彰は足を止めた。

 完全下校の時間まではまだ少し時間はあるが、流石にもう留まっている生徒は居ないだろう。小隊のメンバーはとっくに帰ってるし、誰かが消し忘れたと見て間違いは無い。


「ったく、経費が無いだどうこう言ってる癖に、こういう所はいい加減なんだよな、うちの学校は」


 気付いてしまったからには、無視するわけにはいかない。

 彰は進行方向を射撃場へ向けた。


 射撃場は静まり帰っていた。

 使用時には必ず監督役として居なければならない事務員の姿も無かった為、使用者は居ないだろうと高を括った。

 やはり消し忘れか、と呆れながら照明を消灯しようと事務室の中の照明装置を弄ろうとして、ふと監視カメラに目が行った。するとそこには、居ないと思っていた使用者の姿があったのだった。

 それも意外な人物であった。


「あれって、里浦さん?」


 後ろ姿で確証は無いが、戦闘服姿の女子生徒がPDWモデルのストームライフルで練習に励んでいた。

 マズルの先に付いたサプレッサーが、ただでさえ小さい電磁突撃銃の銃声を更に消し去っていたようだ。


「こんな時間まで、ずっと練習していたのか?」


 小隊が解散したのは、もうずっと前になる。

 それから二時間以上も、黙々と射撃練習に精を出していたというのか。


 彰は深く溜め息を吐き、事務室を出る。

 そのまま射撃場へ足を向け、里浦友恵の元まで歩んで行った。











 次々に現れては移動を繰り返すホログラムに翻弄されながら、友恵は必死に銃撃を行う。

 パワードスーツのスイッチを切っている今、三発バーストに設定したストームライフルの重みと反動が直に伝わってくる。

 重たくて、狙いが付け辛い。


 何故、パワードスーツの電源を切っているのか。それは的場薫からのアドバイスであった。

 パワードスーツの着用が義務付けられた今時の兵士は、どうしても道具に便りがちになってしまい、個々の技術向上が妨げられてしまっているという持論を披露した彼は、射撃技術の上達が芳しく無い友恵に一度自らの腕で練習してみるよう促した。特に『適性銃器』が拳銃である友恵には、ライフルをスーツ無しで触った経験など無いこともお見通しであった。


 結果は散々である。

 撃ち漏らしや人質プログラムへの誤射等、減点多数。

 パワードスーツの恩恵を無くせば、ここまで酷い結果となるとは思ってもみなかった。


 それにストームライフルの重みを直に感じている今、腕への疲労は蓄積するばかり。最近出来た手のひらのマメも、トリガーを弾く度にズキズキと痛む。

 おまけに普段はバイザーのHUDが示してくれる敵兵の位置を、自らの視覚と反射神経で見出だせなくてはならないので、精神的に疲れが来る。


 ようやくステージを終了した友恵は、ライフルをテーブルの上に置いて深く息を吐く。

 そしてバイザーと一体型となったヘルメットを外し、コンソールに表示された成績を呼び出してみる。

 先程に比べれば、良くはなって来ている。が、やはり酷い結果であることに変わり無い。


「それだけ頑張っておいて、結果はその程度?」


 不意に背後から声を掛けられ、友恵は盛大に驚いた。悲鳴を上げなかっただけ、自分を誉めてやりたい。

 恐る恐る振り返ると、そこにはとっくに帰宅したと思っていた同じ分隊の隊員、美坂彰が腕を組んで立っていた。

 先日、助けてくれた時のような眼差しとは違い、確かな苛立ちと怒りを感じる瞳をしている。


「貴女、自分が小隊の足を引っ張ってるの気付いてる? 的場は何も言わないから仕方無いけど、皆、貴女に迷惑しているのよ」


 鋭く刺のある言葉は、友恵の胸に深く突き刺さる。

 一体、自分が何をしたというのか。突然現れたかと思えば、ストレートに悪口を叩かれてしまった。


 反論出来ず押し黙っていると、美坂は力強い足取りで友恵の傍まで寄ってくる。

 何をされるのか、ビクビクと肩をすくませる友恵を無視して、コンソールに表示された訓練結果を一通り眺める。散々な結果を見た美坂は、更に剣呑な面持ちとなる。


「こんなの、一年生の方がまだマシだ。よく進学出来たものね?」


 それはパワードスーツの恩恵があっての事であり、今はそれを放棄しているのだ。成績が悪いのは、そのせいである。

 そんな事情など知る由もない美坂は、更に鋭い言葉を続ける。


「努力は認めるけど、全然進歩しないんじゃ、それは無駄な事なの。分かる? そんな無駄な努力を続けるなら、いっそのこと小隊から離れる事を考えた方が良い。私達には後が無いの。貴女のようなダメな娘を、育てている暇は無いのよ」


