安心の基地を得たのです
とある春の日だった。
サッカーボールを小脇に抱えて走ってきた瑠佳くん。
その傍らにはとても不愛想な男の子。
驚いて逃げたのだけれど、回り込まれた。
「よっ!」
片手をあげて挨拶をしてくる。
そして、その傍らの男の子も少し頭を下げる形で続いた。
何もしないのは流石に失礼なので、会釈を返した。
「こいつな、足すっげー早いのにサッカーやらないって言うんだ!
天音も説得してくれー」
明らかに無理な相談だ。
人の好み云々に口出しできない。
かつ、私には人見知りの気がある。
この初対面の彼に対して口なんて利けるわけない。
精いっぱいの勇気を振り絞って言えたのは否定の言葉だった。
「む、むり・・・!」
「・・・・・・・・・・・・・(はぁ)」
男の子の漏らしたため息におびえてしまう。
私に対する落胆とは考えたくない。(瑠佳くんへのだと思いたい)
どんな返事をされるのか考えただけで怖い。
そして寡黙そうな彼は重そうに口を開いた。
「サッカーより、走る方が好きだ」
「そう言わずにさー」
「ほうっておいてくれ」
そう言ってどこかへ行ってしまう。
一体彼は何者だったのだろうか。
詮索する勇気はもちろんない。
先ほどの会話(単語)ですでにぐったりしているのだから。
「ちぇっ。つまんねーの」
瑠佳くんが悪態を少しついた後、私に手を伸ばす。
「かえろーぜー」
これも勿論逃げられなかった。
**
次の日。
言い方がとても悪いが、登校時に昨日の彼と出くわしてしまった。
向こうも私の顔を覚えていたらしく、会釈をしてきた。
こちらも同じように返す。
そして少し近づいて口を開いた。
「お前も大変だな」
「・・・・?」
「あの、鎌田ってやつ。しつこい」
「、えっと」
「断っても断っても付きまとってくる。お前も、そうなんだろう?」
「・・・えっと、うん」
どうやら仲間認定されてしまったようだ。
あながち否定できないのが悲しい。
昨日は結局逃げきれなかったし。
というか、回り込まれた時の心拍数が酷かった。
ドドドドドって感じだった。
瑠佳くんに関わっていたら早死にしそうだ。
「俺は、陸上みたいに、目に見える結果が欲しい。
確かに自分が成長しているって、知りたい。
自分の限界をみてみたい。
それには、サッカーじゃだめなんだ。
だめだと、思うんだ」
ぎゅぅっと、力を込めて手を握る。
サッカーの良し悪し、陸上の良し悪しは私にはわからない。
でも、彼なりに強い思いがあるのだろう。
瑠佳くんに通じるかどうかはさておき。
「なんだか変な話をしたな」
「・・・ううん、いいと思うよ。自分のしたいこと、あるの」
「そうか。そう言われると、嬉しい」
にこりと笑った彼は、ほぼ無表情の時とは全然違った。
まるで、瑠佳くんと同じように無邪気な顔。
少し大人びているだけで、彼だって私たちと同じ年なんだ。
話ついでに彼はこう問いかけてきた。
「俺は高野俊哉。お前は?」
勿論、私は答えるのに時間が掛かった。
けれど彼は私の返事を待っていてくれた。
それが瑠佳くんとは大きく異なる部分だった。
まぁ、とどのつまり大人びている、というだけだ。
まるでどっしりと地面に立つ大木のような存在。
この後から、彼と一緒に居るときはゆっくりとした時間が流れていった。