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やめて下さい、死んでしまいます!  作者: 雲雀 蓮
青年期(高校生~)
29/40

自分自身で決めきれたのも初めてです



初めての自分一人の部活見学は、特に何もしなかった。

小田先輩の話をずっと聞いていただけだ。


まるで自分と話をしているような心地。

勿論彼の方が語彙と言う意味では年上と言う感じであったが、語り口はどうも似ている。

どもったり、閊えたり、息が乱れたり。

身に覚えのある状態に陥っている。分かる、その気持ち多分分かっている。


言いたいことと、言えることが同じじゃない。



「あ、え、えう」



どうやら舌がもつれたようだ。

あるよ、それ、私もある。

間違えて舌噛んじゃうよね、あるある。

きっとみんなにはないんだろうけれど。



どうやら本当に週一回の活動のようだ。

学園祭の時に部誌を発行するらしい。特に何でもない日は本を読んだり、作品を書いたり。

月一くらいにちょっとした小冊子を作る。

これが活動まとめ。

ジャンルは何でもいいと言われた。

ジャンルも何も、何を書けばいいのかすらわからないのだけれど。

気の向くまま、が一番いいと言われた。

・・・大体鬱のような状態なのに。



「よく、僕がやるんだけど、日常にあったこと、とか、かいたり、するよ」

「日常・・・・」



大体固まっている自分を思い浮かべる。

出会いも何もない。

ただただ時間が流れているだけのように思う。

そのまま言ったら、彼は更に言った。



「それ、ぞれの時間に、何もない、ってこと、ないんだよ」



きっと何かがあるんだ、と。

・・・・そうかな?気づいていないだけかな?

まだ私にはよくわからない。

そんな思いが顔に出たのだろう、彼は少しだけ口元を歪ませた。


「ご、ごめん、なさい。え、偉そうに、」

「い、いえ。・・・・よく、わからないんです、けど」


でも、


「でも、もうちょっと、かんがえて、みます」



もしも、私が知らない何かが世界中に転がっているのならば?

その何かの中に、大事なものがあるのならば?

気づけなかった私が、今までの私ならば、気づけた私は違う私になれるのではないか?









本当に自分が求めるものは一体なんだろうか。

変わりたい、でも変われない。急いで変わらなくてもいい。

そうやって心が移ろってきたのに。

本心じゃぁ、やっぱり変わりたくて。

今までの自分を精いっぱい否定してやりたくて、仕方がなかった。

だから・・・迷ってしまったのかもしれない。

堂々巡りなのは自分でもわかっている。またやり直しだ。


・・・・でも今度は、否定したくない。

できることならば、今までの自分だって認めたい。

じゃないと、じゃないと。




私が何のために生きてきたのかわからなくなるから。












がば、っと勢いよく目が覚めて起き上った。

急に身を起こした所為でちょっと頭がくらっとした。



まだ朝の5時だ。

登校の仕度には早すぎる。

もう一度寝ようにも目だけがパッチリ醒めてしまっていてどうにもならない。

喉が渇いて仕方がないのでリビングまで行って何か飲むことにした。



そろそろ、と足音を殺して階下に行く。

誰も起きていないのは確かだ。

みんな7時以降に起きて動き回るから。


リビングから台所の冷蔵庫まで行くと、床がまだ冷たいことに気付いた。

春になってもやはり朝方と夜は冷える。

音が出るからとスリッパを脱いだのは失敗だったかもしれない。

持ってくればよかった。なんて後悔した。


冷蔵庫にある天然水をコップに移して飲んでみる。

やっぱり朝は水がいい。

水は味がないとよく言われるけれど、そんなことない。

ちゃんと水それぞれに(という言い方も変だけれど)味や風味がある、と思う。

味の濃いものを食べる前に飲むとよくわかる。

体が浄化されるような心地も私は好きだ。


「・・・・・・はぁ」


どうしよう。

どうしたら、いいんだろうか。


部活に入る気はなかったけれど、本田先輩の話を聞いたら、入ってみたくなってきた。

なぜだろう。なにか、心惹かれる何かがあったわけじゃない。

彼の雰囲気にのまれたわけでもない。



なんとなく、という言葉が適当であるほど曖昧なもの。

それがよく言えば切っ掛けなのだろうか。

・・・なんとなく、なんとなく?


違う、の、かな?