 決定的な一言。

 絶望の淵に立たされた友恵は、目の前が真っ暗となる。

 ふと、耳の奥、脳から響く声にボロボロとなった心が更にうちひしがれる。


『貴女のようなダメな娘、何で私から産まれて来たんだ!?』


 いつか母から言われた言葉がフラッシュバックし、胸が締め付けられる思いに苛まれた。


「良い? これからの身の振り方、ちゃんと考えなさいよ?」


 言いたいことを全て言い終えた美坂は、肩で風を切りながら去っていく。

 残された友恵は、ただ膝から崩れ落ち、声もなく涙を流していた。











 どのくらい時間が経ったろうか。もう時間の感覚など麻痺し、一分なのか一時間なのかすら分からなくなっていた。

 けど、射撃場の照明が点いたままであることから、それほど時間は立っていないようでもある。


「里浦さん、まだ居るのか?」


 何処からか声が聞こえる。

 それが誰の声か、誰に向けられて放たれた声なのかすら理解できない友恵は、反応することが出来なかった。

 それを不振に思ったのか、声の主らしき足音が近付いて来るのが分かった。


「あぁ、こんな所に居たのか。…………休憩してるって感じじゃ無いね?」


 間仕切りの端から顔を覗かせた人物は、今一番会ってはいけない人物であった。

 その人物は力無く座り込む友恵の前に屈み込むと、「どうした?」と朗らかな顔をして問い掛ける。


「何があった? 話せるかい?」


 何処までも優しい声音。特徴的な紅い双眸は、本当に心配してくれているのだと友恵に教えてくる。

 それが今の友恵には、辛くてならなかった。


 また涙が溢れだして来て、それを止める術も見付けられず、ただ垂れ流す。

 彼は自らのハンカチで頬を伝う雫を拭ってくれた。それでも涙は止まらない。


「言ってごらん。少しは楽になるかも知れないよ?」


 朗らかに微笑む彼の顔が、どうしようもなく友恵を苦しめた。

 涙に歪む彼の顔を直視することが辛く、友恵は俯いてしまった。そして、何とか伝えねばならない言葉を紡ぎ出す。


「ごめん……なさい…………」


「何を謝る事がある? 何かやらかしたのか?」


 友恵はゆるゆると力無く首を左右に振り、辛く苦しい言葉を続ける。


「わたし……よわくて……ダメで……ごめんなさい…………」


 意図した通りに伝わったか、それは分からない。けど、これだけは言っておきたかった。

 もう二度と彼、的場薫の前に姿を現さない為にも。


「…………誰に言われた?」


 的場薫は厳かに問い掛ける。

 しかし、それは答える事が出来なかった。そんな告げ口のような真似は、なけなしのプライドが許さなかった。


「君をいじめていたという女子連中か」


 首を左右に振る。

 知っていたのかという疑問と、それも当然かという納得が友恵の心の片隅で産まれる。

 あれだけの事、他に誰かの耳に入り人づてに彼に届いたのかも知れない。


「なら、美坂さんか?」


 僅かに躊躇い、首を左右に振る。

 しかし、その僅かな躊躇いが彼に答えを与えるものとなった。


「美坂さん、か……。あの娘は、直情的で思ったことをオブラートに包まず口に出す悪い癖があるからな。悪気は無いんだが、それでよくトラブルになってたし」


 独り言のように人物評価を下す的場薫。

 しかし、どんなに言い繕った所で美坂の指摘は的確であり、それが友恵を深く傷付けてしまった事は変えようの無い事実だ。


「的場くんは、何で私を選んだの…………?」


 ほとんど無意識の問い掛けに、彼はどんな反応を示したか、俯いていた友恵は分からなかった。

 けど、反対側の間仕切りに背中を預けるように座る様は見てとれた。


「何で。何で、か……。そうだね……。君、去年の今頃、『学生会』にいじめられてただろ?」


 思わぬ発言に、友恵は弾かれたように顔を上げた。

 そこにはいつもと変わらぬ朗らかな顔をした少年が居た。


「覚えて……たの……?」


「そりゃあ覚えてるよ。何せ、僕がこの学園に来て最初に助けた娘だからね」


 彼は覚えていた。

 友恵がいじめられていた事も、それを助けた事も全て覚えていたのだ。


「わ、わたし……お礼も言わないで……的場くん……いじめられてたの知ってて……無視して……」


「ん? そんなこと気にしてたのか? 律儀な娘だなぁ」


 そんなこと、と彼は笑う。

 けど、友恵にとっては恥ずべき行動であった。

 恩知らずで人間のクズのような行為は、恐らく一生友恵を苛むだろう。しかし、それは友恵自身の罪であり、彼には一切関係の無いことだ。怒ることはしない。


「別に去年、見て見ぬ振りしてたのは君だけじゃ無いしね。逆に面白がって加わってた連中、今のクラスに何人居ると思う? そいつら、今は何事も無かったかのように僕に話し掛けて来るんだよ? もう終わった事だと思って、ヘラヘラ媚びへつらうような顔してね。少しは恥を知れってんだよな。それに比べりゃ、見て見ぬ振りの方がまだマシな方だよ」


