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やめて下さい、死んでしまいます!  作者: 雲雀 蓮
幼少期(幼児~中学生)
16/40

ぐっさりと釘を刺されました





「あのさ、天音ちゃん。焦ったって、意味はないんだよ」



カウンセラーのお姉さんが久しぶりに会いに来てくれた。

開口一番に言われたのは、お説教の一部だった。



「・・・・ぇ?」


「人間、そんな簡単には変われない。

 天音ちゃんなんか、もっと大変だよ」



お姉さんの方があまりなじめないのは、急に厳しいことを言うから。

今日だけじゃない。

前の時は、優しい時と厳しい時がランダムにあった。

だから今日はどっちだろう、といつも不安だった。



「・・・変われ、ないの?」



あまりにも彼女の声音が怖くて、声が一度途切れた。

その様子を見てから、お姉さんは大きくため息を吐いてそっぽを向いた。

私に対してのいらだちだろうか、と表情を覗うと彼女は眉根を寄せていた。

「なんて言えばいいんだろ」と小さく呟いてからもう一度私に向かった。



「天音ちゃんにとって、私ってどう?」



質問の意味がわからず、首を傾げた。

するとお姉さんは笑って言った。



「私は天音ちゃんにとって優しい存在ではないよね。

 天音ちゃんを根本的に救える力があるわけでもない。

 だから、天音ちゃんに嫌われても仕方はない」



私の表情を見たまま、また真面目な顔になる。



「私のことはいくらでも嫌っていい。でも私は天音ちゃん自身を嫌いになって欲しくはないなぁって思うよ」



そう言いきって、頭を撫でてくれる。

加えて、こうつぶやいた。

「嫌われているのには慣れてるから大丈夫だし」と。


その言葉にポロリと涙がこぼれた。

慣れる訳ない。

嫌っている人からの視線は小さいナイフだ。

例え目で確認しなくたって、わかってしまうのだ。


下手に暴力を受けるのよりも辛いことだ。



震える両手でお姉さんに抱き付く。

できる限り、力を込めて。


「え、なに。あ、慰めてくれてるの?」


最初は混乱しているようであったが、少ししたら抱きしめ返してくれた。

私の背中を優しく撫でてくれた。

その手は温かくて、柔らかくて、優しかった。


そして、その手が俊哉君の手と似ていることに気付いた。



「お姉さんは、何か武道やってるの?」

「ん・・・?葡萄?農家ってこと?」

「空手とか、柔道とか」

「あーそっちね。うん、やってるよ。合気道っていうやつ」



「強いんだよー」と冗談めかしに言って見せるお姉さん。

どう見たって華奢な人なんだけれど。


「なんで、始めたの?」

「んんー。なんで、なんでかぁ・・・」


なぜか真剣に悩みだしてしまう。

顎に指を持ってきて、引っ掻いている。

これは彼女の癖だ。

難しいことを考えだすとやってしまうらしい。

しかもそこそこ伸びた彼女の爪は確実に肌を痛める。

わかっていてもやめられないのだ、と笑ったのを覚えている。



「・・・なんとなく、かな」

「え」

「これと言って理由はなかったなぁ。そうした方が何か守れるかなーって思ったんだよね」



もっといい理由を絞り出そうとしているのか、まだ引っ掻いている。

ほのかに爪の間に赤いものが入っていくのが見えた。

やめた方がいい、の言葉の代わりに応答した。


「守る?」

「うん、あんまり役に立たなかったけどね」


苦々しく笑うお姉さんは、何かを言おうとしていた。

でもその声を遮るようにお兄さんが現れた。


「おーっす、時間だぞ那都琉―」

「あいあいさー」


荷物をいくらかまとめだすお姉さん。

顎から少しだけ血が出てしまっている。

そのことを指摘すると、彼女はまた笑った。



「夏樹には内緒ね」



首をこてん、と傾げてお願いしてくるお姉さん。

この人がやると本当に子供の様に見える。

幼い顔立ちと所作。学校の同級生とあまり変わらないのだ。

内緒、と言った時に人差し指を口元に寄せたのだってそうだ。



「それと、魔法の呪文を伝授してあげる」

「魔法?」

「そう。夏樹には到底使えない、魔法だよ」



そう言ってからわざと耳打ちをしてきた。

まるでお兄さんに聞こえないように意地悪をしているみたいだ。

(みたいじゃなくて、多分事実だと思う)


「ええぇ・・・」

「ふふふ、私も教えてもらったんだ、これ」


ごにょごにょ、と言い終わると彼女はお兄さんと入れ替わるように部屋の外へ出ていった。







その数秒後、瘡蓋と化していた部分が赤く染まっていたのが見つかって怒られていた。



「お前は、いったいいつになったらその癖治すんだ!?」

「だってしょうがないじゃん、癖なんだから治らないの!」

「嘘でも治す気見せろ!」

「うっさい、夏樹バーカバーカ!」

「子供か!」





なんだかんだあっても、仲良しな二人が私は好きだった。

そしてとても羨ましかった。








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