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やめて下さい、死んでしまいます!  作者: 雲雀 蓮
幼少期(幼児~中学生)
8/40

・・・・思いだしたく、ありません

若干の暴力表現があります



よく人に言われる言葉がある。



それは「変わったね」。

ただ、それだけなのだ。








そう、過去を振り返ってみれば私は普通の子供だった。

しかし今は、人とのかかわりが自分で作れない。

関わること自体が苦痛であり、自殺行為とも感じる。


変わった、と言われる分岐点はきっとあの日だ。



「あーー!!!」

「・・・っ!?」

「うるさっ瑠佳にーちゃん、うるさい」

「え、なんで今二回うるさいって」

「うるさいー」

「反抗期かよー」

「で、なんだ?」

「あ、俊哉じゃん。久しぶりーサッカーしようぜー」

「しないっていってんだろ」



まぁ、いつものように三人は仲良くしていたんだ。

一学年下の颯人も仲良くしてもらえてうれしそう。

その実サッカー(瑠佳くん)で繋がっている三人なのだと思うと少し笑ってしまう。


なぜか颯人は二人を兄として慕っている。

なぜだ、私の姉としての威厳が足りないのか。

自覚はあるけれど、やはり悲しい。





ちなみに私の隣には、あの向日葵ちゃんがいる。


あの絵の件以来仲良くなったからだ(私は唯一無二の友と思っている)。

そして向日葵ちゃんは、私の似顔絵をいつか書き直すと言っていた。

貰ったものに釣り合うほどに、きちんとしたものを渡す。

だから少しだけ、時間を。と。



そこまでしてもらうのは申し訳ないと断ったのだけれど。

彼女は案外強情で、その厚意を受け入れざるを得なかった。

まぁ、いいか。



「ごめん、天音!今日一緒に帰れない!」

「あ、僕もだ。ごめん、ねーちゃん」



月曜日は二人の所属しているサッカークラブ練習終了時間が一番遅くなる日らしい。

だから一週間(五日)の内一日だけ、一人で帰れる日がある。



向日葵ちゃんは帰る方向が違い、俊哉くんは家に帰る前に習い事。

月曜日の放課後は私だけの時間が長く取れるのだ。

心休まるハッピーマンデー。



「うん。颯人気を付けて帰ってきてね」

「あれー、俺はー?」

「わかったー」

「ばいばい、向日葵ちゃん、俊哉くん」

「おう」

「ばいばーい、天音ちゃん」

「えー俺はー?」

「・・・ばいばい、瑠佳くん」

「おう、また明日な!」



こうして私は一人、下校したのだ。

季節もあって、すでに赤い日が沈む中を。






その数分後。

見知らぬ何者かに頭を強打されるまでは、無事に。






目を覚ました私の目に入ったのは黒。

真っ暗な部屋に押し込められたのに気付くまでに時間が掛かった。

ほんのり月明かりが見える。

どうやらずいぶんと時間が経ってしまったようだ。

外気そのままのような部屋の中にいることが分かった。

余りの寒さに体が震える。


すりガラスの窓から黄色い光が見えた。

気温からも分かったが、完全に日が暮れている。

颯人たちのクラブももう練習は終わっただろう。


寒くて目覚めるべきなのに、なぜかぼんやりしたままの頭で状況把握を試みた。


どうしてか体が動かない。

体を何かで拘束されているみたいだ。

声を出そうとしても、口元の何かが邪魔をする。


普段はできることができない恐怖と、暗闇の中一人という恐怖。

それによって涙腺が決壊した。



ぼろぼろと涙がこぼれていく。

頭からも同じような感触があるのも不安要素だ。



このまま死んでしまうのではないかと、本気で感じた。




ぎぃっ

きぃ・・



床がきしむ音と、扉の開く音。

誰か、私以外の人間が呼吸をする音がする。

人がいる、ということを認識して、上の方を見た。



そこには、大柄の男の人がいた。

私を見下ろすように立っているその人は、私の横っ腹を蹴って笑った。

突然の行為で驚いて声も出なかった。



「だから、言ってんでしょ?お宅のお嬢さんを預かっているって。

 一千万くらいくれれば、返しますよ。声でも聴きます?」



喉から発しているとは思えない高音。

声を変えて電話をしているみたいだった。

そんなことよりも蹴られた部分が熱と共に痛む。



「ほら、おじょうちゃん。お父さんだよ」



そう言って口元にあった何かを取り去って、携帯電話を押し付けてくる。


言葉なんて出る訳ない。

代わりに嗚咽が零れ落ち、それだけでもお父さんの心配そうな声が返ってくる。



「天音!?きこえているか?!天音!」

「天音!怪我してない?!」



お父さんの声と一緒にお母さんの甲高い声が聞こえる。


ここで漸く、誘拐の二文字が頭に入ってきた。



「はい、じゃーお金の準備、お願いしますねー」



これ以上の会話は必要ないと、誘拐犯の男は電話を切った。

そして、もう一度私の体を蹴った。



「ぅあ!」



嗚咽と混じった悲鳴は存外小さかった。


その後も何度か蹴られた。

二三回よろけたようで私の体を踏みつけた。

それに髪をつかまれて、顔を覗き込まれた。


あまり喚かない私に興味をなくした様子の男はそのまま隣の部屋に移動していった。



最後に一発蹴られた衝撃で体が一回転した。

背中が何か硬いものにぶつかった。

ひりひりとする感覚は、今まで味わったことのないものだった。



「ひっく、ふぇ」



泣いてはいけない。

あの男は、きっと私が泣いたり、嫌がったりすることをする。


さっき電話を切った後の顔には、残虐性が覗いていた。



ないちゃ、だめだ。



そう思っても涙は止まらない。

猿ぐつわは取られたまま。

でも助けを求めても、ここには誰もいないことは分かっている。



誰かがいる可能性のある場所ならば、街灯の一つだってあるはず。

ここはきっと誰も使わないような廃墟か何かだ。

埃っぽさが物語っている。




早く、誰か、助けて。




そんな叫びを押し込んだまま、気を失った。






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