仲良し4人組、って思ってます
受験日。
心臓がはちきれそう。
今まで勉強してきた成果をみせてこい、と先生たちは言うけれど無理だ。
こんな人の多いところで、何ができるだろうか。
いや何もできないだろう、なんて反語を使ってみる。
でも本当に何もできない気分になる。
無理、だって。
「おはよう、天音ちゃん。今日は受験日和だねー」
「う、」
「ほらほら、リラックス―」
余りの緊張で返事ができなくなっている私の肩をほぐす向日葵ちゃん。
あぅあぅ言っていると、なんとなく気持ちがほぐれたように感じる。
そして受験日和って何?
このうっすら雲がかかったようなぼんやりした天気のこと?
突っ込めない、突っ込まない。さてどっち?
「お、はよぅ」
「うん、おはー」
ありがとう、と伝えたいけれど、どうせなら終わってから言いたいな。
今までずっと支えてくれたから、今日まで頑張れたんだって言いたいから。
うーん、気が付いたら頑張っちゃうのは癖なのだろうか。
直そうかな、ああ、でも直すのに頑張ってしまいそう。
うん、このままでいいか。
「さて、いきますかー」
「うん!」
数時間後。
日も暮れかけた時間帯。
赤い光が私たちを包み込む。
疲れた。
何がって、人が詰め込まれたような部屋にいたことが。
テスト自体は、なんてことなかった。
いや結果的にそうなった。
最初こそ緊張していたから、何も問題に手が付けられなかった。
でも例の呪文を唱えてから、ふっと体が軽くなるような感覚がしたのだ。
それをきっかけにして、周りが気にならなくなった。
全ての問題を難なく解き、見直しを二度できるほどに時間が余ったほどだった。
「ふぁー、つっかれたー」
「は?こんなもんよゆーだろ?」
「瑠佳くんって馬鹿なのか、天才なのかわかんないね」
「なんだとー」
「鎌田はもともと推薦だって取れるほどだから、そっちの方がよかったんじゃないか?」
「ふん、俺は実力主義なんだ」
「ふーーん?」
「なんだよ」
「別にー」
グダグダした足取りで、みんなで帰路につく。
歩いて帰れる距離って、本当に楽だ。
「受かったら、私たち高校生だよ」
「そうだな」
「・・・・高校生ってこんな風になるものなのかな?」
「受験以外の手順はないだろ?」
「そうなんだけどさ、そうじゃなくてもっとキラキラーって感じが欲しいなって」
「ばーか」
「なによ、瑠佳くん私に喧嘩売ろうっての?」
「お前はいつも俺に言ってんじゃん」
「あー、そうだっけ?」
「なんて都合のいい頭!」
「・・・・・・・・・・・・・・・お前らなんだかんだ仲いいよな」
「「どこが!!?」」
そう言うところが、仲良しなんだよ。
俊哉君がそう言った瞬間、慌てたのは瑠佳くんだった。
「天音、誤解だ」
「いや浮気ばれた亭主の言葉じゃんそれ」
「うるさいぞ、泥棒猫」
「え、私泥棒猫なのワロス。そそのかされるのが悪いのよほほほ」
「・・・・・ドロドロ昼ドラ」
「え、ちょ、ほんと天音、誤解だって」
焦る瑠佳くんがとても珍しい。
いつもはふざけた調子で繕っているのに、今は殆ど素だろう。
私たちの前だと大体こうなんだけれど。
「俺はいつだって、お前が───」
その後に続く言葉は出なかった。
顔を真っ赤にさせた瑠佳くんをはやし立てるような視線のせい。
向日葵ちゃんだ。
ちなみに俊哉君はまるで大木状態。
そこには誰もいませんよ、と言わんばかりの他人顔。
「・・・・・・・・・・・ぅあ」
言いたい言葉は頭の中。
外に出てこないもどかしさは、私も知っている。
だから慰め程度に頭を撫でた瞬間の瑠佳くんの声は弱弱しかった。
大きい道に入った時に向日葵ちゃんと俊哉君と別れた。
「じゃぁね。また学校で」
「おう、気をつけてな」
「うん」
「そっちもな。特に向日葵、お前は背後に気を付けろ」
「何?刺しに来るの?」
「かもしれないなぁー?」
向日葵ちゃんと俊哉君の家の方向は途中まで同じらしい。
で、瑠佳くんは私の家と同じ方向。
必然的に一緒に帰ることになる。
・・・前だったら耐え切れなかっただろうけれど。
今は平気。
彼は何も言わずに私の傍に居てくれる。
穏やかな時間をくれる。
「う、受かるかな・・・?」
今更ながらに心配になってくる。
ぽそっと呟いた言葉に彼は強い語調で言った。
未だに顔は赤い。夕陽の所為ではないのが分かる。
喉や手はそんなでもないのに、頬と耳が赤く染まっているのだ。
「天音が落ちるんだったら、それは誰も受からない難しい試験だっ!」
遠まわしな、それでいてすごい励ましの言葉。
きっと私はずっとわすれないだろう。
彼の気遣いを。思いやりを。優しさを。
いつか、彼にもらったこれらを返せる日が来るといいな。
ひと月後、私たちの合格通知が家に届いた。
「いっそさ、どーんといきなよー。どーんとさ」
「うるさい」
「お前意外と奥手だよな」
「お前が言うなよ」
「応援するよ、瑠佳くん。改め瑠ー佳」
「改める意味は?」
「君付け面倒」
「応援する気、あんの?」
「ただの出刃亀だ、安心しろ」
「・・・・・・・・喧嘩なら買うぞ」
「いや俺の喧嘩は非売品だ」
「え、ちょ、なにそれ、うまいこと言えたような顔すんな!」
「(どやぁ)」
「やめろって!」
柱で隠れるようなところで三人が話す様子を、学校のあちこちで見かけた。
(最初は気づかなかったけれど、先生たちから隠れているのかな?)
いつか混ぜてほしいなぁ。楽しそう。




