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やめて下さい、死んでしまいます!  作者: 雲雀 蓮
幼少期(幼児~中学生)
21/40

幸せな時間だったと思います




今見ても心が浮き立つ。

「合格」の二文字が目の前の紙に乗っているだけなのに。

こんなにも嬉しい。

顔が自然とふやけていく。


「よかったね、姉ちゃん」

「うん」

「この間からずっとそれ見てるもんね」

「う゛」


はずかしさでうめく私の頭を颯人が撫でてくる。



「頑張ったね」



弟、ですよね。

そう言おうと思ったけれど、まぁ、家族だからこうほめてくれるんだろうな。

だって同い年の人はきっとほめてくれない。

みんなも同じくらいは努力しているんだから。

むしろ落ちている人もいるかもしれないし、こういう話題は学校ではできない。


だから、素直に甘えておこう。

学校でやらないように。


「うん、がんばったよ」

「えらい、えらい」


笑顔ができてきた。

前よりも少しだけ、笑えている。

それも追い風になっている気がする。

治ってきている、と思う。


人と話が出来るか、と言えばまだまだなんだけれどね。


でも少しでも笑顔で応えられれば、印象は変わってくると思う。


声が出なくても、笑顔でアピールできれば。

前みたいに首を振るだけじゃない行動ができれば。



もう少しだけでも、ましに見えるだろう。







高校生かぁ。

前は中学に上がれないとか思っていたのに。

今度は高校生。


中学までは義務教育だから、普通にあがれたんだよね。

それを知らなかったからあんなに慌てたんだけれど、今度はそうはいかない。

義務じゃない。


周りの人を困らせてまで入ったんだから、頑張らなきゃ。

・・・頑張らなきゃ、いけないよね。



早くも「頑張らない」というルールから外れてきている。

でも選んでしまったから。

この選択肢を続けていかなければならない。


他の皆とも同じように動きたいって願ったんだから。

だから、これはそれのツケだ。




勉強だって、なんだって自分の力だけでやり通さなくては。







「え、天音ちゃん高校生になるの?」

「う、うん」

「おめでとう。頑張ったね」



カウンセラーのお兄さんも優しく頭を撫でてくれる。

とても優しい顔で私を見つめてくれる。

案の定次の言葉は心配事だった。



「でも、大丈夫?高校からは勉強の質も違うし、知らない人だって多いと思うよ」

「・・・だ、だいじょう、ぶ」

「あんまり大丈夫そうじゃないか。仕方ないよね」



何かあったら必ず相談して、とお兄さんは言ってくれた。

そうならない方がいい、と彼は笑っていたけれど。

きっと私のことだから、そう言う事もあるかもしれない。


もう月に一度程度まで減らしたカウンセリングの時間。

受験期だったから減らしていた、というのもある。

けれど、もっと大きいのは対人恐怖が減ったから。

受験の時も何とか乗り切れた、というのが大きかった。


こうして話せるのが最後であればいい。

そう願うしかない。



バタバタ、とあわただしい足音がする。

加えて粗っぽく扉が開かれる。

お姉さんだ。仕事帰りに来ると、こんな感じに現れるのだ。



「あー、よかった天音ちゃん発見!」

「・・・な、つ、る?」

「そんなどこぞの古代文明で生まれたロボットみたいに振り返らないでよ。怖い!」

「こ、こんにちは」

「うん、おはよう。天音ちゃん。元気?」

「う、うん」



よかった、とほほ笑んだ様子のお姉さん。

勿論「おはよう」という時間じゃない。

そして手に持っていた荷物をお兄さんの机に置いた。

大きなカバンの中から何かを一つ取り出して私に差し出した。



「はい、天音ちゃん。合格祝い」

「え?」

「高校合格おめでとう!」



渡されたのは、綺麗にでも質素な感じに包装された細長い箱だった。

中を見ていいと言うので開けると、そこに入っていたのは


結構高そうなペンだった。



「え、え!?」

「あはは、大したものじゃないけどさ」

「いや、え、ええ?!」



充分大したものです。

これは、私なんかがもらっていいの?

ダメじゃないの?!


「っわた、しその!これ」

「遠慮しないで」

「で、でも」


「私の気持ち、いらない?」



しゅーんと悲しそうな顔になるお姉さん。

申し訳ないとか、嬉しいとか、気持ちが混ざり合って溶けていく。



「う、ううん!欲しい!」

「ならよかった」



ころりと変わった表情を見て、思う。

騙された。あれは演技だったのだ。



「・・・・大切に、使います。ありがとうございます」

「うん、こっちもありがとう」



ニコリと笑うお姉さんを見て、いつもの様にお兄さんがため息をついていた。



「那都琉、頼むからもっと静かに来いよ」








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