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やめて下さい、死んでしまいます!  作者: 雲雀 蓮
青年期(高校生~)
39/40

一人がいいです



半袖ではもはや寒いと感じるほどに涼しくなってきた。

長袖のシャツのボタンを閉じながら、カーディガンを着た方がいいかもしれないと思う。


学園祭にまた一日近づいたと、カレンダーに印をして家を出た。











授業が終わり次第始まる体育祭の練習と、クラス企画の準備。

そのどちらに属すればいいのかわからずに立往生していると向日葵ちゃんが私の手を引いた。

どうやら教室の装飾の作成のようだ。

鋏と絵の書かれた厚紙を渡されたので、切っていけばいいのだろう。

早速作業を始める。




あの後、体の異常は見当たらなかった。

お姉さんによるカウンセリングにも大きな問題はなかった。

そもそも私が錯乱することもなかったため二日程度で退院することが出来た。

向日葵ちゃんにはすごく心配されたが、内心罪悪感でいっぱいだった。


私の所為で瑠佳くんが悪者扱いされてしまったのだ。

瑠佳くんのせいで、私が倒れたと向日葵ちゃんたちが勘違いして喧嘩したという。

違うとは言ったのだけれど、肝心の瑠佳くんが仲直りをする気がないらしい。

同じクラスで同性のはずの俊哉君ですら口を利いてもらえない、と。




どうして、こうなっちゃったんだろう。

彼が悪いなんて、あるわけないのに。

落ち着いて考え直せば直すほど、彼に非などないのに。



どうすれば前のように、みんな仲良くいられるのだろうか。



ぼんやりと手元の鋏を動かしながら考える。

彼は、悪くない。絶対に。




そう力強く言えれば、こんな状態にはなっていなかったのに。

きっと私の所為で、彼らは、意味のない喧嘩をしているのだ。






わたしが、あのとき、倒れなければ。

わたしが、なぜか、怪我をしなければ。


きっと、今まで通り仲良く───。







「天音?大丈夫?」



突然かけられた言葉に驚いて鋏から手が離れてしまった。

放物線を描いた鋏は、運良く誰にも衝突せず床に着地した。


自分でも何が起きたかわからないくらい、無意識の行動だった。



「ご、ご…め…なさ」



声が震えた。

余りのことに誰も口を開かない静寂に包まれた教室は、私には耐え切れなかった。

碌に力の入らない両足を叱咤して立ち上がって逃げ出すしかなかった。




















手が滑ったなんて、あるはずがなかった。

確実に刃先は彼女の方を向いていた。


確実に、彼女に怪我をさせようとしていた。




理由が自分でもわからないなんて、誰が信じるだろうか。

あぁ、でも今の私は正常じゃない、だからだと言うのか。



ちがう。違うの。



私はずっと、彼女が羨ましくて、妬ましくて。

だから、殺したかったの?



ちがう。









ちがうよ。



向日葵ちゃんは、私のかけがえのない大切な友達。

嫌いになられても、嫌いになんてなるはずない。








「…ぁ」



廊下をとぼとぼと歩いていると瑠佳くんを見つけてしまった。

タイミングの悪く向こうもこちらを見ていたので目が合ってしまう。

そして、なぜかこちらに向かってきたのが確認できた。


この精神状態で彼とまともに話が出来るはずもない。

逃げよう、そう思って走る。

廊下には学園祭の準備をする学生が何人かいた。

それを避けながら走るから、向こうもこちらもそんなに早くはない。


どこへ、どこへ行こう?

人がいないような場所へ。

元は保健室に行こうと思っていたけれど、このままでは無理だ。

保健室に逃げ込んでしまえば彼は何の苦もなく私を追い詰められるだろう。


二人ともまともに言葉を交わさないとほどなのだから。

きっと原因の私なんてもっとひどいことになるはずだ。



また誰かに怪我をさせるかもしれない。

また誰かに嫌な思いをさせるかもしれない。

そんなこと、あってはならない!









二階に上り、わざと回り道をして教室企画の準備の横を通る。

中央階段とは別の階段を上る。

三階に上ったら今度は中央階段へ。


肩で息をするくらいに息が切れていたが、それでも足は止めなかった。

止めてしまえば、彼が追いついてしまうような気がして。



心臓がうるさいくらいに鳴っていて、やけにうるさい。

あぁ、私今生きているんだなぁなんて。

今さら涙が出てきてしまう。



四階、もとい屋上。

普段は屋上に上る階段は閉鎖されている。

柵のある階段の前に来て、彼が見えないことを確認してから飛び越えた。



悪いことをしている自覚はある。

でも飛び越えてしまった。できるとは、思わなかった。


感動したのは束の間。

そのままなるべく静かに階段を登った。


彼の姿は、踊り場からも見えなかった。




















「ふぅ…」



盲点が、一つあった。

普段は閉鎖されている屋上。

つまり、外へ出る扉も鍵がないと開かない。


そして私がいま都合よく階段の鍵を持っているはずもない。

加えて、



ガシャン



鍵はしっかり閉まっている。

袋のネズミとはよく言うが、まさにその状態である。

困った。

このまま戻れば鉢合わせするかもしれない。

そもそもいないかもしれないけれど。


もう走る力が出ない。

立ってもいられず床にずるずると座りこむ。

明日は確実に筋肉痛で苦しみそうだ。


背中、というか後ろに誰かいる状態が怖いので壁に背を向けて座りなおす。

誰もいない。

ひんやりとした床と壁が心地いい。

とても、静かだ。







「…はぁ」







何をしているんだろうか。

今頃みんな学園祭の準備をあわただしくやっているのだろう。

私が抜けても大したことじゃないけれど。

あのあとみんなは何事もなく作業を再開できただろうか。


また迷惑をかけてしまった。

そう思って目を閉じる。









もし、屋上の扉が開いていたらどうしただろうか。







きっと私は──────





















「…なに」

「な、なにもないけど?」

「ふーん」

「ちょ、ちょっと待ってよ。どこ行くの?」

「……」

「た、確かにあたしには関係ないかもだけど、でも、でも!」

「天音の傍にずっと居れたら一番いいんだけどな」

「…ぇ?」

「…なんでもない、わすれろ」

「え、ちょ、やっぱどっか行っちゃうのかよ!!」








「どうした?横井」

「うーん…わかんない」

「なにがだ」

「どっちがいいのかなーなんて、いまさらだよね」

「…」

「前はこのままでいいんじゃないか、って思ってたんだけど」

「…結局俺たちが決めることじゃないってことじゃないか?」

「そ、かもね」

「信じるしか、ないだろう?」

「…うん」

「どんな結果になったとしても、な」

「う゛ん」

「だから、泣くな」

「な゛いでないもん」













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