「けど……、じゃあ、何で……?」


「君は知らないと思うけど、僕はずっと君を見ていたよ。あれから、僕が助けた後の学校生活は楽しく無かったんじゃないか? 僕への贖罪の念と、またいじめられるんじゃないかって恐怖のせいで、学校に来るのも怖かったんじゃないか? だって君、いつ見ても何かに怯えるような暗い顔してたじゃん」


 その言葉に、友恵はただただ言葉を失った。

 見ていた、と彼は言う。

 ずっと、気に掛けてくれていた。それどころか、どれ程の苦痛を抱き一年間を過ごしたかを分かってくれていた。


「僕が君に来て欲しいって言ったのは、君は自力が強いと思った事もそうだけど、何より学校生活を楽しんで欲しかったからだよ」


「楽しむ……?」


「そう、もう『学生会』の影に怯える必要が無くなった今、君を苦しめるのは僕への後悔の念だけだ。それさえ取り除ければ、君は明るい顔をしてくれるんじゃないかって思ってね」


 的場薫という少年は、何と心が広く真っ直ぐな人なのだろうか。

 復讐されるだなど、とんでもない思い違いをしていた友恵とは大きく違う。友恵が暗い顔をしているのは、自分のせいかも知れないから、それを解決しようと奔走出来る強い人だ。

 ならば尚更、彼に迷惑を掛ける分けにはいけない。


「でも、わたしは“ダメな娘”だから……」


「だからクビにしてくれって? それじゃ『学生会』がやってた事と何も変わらないじゃん。弱い奴は必要ないと、まるで道具のように捨てるなんて真似は、僕には出来ないね」


「けど、皆に迷惑掛けちゃうから……!」


「迷惑くらい掛けて何が問題なんだ。少なくとも、僕は迷惑なんて思っちゃいないしね。――良いか、最初から出来る奴なんて一人も居ないんだ。部隊も同じだ。最初から完璧な部隊なんて無い。出来る奴も居れば、出来ない奴も居る。そういう連中が手を取り合い、助け合いながら、部隊は部隊として初めて成り立つんだ」


