虎穴に入らずんば虎児を得ず、です
中学時代、一番大変だった時期は受験期だ。
(他の生徒も同じだっただろうとは思うけれど)
私の場合、どこの高校に入ろうかと話し合うのが辛かった。
(担任の先生及び生徒指導、加えて進路指導の先生に絡まれた。
勿論男女半々くらいなので、トラウマを刺激されたのだ)
本当に、辛かったとしか言いようがない。
『大学に入るかどうか、それとも専門を選ぶかどうか』
私の家族と私の視点はそこだった。
周りの教師たちの多くは、『高校に入学するかどうか自体』を考えろと言っていた。
確かにもっともだ。
こんな私がまともに生活できるわけがない。
高校は中学とは違って義務でも何でもない。
「それを分かっていて行くのか」、という隠れもしない怒気。
他の皆の前では「先生たちはみんなの進路を支えるよ」とか言っていた癖に。
受からせるつもりでないのか、社会のごみとお考えなのか。
それともただ単に脅しているだけか?
この程度の脅しでは、我が家の両親は屈しない。
もっと怖いことを前にされたから。
とどのつまり、説得をしたのは両親だった。
私は声もなくそこにいただけだったのだ。
両親は高校に行くのならば私立でもいい、と言ってくれた。
けど、経済面ですでに迷惑をかけているから公立がいいと言った。
また自分で通える範囲にある学校がいいとも。
この精神状態では専門科目を追究することはまだ困難である。
そう嘘を吐いて、普通科に進学した。
本当はこんなだから手に職を付けて生きていた方が安心はさせられると思う。
でも私の希望としてはもっと学びたいのだ。
なるべく頑張らない範囲で。
「本当に、大丈夫なの?」
「・・・・ぅ」
両親にはまた心配をかけてしまった。
何度も何度もしつこく聞かれた。
この回数が、心配メーターと同義。
今のところ、最大級である。
確かに、私だって心配だ。
知らない人ばかりのところに入っていき、生きて行こうというのだから。
今考えるだけでも少しだけ心が折れそうになる。
もっと言えば息が止まりそう。
でも、なんとなく。
本当になんとなくだけれど、できそうな感じがするのだ。
自信はないけれど。
そう言った私を優しく二人は抱きしめてくれた。
「天音が決めたのなら、応援するわ」
「なんかあったらすぐに言うんだぞ」
あの日を境に、颯人よりも私優先にしてくれるようになった。
それが申し訳なくて、苦しかった。
両親から自立するという意味でも、私は進学を選んだ。
「そっかぁ、天音ちゃんも同じとこ志望なんだね!やった」
「え」
「私も、そこに行こうと思ってたの。近いし、今後のこと考えたら楽かなって」
「・・・そ、なんだ」
「高校に行ってもよろしくねー」
「う、うん!」
こうは言っていたものの、もしかしたら私と合わせてしまったのだろうか。
なんて不安になる。
そうじゃないと何度も言われたので、信じるしかないのだけれど。
「俺も同じだって、なんで言わないー」
「自分で言えばいいじゃん」
「楽をしようとするな」
「というか、お前らも天音と同じ高校かよー」
割と真面目な顔で、
「まさか、俺と天音が同じクラスになるのをまた阻止するのか!?」
とか叫んでいる瑠佳くん。
「そんなわけないじゃん、それは被害妄想だよ」
なんてやり取りが繰り広げられる。
気づいたらこの四人でいるのが当たり前になっていた。
勉強会という名の今日の集まりだってそうか。
ピンとひらめいたように思い出す。
お弁当も一緒に食べてる!
「まぁ、ゆるーく勉強できそうな場所だよなー」
「瑠佳くんだんだんダメ人間になってきたねー」
「なに!俺は昔っから“真面目ないい子”だぞ」
「それは内申か?それとも家庭訪問か?」
「両方だ!」
「救いようないなー」
コントのようだ。
口に出さずに思う。
マシンガントーク過ぎて追いつけない。
聞こえてはいるのだけれど、反応できない。
とりあえず、問題集を解く。
「でも、天音があの学校選ぶのは意外だったなー」
「確かに!」
「そうか?」
「だって、不真面目そうなのが集まってそうじゃん」
「そこのところ、どうなの?天音ちゃん」
「・・・・・・・・・・え?」
唐突に振られた話題にシンプルに驚く。
声が出ない。
集まる三人分の視線。
「え、っと。・・・・・え?」
「あの高校選んだ理由って、なに?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・近くだったから」
余りにも時間が掛かってしまったからだろうか。
三人とも同じように黙り込んでしまう。
「・・・・あの、えと」
「もしかして、」
一度切られた言葉の後に続くのは何だろうと体が固まる。
「瑠佳くん、狙ったね」
「は!?」
「天音ちゃんの家から一番近い学校選んだでしょ!」
「そ、そんなことないし!!!」
「本当にか?」
「本当だって!!別に一緒に登校しようなんて考えてないし!」
「考えたのか」
「嘘がつけないねー。かわいそ、瑠佳くん」
誘導尋問ってこういうことなんだろうか。
一気に笑い声がはじけていく。
主に向日葵ちゃんのだけれど。
もだえ苦しむように頭を抱えてしまった瑠佳くんはからかわれるネタとされた。
顔真っ赤だよ、瑠佳くん。息をしなよ。
瑠佳くんの考えていることが、そのまま言葉になっているとは思わない。
私のために、学校を考えたのではないと思う。
だって、彼は何時だって両親の期待に応えたいと思っているのだから。
瑠佳くんが選んだ高校は、サッカーの強豪校の一つである。
(公立だから私立の様にはいかないけれど、それでもいい先生がいるとかいないとか)
そう、彼は昔から根本的なものは”変わっていない”。
・・・・あれ。
「そ、その。天音!」
「はい!?」
「天音は、俺と一緒に学校、いきたくない?」
あの日からずっと、待っていてくれた。
毎日、学校へ誘ってくれた。
瑠佳くんは、
「・・・・・ううん、行きたい」
ずっと、私のことを待っていてくれたんだ。
私の知っているままの状態で。
自然に笑えたと思う。
顔の筋肉が動いている感覚がする。
同じように瑠佳くんも笑ってくれている。
(きっと大丈夫だ)
こんなにも恵まれている環境にあって、心配なことはそんなにない。
前は迷惑かけちゃダメだとか、頑張らなきゃって肩肘張っていたけれど。
そうある必要はないのだ。
私がどんなにがんばったって、それで何ともならないことが多いのだから。
焦らずに、無理せず。
前の様に、甘えていてもいいのだ。
「私まだ迷惑かけちゃうけど、それでもみんなが一緒に居てくれたら嬉しいよ」
そう言うと向日葵ちゃんが優しく抱きしめてくれた。
「天音ちゃん日に日に可愛いんだけど、どうなの瑠佳くん」
「あーあーああーあー、うっせっ!!!」
「いつから片思いなんだ、鎌田」
「うーるーさーいー、お前らなんかには絶対言わない!!」
「いいじゃん、今天音ちゃん聞いてないから言っちゃいなよー」
「鎌田、早く(バンバン」
「図書室では、静かに!」
「はーい」
「・・・・」
「すみませんでした」
気が付いたら司書の人に三人が怒られていた。
そしてむくれ面の瑠佳くんが私と頑なに目を合わせてくれなかった。