水と同じように何か、確かな理由はあるのにわからないのかもしれない。

今ははっきりとした理由が見えないだけなのかもしれない。

いつか分かる日が来るのかもしれない。

濃い日常にばかり気が取られてしまっているからわからないのかもしれない。

私自身が体感している時間の本質に迫ることができていないのかもしれない。



推測ばかりで自分も混乱してきた。

もう一口水を飲む。美味しい。




『やってみてから考えてもいいんじゃないか?』




どうしてか、俊哉くんの言葉が蘇ってきた。



























「はい、では今日は部活登録の日です。

 今までの見学から決めた部活に入る手続きを各自行ってください。

 今配った用紙を部活動の顧問の先生に渡してください」



朝のホームルームで石垣先生がにこやかに説明する前で、向日葵ちゃんは私の用紙を覗いてきた。



「え、天音文芸部入るの?」

「・・・・う、うん!で、でもね部員が、居なくて、廃部っ・・」

「ふんふん、なるほど。分かった、任せて!」



そう言うと(全部を言えたわけじゃないけれど)、向日葵ちゃんは先生にもう二枚用紙をもらいに行った。

なぜ二枚。その視線に応えるように向日葵ちゃんは笑った。


「私も入るー」

「え」

「兼部ってやってみたかったんだー。丁度水曜日は美術部休みだし、あっちも自由だし」


一枚目には美術部、二枚目には文芸部と書いてファイルにしまった。

私はもちろん一枚だけ。

もう一枚はどうするの?と訊いたらにんまり笑って、答えてくれなかった。





お昼休み、いつも通り4人で昼食。

入学して何日も経ったからか、クラスメイトも固定の場所で固定の人と一緒に過ごすようになった。

わかりやすくて助かるけれど、他クラスの人がいてもいいのかな?

ちらりと見まわしてみても、だれもこちらなど気にしていない。

というかクラスメイトじゃない人が混じっているような・・・。

いいのか。うん、大丈夫なのだろう。大丈夫、大丈夫。普通だから。


「ってことで、俊哉ここにサインを」

「お前、詐欺でもする気か?」

「いやいや、そんなに悪い子じゃないからさー。ほらほら書いてー」

「・・・・『入部届、文芸部』・・・・は?」

「天音のためにひと肌脱いでよー」

「いっそ全裸になってよー」

「おい、鎌田。お前までなぜ乗る?」

「せっかく天音が入りたいのに、廃部になったらどうするのー」


うわああ、やめて、やめて。

私の所為で俊哉くんを振り回さないで!

心拍は多分100くらいになっている。

息が乱れて大変な状態になってきた。

オーケーしなくていいよ、むしろ迷惑だって斬っていいよ。

そっちの方が私の精神は安定するから。


「・・・・ふぅ、やれやれ」


しゃっしゃ、とペンが紙上を走る音がする。

嘘でしょ、書いてるの?書いちゃったの?



「これでいいか?」



そこには確かに俊哉くんの名前が書かれていた。

なななな、なんで。



「一応参加はできると思うけど、試合前とかは無理かもしれない」

「いいじゃん、いいじゃーん。幽霊部員ってやつでも」

「それは部長に失礼だろう?」

「・・・・岩男め」

「お前それ漢字で書いてみろよ」



向日葵ちゃんはなぜか瑠佳くんと俊哉くんに対しておざなりと言うか、喧嘩腰だ。

そして二人も悪乗りしてしまうから対応に困ってしまう。

話の流れに私一人乗れない。

おろおろと困っていると、俊哉くんがこちらを見ていた。


「やってみなきゃ、わかんないからな」


私の質問を先回りするように言った。

その時の笑顔がいつものような硬い表情とは真反対だった。

ふにゃ、と崩れるような笑顔を初めて見た。



「そうだぞ、だからサッカーも」

「絶対にやらない」

「なんでだー」

「やりたくない、興味がない、お前の相手をしているほど暇じゃない」

「な、なんだとーこのー」



今度はなぜか瑠佳くんと俊哉くん同士で軽い言い争いに。

みんな仲良くしようよ。友達じゃないの?

っは、これが俗に言う「喧嘩するほど仲がいい」ってやつなのだろうか。

・・・・私も、仲良くしたい。



「そ、そうだよ、と、俊哉くんは忙しいんだよ!」

「え!?」

「やーいやーい怒られてやんのーばーか」

「な、馬鹿って言った方がばーか」

「二回言ったな?」

「う、うううみんなで集中砲火してくんなよー」

「あはっはは、ざまぁ」



つい言った言葉に瑠佳くんがとても驚いたようだった。

他の2人も驚いた様子、いやクラスの何人かもこちらを見た。

普段しゃべらないのでそのせいだろう。

ちょっと恥ずかしいというか心拍が上昇したけれど、仲間入りできたことが素直に嬉しかった。














「・・・・・・・・・」

「・・・(ねぇ、あれガチ凹みかな?突っ伏して泣いてる?)」

「・・・(だろうな。俺たちはともかく、相原に言われたのが一番ショックなんじゃないか?)」

「・・・(そっとしておいてあげようか)」

「・・・(そうだな)」












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