 真剣な眼差しと真摯な言葉は、友恵の心を優しく包み込んでくれる。


「もし、君一人のせいで潰れるような部隊なら、君が抜けたところで遅かれ早かれ潰れるだろうさ」


「それでも、私、堪えられる自信が無くて……」


「何も一人で堪える必要は無いさ。僕は君の味方だ。僕だけじゃない。きっと東出くんも味方になってくれるよ」


 そう言って、いつものように手のひらを頭に乗せてくれる的場薫。大きく優しい手のひらの温かさに、友恵はまた涙が溢れて来てしまった。


「あぁ、もう一度言っておくけど、僕は君を迷惑だなんて感じた事は一度も無い。ましてや、ダメな娘なんて思ったことなんて無いよ。――だから、もう泣くな」


「ありがとう…………」


 的場薫はただただ優しく、また涙を拭ってくれる。

 その優しさは今は友恵を苦しめる事無く、傷付いた心を癒してくれた。


 友恵はこの時、静かに決意をした。

 彼の優しさに答えるため、逃げてはいけないのだと。もう泣かない為に、強くならなければならないのだと。

 その為ならば、こんな苦しみなどに負けてはいられない。必ずや誰からも文句を言われない、彼という優しい少年が誇れるような人間になるのだと心に誓うのだった。











 翌日の事である。

 訓練場へ向かう中、何気無さを装い東出にある問いを投げ掛けてみた。恐らく彼なら、歯に衣着せぬ物言いで答えてくれる筈だ。


「東出くん、私って小隊に迷惑掛けてるかな?」


「んあ? 何言ってんだ、お前?」


 東出は不意を突かれた質問に、思わず目を丸くしたのも束の間、即座に答えをくれた。


「んなもん俺が知るわけ無いだろ? まぁ、お前は射撃下手くそなんだから、気い抜きゃ一年に追い越されるぜ?」


「そっか……私、迷惑掛けてるか……」


 彼は嘘を吐かない。

 どんな時も、自分の気持ちに正直に居られる所が彼の良いところである。


「だから、知らねぇっつってんだろ? …………お前、小隊から抜けようとか思ってんの?」


「いや、別にそこまでは……」


「なら良かった。お前が辞める方が部隊に迷惑だからな」


 何気無い東出の一言。

 それは思いも依らぬ言葉であった。


「どういう事……?」


「だってお前、住田に慕われてんの知らないのか? 勤勉で努力家、おまけにそれを気取らない謙虚な態度が、結構ウケてるみたいだぜ。そんなお前が小隊から抜けてみろ。あいつも釣られて辞めちまうかも知れないだろう? そりゃ迷惑以外の何物でも無いってもんだ。分隊支援火器が使えんの、今のところあいつだけだからな。それに二人も抜ければ戦力がた落ち」


 知らなかった。

 まさか住田が、友恵に対してその様な想いを持っていてくれていたとは。

 比較的よく会話をするわけでも無いのに、慕われていたとは知らなかった。


「って言うかさ、何で今そんな事が気になったんだ? 小隊の誰かに言われたのか? 迷惑だから辞めろとか何とか」


「いや、別にそう言うわけじゃ……」


「あぁ、言われたのね。誰かに」


 鋭い問い掛けに、少し躊躇を挟んでしまった事で、やはり気付かれてしまった。

 東出は普段からやる気の無い態度を取っているが、実は鋭い感性の持ち主であることはいつかも述べた筈だ。この時も惜し気無く疲労された。


「まぁ、気にすんなや。別にそいつが迷惑って感じてるだけだろうしな。――しかし、迷惑だから辞めろってのも幼稚な発想だな。部隊ってのは互いに助け合って成り立つもんだろうに。一匹狼なのか、そいつは?」


 東出は昨日の的場薫と似た言葉を述べる。


「お前に比べりゃ、一年連中の方が気に食わねえがな、俺は」


「そうなの? あんなに上達してるのに?」


「バカ言え。あの程度で他校の選手と渡り合えるわけねぇだろ。的場も何度かさりげなく注意を促してるみたいだが、どいつもこいつも学年で飛び抜けて訓練時間が長いっつう理由だけで天狗になってやがる。素人に毛が生えた程度で浮かれてんなら、その内、頭打ちだろうな。――その点、お前を見本にしてる住田は堅実なもんだぜ? 常に向上心があって、努力を惜しまない」


 総評を述べる東出は、普段と違って逞しく見えた。

 何より、一年生や他のメンバーをきちんと見ている事に、意外性を感じずにはいられなかった。


「東出くんって、意外と真面目だよね……」


「んだよ、お前。落ち込んでると思ったらニヤニヤしやがって。つうか、見てりゃ普通に分かるだろ?」


「普通に見てるだけじゃ分かんないよ」


「そりゃお前は鈍感だからな。俺は物事に常に敏感なの」


 ふてぶてしく腕を組む東出を見て、何だか笑みが溢れる友恵。

 本当に的場薫が言ったように、彼は友恵の味方をしてくれた。

 彼は小隊の愚痴を溢しながらも、友恵の悪口は決して言わなかった。むしろ誉めてくれてさえいる。それが何より嬉しかった。


「まぁ、誰に何言われたか知らないけど、マジで気にする必要は無いぞ。気にするくらいなら、見返す程の勢いで的場辺りに迷惑掛けりゃ良いんだよ。あいつは人に頼られるの好きなタイプだろうしな。それにな。俺はお前を迷惑とか思った事は無いぜ?」


「うん、そうだね……そうするよ」


 意外に敏感な東出には、友恵が落ち込んでいる事は筒抜けだったのだろう。

 最後に励ましの言葉を貰い、友恵は笑みを返す。


「ありがとう、東出くん。私、頑張るよ」


「お前、何か初めて笑ったとこ見るな。いっつも暗い顔してるから、ちょっと心配だったんだよ」


「え? 私、いつもそんな暗い顔してた……?」


「初めて会った時なんか、自殺すんじゃねぇかと気が気で無かったぜ? まぁ、人間辛い時ほど笑ってる方が良いんだとよ。だから笑ってろ」


「そっか……そうだね」


 友恵は満面の笑みを浮かべ、東出を見上げる。

 彼は少し戸惑ったように頬を掻くと、同じ様に笑みを浮かべて見せた。


 こうして今度こそ、最悪の劇場は幕を下ろす事となった。












 こういう話しは、数話に分けた方が読みやすいかもしれませんが、一章十話に納めたかったので、残り二話分で無理矢理纏めた形になりました。

 こんな感じで、一章は終了となります。次回は設定集となります。

 二章から本格的な戦闘が始まります。きっと。ストーリー的に。

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